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奇術師

作者: せおぽん

かつて有名なマジシャンだった私も、すっかり仕事が減ってしまった。昔は、週に何度もTVに出演していたものだが最近は全く呼ばれない。


全てAIのせいだ。大爆発からの脱出マジックも、胴体切断から復活のマジックも、どうせ、AIのつくったフェイク動画なんでしょう?と鼻で笑って誰も見てくれやしない。


優れた奇術というものは最新の技術や心理学を駆使し、何百年もかけて実に高度な文化を披露しているというのに現代人は、ポッと出のAIなんぞに夢中になっている。実に嘆かわしいことだ。


とはいえ、AIの事を知らずに非難するのもフェアでは無い。奇術師たるもの時代に遅れてはいけないのだ。どれどれ、私も使ってみるとしよう。


ポチポチと、AIに指示を入力してみる。

「目の前の美女を消してみてくれる?」

ポワンと、煙があらわれて妻が消え失せた。


アンナが、居なくなってしまったのだ。


私は慌てて、「妻を戻して」と入力する。


ポフンと、煙があらわれてアンナがあらわれた。


彼女が気にしていた顔の皺が薄れており、妻は「10歳くらい若くなった気分よ」と言った。これがAIの忖度というものかと私は感心してしまった。


それから、私はAIにハマってしまいAIに与えるスクリプトのエキスパートとして、メディアに引っ張りだこになった。


私は、奇術師の名を改め、AIスクリプトの記述師と名乗るようになった。



記述師になってから、記述でアンナを消す事は無かった。彼女を失う事に耐えられないと知ったからだ。


私は思うのだ。私は彼女がいたから成功したのだと。


私は寿命を終えた。私は霊になって泣く妻を見ている。


アンナ。どうか泣かないで欲しい。


私は、今日、煙になってポワンと消える。


アンナ。笑っておくれ。皆が笑い楽しんでくれるから私は奇術師でいられたつもりだったけど、アンナ、君が笑ってくれるから、私は奇術師でいられたんだよ。


アンナ。アンナ。ありがとう。愛してる。

アンナ。どうか、どうか、笑っておくれ。笑って私を見送って欲しいんだ。


泣かないで。アンナ。煙になって消える私を、どうか、笑って見送って欲しいんだよ。



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