「防災訓練編」
短編対話劇
『防災訓練は突然に』~徴収官と学生たちの“その日”シミュレーション~
(夕暮れの大学。サークル部室のホワイトボードには「サークル防災訓練」の文字。野田が緊張した顔で立っている)
野田(真剣な顔で)
「えっと、本日の訓練内容はですね、あの……“地震+通信遮断+物流停止+敵性国家のサイバー攻撃”という……想定で……」
亀田(口をとがらせて)
「なんで一気に盛りすぎなのよ〜!ちょっとずつやればいいじゃない〜!」
澤田(眠そうに)
「いや、逆にリアルだよ。全部一気に来る。そういう時代だ。」
副部長(チェックリストを読み上げ)
「よし、配布したアイテム確認しよう。“ラジオ・水・携帯トイレ・モバイルバッテリー・笛・軍手・乾パン・現金”。全部入ってる?」
(扉が開き、鏡と涼宮、そして夜の街担当・ユウコが登場)
鏡(即座に)
「“持ってる”だけじゃ意味がない。“使える”かどうかが全てだ。」
ユウコ(真っ赤なリップを引きながら)
「アタシ、今日は防災コーディネーターとして来たから。
夜の街ってのはね、災害時に最も混乱するの。“名簿にない人間”が山ほどいるのよ。」
涼宮(アイスブルーの眼差しで学生を見渡しながら)
「訓練開始。想定時間:午後7時。震度7の直下型地震発生。携帯不通、LINE不通、Wi-Fi停止、電車停止。
“3時間後に冷蔵庫が止まる”。どうする?」
(場が凍る)
野田(慌てて)
「えっ、えーと、あの、備蓄リストを……いま、えっと、どこだろ……メガネメガネ……!」
副部長
「あなた、かけてる……!」
鏡(低い声で)
「“想定していた”者だけが、動ける。」
(澤田がカバンから水と保存食を取り出す)
澤田
「これ、家から持ってきた。2リットル水と乾パン12食。3日分。とりあえず俺は生き延びる。」
亀田(バッグを漁って)
「あたし……飴とクエン酸タブレットしかないわ。災害よりも更年期対策じゃないの、これぇ!」
(部長が立ち上がる)
部長(髪を束ねて、マジ顔)
「よし。2班に分かれて、3時間の生存計画立てましょう。水の分配、避難経路、女子のトイレ配慮、発電機の位置確認。
“誰かを待たないで生きる”訓練よ。」
(涼宮がホワイトボードに大きく書く)
【作戦名:自分の命は自分で守れ】
ユウコ(静かに)
「忘れないで。
最初の3時間で“動けなかった人”が、
その後の3日間で“死ぬ側”に回るのよ。」
(沈黙の中、野田がぽつり)
野田
「私……本当に何も考えてなかった。食べ物も、通信も、身を守ることも……“国家”って言葉の向こうに、
“今日の自分の部屋”があるって、気づかなかった。」
(鏡が微かにうなずく)
鏡
「税金は、備えるために払われる。
戦争を止めるために軍を持つ。
災害を生き延びるために、学ぶ。
全部、つながっている。」
(副部長がそっと笛を吹く。ぴゅう、と頼りない音)
澤田(乾パンをかじりながら)
「うん、今日は……帰らない。みんなでここで過ごそう。部室泊。
“いま”のリアルを、身体で記録しないと。」
亀田(カップスープを配りながら)
「しょうがないから、あたしのポカリ粉末あげるわよ〜。みんな、塩分補給忘れないで〜」
(部長がライトを灯し、静かに言う)
部長
「“守ってくれる誰か”が来るまでの時間――その間をどう生きるか。
それが、国家の本質じゃない?」
(夜の帳が下りる。大学の屋上には、発電機の音と、微かに光る非常灯。学生たちは静かに、自分の無力と可能性を抱きながら、
“その日”の予行演習を始めていた)
終幕ナレーション(ユウコのモノローグ)
「夜の街で学んだの。“逃げられない夜”って、あるのよ。
でもね、“備えた夜”には、必ず朝が来る。
その違いを知ってる人が、生き残るの。」