鬼糞面倒くさい事
そしてドゥーナも、俺が何を言っているのか分からないといった表情をしながら話を続ける。
「私は正式にお前……いや、これからは旦那様と呼ばせてもらおう。話は戻すとして、旦那様に娶られてこの領地に来たんだが? ここにちゃんと皇帝陛下からの婚姻許可の返事と印鑑が押された証明書も持って来ている。たしかここに、父上に渡された証明書があった筈だ。まだ見ていないのだが父上が嘘をつくメリットも無いだろうから間違いないとはおもうのだが……」
そうドゥーナが言うと、持参してきた鞄の中から一枚の用紙を取り出し、俺へ渡してくるではないか。
その用紙には確かに俺の領地でドゥーナを療養させるという言葉も入っているのだが、その下に小さく『ついでと言っては何だが娘ドゥーナを娶って欲しい。問題なければ何も書かずにサインだけをして欲しい。問題があればその旨を理由と共に記載してほしい』的な記載されているではないか。
そしてそこには当然の如くファング家当主のサインと印、俺のサインと印、皇帝陛下のサインと玉璽が押されているではないか……。
こ、こんなもの詐欺ではないかっ!! 無効だっ! 無効っ!!
と突っぱねたい衝動に駆られるのだが、文字は小さいながらしっかりと記載されている点と、それだけならばまだいいのだが皇帝陛下のサインと玉璽までしっかりと押されていてはもうどうしようもないだろう……。
正直、頭を掻きむしって床をゴロゴロと発狂しながら転がりたい気分だ。
「…………その、なんだ。私の父親が騙す様な事をしてすまない」
「いや、これも貴族の駆け引きであり、当主になったからにはサインを簡単にしては駄目だという勉強代として受け止めよう……」
ここ最近は領地経営で忙しいなどと言うのは言い訳でしかなく、ちゃんと確認をせずに『今までの手紙のやり取りからしてこのような内容が書かれているだろう』とサインをした俺が悪い訳で、ある種の貴族としての洗礼を受けたという事で納得するしかないだろう。
むしろ『爵位と領地を渡せ』などという最悪のケースではなかっただけマシと言える。
しかしながら、予期していなかったとはいえ、あの人狼のドゥーナが俺の嫁になるとは…………これって主人公に殺されるフラグじゃないよな?
「とりあえず、起きてしまった事をいつまでも考えていても仕方がないだろう。…………ドゥーナの部屋は予め用意してあるからここにいる使用人に案内してもらえ。荷物は俺が持とう」
そして、望んでいた結果ではないとはいえ俺の妻となったドゥーナをいつまでも『お前』と呼ぶのもどうかと思った為、旦那様と俺の呼び方を変えたドゥーナを見習って名前で呼ぶ事にする。
「……あぁ、ありがとう」
こうして、おれとドゥーナはぎこちないながらも夫婦となったのだが、俺はこれからの事、主に結婚式とか結婚式とか結婚式とか、それに関連したその他諸々をどうしようかと、ドゥーナに気付かれないように心の中で頭を抱える。
流石に公爵家の結婚ともなれば開かない訳にいかないよな……。鬼糞面倒くさい事になりそうだと現時点でストレスにより胃に穴が空きそうだ……。
◆
とりあえず、成り行きでドゥーナを娶ったのだが、だからこそ俺はフェニックスの尾を手に入れる事にする。
さすがに、いつまでも片足というのも不便だろうというのもあるのだが、それ以上に『助けられる可能性があったにも関わらず負けイベントだからと助けようとしなかった結果ドゥーナは右足を失った』ことと『しっかりと確認していれば俺の妻とならずに済んだ』という二つの重い罪悪感からか一日でも早く解放されたいという俺の自分勝手な考えによる結果なのだが、ドゥーナも無くなった足が復活するとなれば俺が勝手に行動した事については怒らないだろう。
結婚式? あぁ、お腹痛くなってきたから今は考えるのは止めよう。
このフェニックスの尾なのだが、一つで国が買えるとも言われている伝説級のアイテムであるのだが、当然ゲームをやり込んでいた俺からすれば伝説でも何でもなく『周回すれば低確率で手に入れる事ができるアイテム』でしかなく、その確率も十五パーセントと課金ガチャの当たり枠が出る確率から見ればむしろ高すぎる程の確率であると言えよう。
ただ、ゲームではスキルや魔術で味方の体力は回復でき、死んでも蘇生させる事ができる為フェニックスの尾自体はさほど重宝されておらず、素材創りのアイテムくらいしか価値は無い。
その為素材を作り終えれば高く売れるアイテムぐらいの扱いであった。
因みに今の俺のジョブは魔剣士でありドゥーナも武闘派の技を中心のジョブしか覚えない為回復魔術や蘇生魔術は覚えない。
そもそもこの世界がゲームの世界に酷似した現実であるのならば回復魔術を行使したところで失った足が生えて来るとは限らない。というか俺が読んできた魔術の本等で得た知識では一度失った身体の部位は再生しない事になっている。
というか、それができればゲームでもドゥーナにわざわざフェニックスの尾で失った足を再生させるような面倒くさいイベントをこなさなくても回復魔術を行使すれば良い事になってしまうので、まぁだろうなといった感じである。
それに、せっかくゲームの世界へ転生して来たのだから、この世界を楽しむためにダンジョン周回をしたいというのも大きい。
というかこっちが本命まである。
自分のプレイしていたゲームの世界に転生した事に気付いた時も、転生したのがよりにもよって死亡フラグしかないキャラクターである事に絶望はしたのだが、それとは別にゲームの世界に来たことに興奮していたのもまた事実である。
そして、フェニックスの尾を取る為に、フェニックスと戦って勝たなければならないのだが、装備品が揃うまでは俺もフェニックスがいるダンジョンを周回していたものである。
そのダンジョンのマップを見なくてもダンジョンのどこに何があるか把握している、それこそ親の顔よりも見たダンジョンをリアルで体験する事ができるのである。
こんなの、興奮しない方がむりであろう。
「さて、確かもうそろそろダンジョンが見えて来るのだが……お、あったあった」
ちなみにフェニックスがいるダンジョンなのだが、何故かまだ帝国には発見されていないらしくダンジョン登録はされていなかった。
ダンジョン登録がされているダンジョンは冒険者ギルドで確認する事もでき、事前に登録されているダンジョンは確認したので間違いないだろう。
「では、このダンジョン一番乗りである俺が早速破壊し、さっさとフェニックスの尾を入手したら帰りますか」
こんなダンジョンに来て、サクッと終わらせる事などできない事は容易に想像できるため、予め『フェニックスの尾を入手したら帰宅する』というルールを口にして俺はダンジョンへと潜っていくのであった。
◆
ルーカスもとい私の旦那様は私の事を娶った事について寝耳に水であったらしくかなり動揺していた。
どうやら私の父親が罠を仕掛けたようなのだが、それは視点を変えると私の父親は『ここまでしてでも私を追い出したい』という強い思いが伝わってくる。
旦那様には、私の父親が私を押し付けたみたいになって申し訳なく思う。
それはそうと、学園で見てきたルーカスという男は、ダニエルに対していちいち突っかかってくるにも関わらず弱いくせに態度だけはでかく、実力が伴っていない分は権力を振りかざすという、まさに私の嫌いな男性像であった。