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第四章:沈黙の戦場

 譲二の意識の牢獄は想像以上に強固だった。アスクレピオス製薬が開発した精神制御プログラムが彼の自己を完全にロックしている。その壁を破るには私はさらに深く彼と共鳴するしかなかった。それは私の言語能力をさらに犠牲にすることを意味していた。


 私の言葉はもはや構文さえも失い始めた。単語の羅列。しかしその一つ一つの単語は驚くほど的確に真実の断片を指し示していた。


「研究所……毒……私たち……実験……電磁波……父……戦争……」


 この断片的な言葉から私は恐ろしい真実を理解し始めた。アスクレピオス製薬の目的は脳機能拡張薬などではない。彼らが開発しているのは人間の意識を外部からコントロールするための恐るべきマインドコントロール技術。そしてその基礎技術は、かつて父が戦争中に開発した暗号技術を応用したものだったのだ。


 父の暗号技術――それは単なる情報の暗号化ではなく、人間の認知パターンそのものを操作する技術だった。戦時中、父は敵軍の通信を傍受するだけでなく、偽情報を流すことで敵の判断を誤らせる心理戦の専門家でもあったのだ。


 私の意識の中で父の幻影が現れた。彼は悲しそうな顔で私に語りかけた。

『薫、お前は私の未完の仕事を完成させるために生まれてきたのかもしれない。言葉を超えた場所にこそ本当の真実がある。それを見つけ出すのだ』


 現実世界では私はもはや誰ともまともなコミュニケーションが取れなくなっていた。白石教授も友人たちも、私のことをただ哀れな精神病患者として見るようになった。私は完全に孤立した。


 しかし不思議と孤独ではなかった。私には譲二がいる。そして私だけが知っている真実がある。その使命感が私を支えていた。


 私の脳の中で何かが激しく戦っている感覚があった。腫瘍と私の意志。自然な脳波とアスクレピオスが放つ人工的な電磁波のノイズ。私の精神は今や一つの静かな戦場となっていた。


 ある夜、ダイブ中に私は驚くべき発見をした。譲二を幽閉している施設から発せられる電磁波のパターンが、父の残した暗号書の中の未解読部分と一致していたのだ。父は既にこの技術の危険性を予見し、対抗手段を研究していたのではないか。


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