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エピローグ:新たな言語の誕生
事件から一年後。私は国際失語症研究学会で講演を行った。「非言語的コミュニケーションの可能性について」という題目で。
会場には世界中から集まった研究者たち、そして失語症に苦しむ当事者とその家族たちがいた。私は彼らに語りかけた。流暢ではない、時々つっかえる言葉で。
「言葉を失うことは、終わりではありません。それは新しい始まりかもしれません。私たちは言葉以前に存在していた、もっと根源的なコミュニケーション能力を持っています。それを信じて、共に歩んでいきましょう」
講演後、多くの人が私のもとに集まった。その中に、十歳の少女がいた。彼女は生まれつき重度の失語症を患っていたが、その瞳は輝いていた。
彼女は私の手を握り、言葉にならない音を発した。しかし私にはその意味が痛いほど分かった。
「ありがとう」
彼女はそう言っていた。言葉を超えた言語で。
私は微笑んだ。新しい世界が始まっている。言葉と沈黙が調和する、美しい世界が。