彼女の幸せと私の幸せ
彼女の事を好きになったのはいつからだろう──
家が隣同士であり、私達は物心ついた時から一緒に遊ぶことが多かった。
彼女……鴻巣 蕾は私と違って女の子らしく、肩ほどまで伸びた綺麗な髪や、ぱっちりと開いた瞳。
彼女を見たほとんどの人が『かわいい』と思うだろう程の可愛さだった。
そんな彼女とは対照的に私はどちらかと言うとボーイッシュな感じで、背も蕾とは10センチ以上も離れており、髪もベリーショートで運動部にも所属しているため肌もこんがりとした小麦肌だ。
そして性格も正反対。
気弱で引っ込み思案な彼女と強気で男勝りな私──
いつも一緒にいる私達を見て周囲の人達から、いつからか"蕾ちゃんとカレン君"なんかとからかってくる人も続出するほどであった。
◇
蕾とは小学・中学も同じで、毎日のようにお互いの家にお邪魔したり、時には泊まったりもしていく中である感情が芽生える。
それは一言で言えば"恋"、それしかないだろう──
四六時中、頭の中は蕾のことでいっぱいだ。
彼女の透き通るような瞳、華奢な身体、そして女の子特有の高く可愛らしい声……全てが好きだった。
◇
彼女が進学校に入学すると聞いて頭があまり良くない私は必死に勉強し、無事同じ高校に入学することができた。
そしてクラスも同じで席も隣同士……これは運命なのだろう!
そう、信じていたのに……
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「カレン、私告白されちゃった!」
それは夏休みを終えてすぐの頃であったか、いつものように登校し、学校で自分の席についた瞬間放たれた矢のような言葉。
それは私の身体を貫いたかの衝撃だった。
「へ、へぇ! 相手は誰なの?」
心拍数が上がり、今にも叫び出したい気持ちを抑え彼女へ質問する。
「えっとねー、1つ上の先輩。同じ委員会の人なんだけど、私のこといつも心配してくれて。それで私も気になるなー……って思ってたら『好きだ!』って言われてびっくりしちゃった!」
(頼む蕾、ノーと言ってくれ。彼と付き合うなんて言わないで。蕾の一番は私でいて! お願いだから……)
普段神頼みなんてしない私も、今日ばかりは神様にそう内心祈っていたが……
「蕾はどうするんだ?」
「もちろん付き合うよ!」
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それからのことはよく覚えていない。
授業の内容や他の友達と何か話したことや部活のこと……全て忘れてしまうほどだった。
学校から帰宅し、自宅のベッドで着替えもせず仰向けになる。
私にとって初めての恋が失恋へと変わった……
目からは自然と涙がこぼれ落ちてくる。
泣いたのは小学生低学年の頃以来だろうか。
手で拭ってもそれは溢れ出てくる。
止まらない。
私が彼女へ寄せる想いのようにとめどなく──
◇
それから数ヶ月経過した。
蕾は年上の彼氏と毎日のように過ごすようになり、私との時間は極端に減る。
席も家も隣同士なのに会話することもすくなくなった。
それでも私は彼女のことが好きだ、大好きなのだ。
でも彼女の一番にはもうなれない、いっその事彼と別れてくれれば私のことを見てくれるのでは……
そんな最低なことを何度願ってしまっていただろうか……
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月日は流れるのは早いものだ。
もう高校の卒業式を迎えている最中であった。
私は地方の企業へ就職し、蕾は年上の彼がいる大学へと進学を決めていた。
卒業式を終え、一人帰路につこうとする私を後ろから高く可愛らしい声が引き止める。
「カレン、一緒に帰ろう!」
◇
「カレンとこうやって一緒に帰るのも最後かー」
「ああ、そうだな……蕾はさ、彼氏と結婚とか考えてるのか?」
いつもの帰り道を横並びで歩いている途中、彼女へ聞いてみた。
「もちろん! だって大好きなんだもん!」
私を向いて作られた、その屈託のない笑顔と迷いのない真っ直ぐな言葉……引っ込み思案だった彼女はこんなことを言えるようになったのか。
でも、そう強くしたのは私ではない。それが無性に切なかった。
それと同時にある思いが込み上げてきた。
彼女の一番にはなれないけど、彼女の傍でずっと支えてあげて悩みも聞いてあげたりして、この笑顔をいつまでも守護っていこう!
そう決心し、彼女の笑顔に負けないよう最高の笑顔をして答える。
「そうか! なんかあったらいつでも言えよ? 彼氏といつか結婚出来るといいな!」
「うん、ありがとうカレン! "大好き"だよ!」
大好き……でもこの好きは恋愛感情での好きではない、友達として好きなのだ。
それでも嬉しかった。本当に嬉しかった。
◇
私はこの先も友人として、彼女の幸せな表情を見届けていくであろう。
それで良いのだ。
それで……良い……