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依存しかけている


 そう呟くセバスさんなのだが、私も同意である。


 そもそもセバスさんの言う通りわたしの為だとしたら、止めていたというのに。


 私の足なんかの為に旦那様が危険な目に合うのは、私は嫌だと思ってしまう。


 それに、死なず帰ってこれたとしてもフェニックスの尾を入手できないだけではなく、怪我をして私のように身体の部位を欠損してしまったとなれば本末転倒ではないか。


 もし帰ってきたら、文句の一つでも言ってやろうと、そう思うのであった。

 



 

 結局あれから三日間ダンジョンを周回したのだが、六回しか周回できなかった。


 そこはやはりゲームと現実との違いだろう。


 それでもフェニックスの尾は二つ入手できたので、予備の分も入手できたと考えれば十分だろう。


 流石にこれ以上家を空けるのは、いくら置手紙を置いて来たからと言ってもそろそろ心配してくるだろうしな。


 そう思いながら俺は家へと帰ると、使用人たちが涙を流しながら歓喜の声を上げて俺の元へと駆け寄って来るではないか。


「何事ですか? 先ほどから……ル、ルーカス様ッ!?」


 そしてその騒がしさにセバスが叱りに来たのだろうが、俺を見るなり、セバスもまた鼻水を流しながら駆け寄ってくるではないか。


 まだメイドたちが泣いている姿を見るのは良いのだが、オッサンが鼻水垂らし泣きながら近寄ってくる光景は、できる事ならば見たくはなかったかな。


 それでも俺の事を心配していたが故である事は流石に理解できるので口にはしないが……。


 というか、そもそも俺は使用人たちから多少なりとも嫌われていると思っていたので、こうして出迎えてくれるのはなんだか不思議な気分である。


 もしかしたら俺が死んだら食い扶持が無くなるから不安になっていたとかあるのかもしれない。むしろこれならば使用人たちがここまで歓喜してくれている理由としてしっくりくる。


「奥方様でしたら今現在中庭で義足を使った稽古をしております。呼んできましょうか?」


 そんな中ドゥーナの姿を探していたのをセバスに気付かれ、今は義足を使って稽古している旨を教えてれる。


「いや、いい。わざわざ邪魔をする必要も無いだろう。それよりもこの三日間風呂に入っていないから、これから入浴する」

「……かしこまりました」


 流石に稽古しているところを、俺が帰ってきたというだけで邪魔をするのもどうかと思うし、何よりもこの三日間風呂に入っていなかったのでお風呂に入りたい旨を告げると、俺は脱衣所へと向かう。


 ちなみにこの世界ではクリーンという生活魔術がある為身体は綺麗なのだがこれは気分の問題である。

 

 そこはやはり日本人故なのだろう。


 そして俺はそのまま脱衣所まで行くと服を脱ぎ風呂場へと向かう。


 流石に浴槽にはお湯が張っていなかったので水魔術と炎魔術を駆使してお湯を張ると、身体を洗ってから湯船に入る。


 ちなみにこの世界なのだが、水の魔石と炎の魔石を使って水を出せ温度調整までできるシャワーなどがある。


 当然我が家もその魔石を使ったシャワーを取り付けており、魔石の魔力が無くなった場合は業者を呼ぶか魔力量が多い人は自分で補充できる為便利なのだがいかせん値段が高すぎる為平民には手が出せず、結果貴族にしか広まっていない。


 そして俺は浴槽に浸かりながらこれからの事を考える。


 とりあえずフェニックスの尾は手に入れる事ができたので、これでドゥーナの足を治す事はできるだろう。


 そうなれば実家に帰る事ができるかもしれないし、そもそも俺の妻として暮らす理由も無くなるのでこの家を出て行くだろう。


 ドゥーナほどの実力であれば、傭兵でも冒険者でも余裕で暮らして行けるだろう。


 これで、死亡フラグを立てられる可能性も少なくなるので、俺もドゥーナもお互いにメリットしかなく、なんとか丸く収まって肩の荷が下りた気分である。


 俺にデメリットがあるとするならば嫁に逃げられたクズ男というレッテルが張られて噂が流れるかもしれないのだが、そんなもの、もともと他者からの好感度は最底辺なので今更だろう。


 そんな事を思っていると扉が開く音がした後『ひた……カツ……ひた……カツ』とタイルの上を歩く特徴的な足音が聞こえてくるではないか。


「つれないぞ。帰って来たのであれば帰って来たと教えてくれても良いだろうが。いったいどれだけ私が旦那様の事を心配したと思っているんのだ……っ」

「…………いや、心配してくれるのは意外だしありがたいのだが、なんで俺がいるのに風呂場に入って来てんだ?」


 その足音の主はやはりというかなんというかドゥーナであり、服の上からでも分かる大きな胸と下部を両の手とタオルで隠しながら近づいて来るではないか。


 それでも隠しきれない部分から欠かさず鍛錬をして鍛え抜かれている健康的な肢体が見える。


「私たちは結婚式こそまだ上げてはいないが皇帝陛下の許可を得ている立派な夫婦関係にあるのだぞ?夫婦であるのならば同じ風呂に入ることなど別段おかしな事ではないだろう?」


 流石に目のやり場に困る上に、俺がいると知っている上でドゥーナが風呂場へ入ってくる理由が思いつかなかった俺はそのままドゥーナに聞いてみたのだが返ってきた言葉に頭を抱えそうになる。

「いやまぁ俺たちの、第三者から見た関係で言えばそうなのだろうけど……」

「……私のような身体の人間を見るのも嫌だというのであれば、出ていくから言って欲しい。こんな身体では異性としての魅力を感じないというのも理解できているつもりだからな……」

 

 そしてドゥーナはそう言うと、悲しみが混じったような笑みを浮かべるではないか。


 その事から鑑みても恐らくドゥーナは今、俺に依存しかけているのだろう。


 確かに、今のドゥーナの境遇を考えれば理解できないでもないのだが、それは『嫌いな相手に依存しそうになるくらい追い詰められている』程に、ドゥーナの心は弱っているのだろう。


「そうだな……、とりあえずフェニックスの尾はちゃんと手に入れてきたから安心して欲しい」

「………そうか、ありがとう」


 なので俺はドゥーナを安心させてやる為にフェニックスの尾を入手できている事を伝えるのだが、ドゥーナは何故か一瞬捨てられた子犬のような表情をするではないか。


「とりあえず、せっかくだから俺の背中でも流してもらおうか」


 そんな顔をされると流石に『出て行け』とは言えずに背中を流して欲しいとつい言ってしまうのだが、それを聞いた時のドゥーナの表情が明るくなったのであれば多少の羞恥心など我慢して良かった思うのであった。





 そして俺たちは何事もなく(俺は理性と戦いながら)ドゥーナと一緒にお風呂で汗と汚れを流し、魂の洗濯を終えると、まだ外は明るいため私服に一度着替えてからリビングへとドゥーナと共に向かう。


 そこには予め何かあった時の為にセバスを含めた使用人を複数人呼び集めていた。


 とは言ってもやる事はフェニックスの尾を使ってドゥーナの足を元に戻すだけなのだが、フェニックスの尾を使って失った足を戻せることができるのはあくまでもゲーム内での話であり、この世界ではまだ未知数である以上万が一のことを考えて何か起きても直ぐに対処できるようにと人を集めてはみたものの、やはり実際にドゥーナの足が治るまでは緊張してしまう。


 問題も起きず、ゲームのようにちゃんと失った足が治ってくれれば良いのだが……。


「しかし良いのか? 私なんかの為に……フェニックスの尾などを使ってしまって……」

「一応これは俺の気持ちの問題、あの日魔獣に襲われた時に助けようともしなかった事への罪悪感を軽くするためでもあるから変に気を使う必要もない。それに、俺の妻だと風呂場で豪語したのであれば旦那が妻の足を治すのはさほど変でもないだろう。黙って受け入れろ」


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