第二章 act 1 道を行く者たち
街道は、よく整備されていた。
石は均され、轍は浅く、
明らかに「人が使い続けている道」だと分かる。
「この辺りは、魔法国家の影響が強いな」
ハレが足元を見ながら言う。
「道の維持に魔術を使ってる感じ?」
ミレアが訊く。
「たぶん。
土系の魔法で固めて、
あとは人手」
「贅沢だね」
セラが小さく笑う。
この地域では、
冒険者ギルドが道の維持にも関わっている。
討伐、護衛、調査だけでなく、
“安全を保つ仕事”も依頼として成立しているからだ。
⸻
向こうから、人影が現れたのはその直後だった。
四人。
歩き慣れた足取り。
装備は派手ではないが、無駄がない。
「冒険者だね」
ミレアがすぐに気づく。
魔法国家では、
冒険者は半公的な存在だ。
国家に完全に属さず、
だがギルドに登録し、
身分と信用を保証されている。
魔物討伐、遺跡調査、護衛、運搬、雑務。
できることなら、なんでも仕事になる。
「軍隊じゃない分、自由」
「自由だけど、危険も自前」
セラが補足する。
⸻
すれ違う前、
向こうの剣士が足を止めた。
「やあ。旅人?」
年は二十代後半。
革鎧は使い込まれている。
「通過中だ」
ハレが答える。
「へえ、珍しい組み合わせだな」
剣士の後ろから、
ローブ姿の魔術師が顔を出す。
「魔力量、低め。
でも安定してる」
「失礼な言い方だね」
ミレアが苦笑する。
「褒めてるつもりだよ」
魔術師は悪びれず言った。
⸻
自然に、短い自己紹介が始まる。
「俺はレイン。前衛」
剣士が親指で自分を指す。
「後衛魔術師、フィオ」
「弓手のカーク」
獣人が軽く手を挙げる。
「回復役のリナ」
最後の僧侶が穏やかに微笑んだ。
典型的な編成。
だが、息が合っているのが分かる。
「長いの?」
ハレが訊く。
「三年くらい」
レインが答える。
「最初は寄せ集めだったけどな」
「死にかけて、ようやく噛み合った」
フィオが淡々と言う。
「縁起でもない」
リナが肘で突く。
⸻
ギルドの話題になる。
「この先の村、依頼出てたっけ?」
セラが訊く。
「最近はない」
レインが首を振る。
「平和すぎて、金にならない」
「でも、だからいい」
カークが尻尾を揺らす。
「俺は静かな村が好きだ」
「冒険者に向いてないね」
「分かってる」
全員が笑った。
⸻
ミレアがふと尋ねる。
「冒険者って、ずっと続けるの?」
一瞬、空気が止まる。
「……人による」
レインが答えた。
「稼いで辞める奴もいる。
死ぬまでやる奴もいる」
「俺は、次を考えてる」
リナが静かに言う。
「孤児院を作りたいの」
セラが目を瞬かせた。
「それ、いいね」
「だから、今は稼ぐ」
冒険者は自由だ。
だが、その自由は、
未来を自分で決める責任でもある。
⸻
別れ際、フィオがハレを見る。
「君たちは、冒険者じゃないね」
「違う」
「でも、似てる」
「記録係だ」
「ふうん……変わってる」
フィオは楽しそうに笑った。
「じゃあ、いい旅を」
「そっちもな」
彼らは再び道を進み、
やがて視界から消えた。
⸻
しばらく沈黙。
セラが言う。
「冒険者って、ちゃんと“生き方”なんだね」
「国家に縛られない代わりに、
全部自分で選ぶ」
ハレは前を見る。
「俺たちは、違う」
「でも、重なるところはある」
ミレアが微笑んだ。
遠くに、村が見える。
屋根は低く、
煙がまっすぐ立っている。
「行こう」
ハレは地図を取り出す。
この村も、
この道も、
出会った冒険者たちも。
すべてが、記録される。
そして、
交わった道は、また分かれる。




