『台湾有事――国家は誰の明日を守るのか』
全員に配布されたのは、「日本列島・72時間シミュレーション・非武装市民行動マニュアル(暫定版)」
◆序章:その日、“開戦”の報が届いた
(講義室のドアが閉まると同時に、照明が落ち、警告音)
【想定状況:台湾周辺海域にて、202X年4月14日午前3時、人民解放軍が機雷封鎖作戦を開始】
涼宮(即座に)
「72時間シナリオ、カウント開始。各自、自分の“立場”を想定してください。
鏡さんは国税庁・防衛調整班。
学生5名は“東京在住の一般市民”です。」
副部長(やや困惑して)
「えっと……開戦って、いきなりですか?宣戦布告もなしに?」
鏡(冷静に)
「現代戦では“音がしない開戦”が基本です。
機雷がまかれた時点で、日本の南西シーレーンは封鎖。
物流が遮断され、タンカーが止まる。
3日後には、首都圏の“牛乳・ガソリン・薬品”が尽き始めます。」
亀田(焦って)
「うそぉ……。じゃあアタシの常備薬……抗アレルギーのやつ……買いに行けないじゃない……!」
◆第二幕:国家の準備と、個人の備え
(ユウコが台に登り、書類を掲げる)
ユウコ
「この書類は、“徴収延期措置”。
戦時において、納税を一部猶予する特例だけど、同時に“特別国債発行”の準備にもなる。
つまり、“未来の誰かの負債”を、今ここで積み上げるってことよ。」
野田
「“戦争って、誰かが払うんじゃない。
みんなの財布に請求書が届く”……って、ほんとうだったんですね……。」
部長
「請求書だけじゃない。“逃げ遅れた都市”にも、“選ばれなかった優先順位”にもなる。」
(涼宮がホワイトボードに「第1段階:情報遮断/第2段階:攻撃兆候/第3段階:限定衝突」と記す)
涼宮
「この段階で、東京には直接的被害はまだありません。
だが、“人とモノ”が止まる。それが**“間接攻撃”の本質**。
“戦わずに崩す”戦争です。」
◆第三幕:72時間の“君の選択”
(全員に紙が配られる。「あなたの72時間行動計画を書け」)
鏡(学生たちに)
「今、決めてください。“自分と、大切な人の72時間”を。
政府を待つな。支援を求めるな。
“主権者”とは、自分で“明日の立場”を決める人間のことだ。」
(しばしの沈黙。澤田がボールペンを取り、書き始める)
澤田
「まず、家族を埼玉の実家に送る。
次に、ガソリン満タン。
あとは……東京が封鎖される前に、抜けるルートを3本確認。」
副部長
「私は……情報をまとめる。デマの分析と、信頼できるルートの検証。
“デマで殺される人間”を減らしたいから。」
野田(震える声で)
「わたしは……大学の図書館を開けます。
“歴史の中に、答えがある”って……ユウコさんに言われた気がして……」
ユウコ(目を細めて)
「いいわね。その“物語を忘れなかった人間”だけが、
“次の税”を正しく集めて、“次の国家”を作れるのよ。」
◆終章:それはもう、シミュレーションではない
(スクリーンが消える。全員、無言で配布資料を見つめる。
資料の最後の行にはこう書かれている)
“台湾有事は、72時間で“日本本土の経済と政治”を変質させる。
そしてその時、“主権者とは誰か”が問われる。”
鏡(最後に言う)
「もう“想定外”とは言えない。
日本は“場所”によって、未来を決められる国だ。
君たちは、“その場所”の意味を引き受けて、生きなければならない。」
終幕ナレーション(野田)
「わたしが生まれたのは、海に囲まれた、どこか遠い場所の小さな島だと思ってた。
でもそれは、世界の真ん中に浮かぶ、“誰かの戦場になりうる場所”だったんだ。
そのことを、ちゃんと知って、考えて、言葉にしないと――この国は、きっとすぐに飲み込まれる。」