私という存在意義
「はぁ、さいですか」
いや、ゲームだとお前俺の事ぶっ殺しているだろうが……っ!
そうツッコミたい衝動をグッと堪えて飲み込む。
「そうですともっ!! しかし、そうなると水路と下水道を完成させるのに何年かかるやら……」
「それに関しては心配する必要は無い。俺が魔術で一気に掘り進めるからお前たちは領民から集めた日雇い労働者を纏めて俺がミスった個所、例えば石垣が上手く魔術で作れていなかった個所などの補修を行ってくれればいい」
「それならばかなり早く完成できそうですね……って、ルーカス様が魔術で水路と下水道を掘って行くなど、流石に無理では?」
「確かに、俺が魔術で一気に進める事に関しては疑問があるとは思うがこれで時間を消費する事の方が勿体ない。俺ができるかどうかは一週間後の工事着工日にその目で実際に見れば納得するだろう」
そして何とか押し通す事ができたので後は使用人たちへ暇な領民へ日雇いの仕事があると声をかけてくる旨を言い渡してこの日の会議を終わらすのであった。
◆
「ファング家の面汚しがいるぞっ!」「まったく、どの面下げてまだこの家にいるのかしら」「面汚しの出来損ないと同じ空気を吸いたくないよなっ!!」「まったくその通りだわ。こっちまで出来損ないが移ってしまうわっ!」
あの日、私は魔物に襲われて右足を失ってからは実家で療養をしていたのだが、帰って来た瞬間両親には罵倒されたあと父親から平手打ちを喰らい吹き飛ばされ、あれほど慕ってくれていた弟妹からは視界に入るだけでこうして見下されるような生活を送っていた。
そして思う。
この家にとって私という存在意義は何だったのだろうか?
家族としてではなく、ファング家を彩るアクセサリーか何かであり、傷や汚れが付くと価値が下がる存在であったのだろうか?
いや家族の反応から見てもそうなのだろうが、私は未だにそれを受け入れる事ができなかった。
そんな中お父様に久しぶりに呼ばれたため、お父様がいる場所まで家の中を松葉杖を使い片足で歩いていると弟妹に見つかり、一気に気が滅入ってくる。
「入れ……」
そして、いよいよお父様から『この家を出ていけ』と言われるのだろうと思いながらお父様がいる書斎の扉をノックし、返事を聞いてから入室する。
「喜べ。お前のような出来損ないを拾ってくれるもの好きがいたようだ。既に準備はしているから今すぐ、さっさとこの家を出てお前を娶ったもの好きの所へ行け」
しかし、お父様の口から出た言葉は私の想像の斜め上の内容であった。
そして私は訳も分からずに家を追い出され、事前に準備されていた馬車に乗せられてそのまま走り出すではないか。
いったいどこの誰が片足を失った私を娶りたいと思ったのか。こんな私を娶った時点でまともではなく、性格も性癖もまともではないだろう。
その事からも私の未来は明るくない事は容易に想像できてしまう。
どうせ年老いた貴族の愛人枠なのだろう。
愛人枠ならばまだ良い方で、奴隷よりも酷い事をされた後にゴミのように捨てられてしまう可能性だって考えられる。
家族の絆だと思っていたのは絆などではなく、ただのアクセサリーでしかなく、そして片足を失った私は勇者のパーティーメンバーからも外されて、たった一度、ほんの一瞬だけ油断しただけで私は全てを失った。
私は何のために今まで生きてきたのだろうか?
そう思うと全てがどうでも良くなって、いっそ死んでやろうかと思ってしまう。なんなら私を娶ったもの好きの首筋を噛み切ってから死んでやる。などと思ってしまう。
そして私は御者に気付かれないように泣き、泣き疲れたのか気が付いたら眠っていたようで、目が覚めると私を娶った相手の家の前であった。
◆
「まったく、手間を取らせやがって……」
そう言いながら俺は書類にサインを書きながら愚痴を言う。
今俺が行っているのは徴収した税金の計算や用途不明の出資等で、両親の時代から遡って横領や無駄遣いがないかチェックをしているところである。
勿論無駄遣いしているような定期的な取引、例えば宝石や絵画に骨董品などを定期的に売りに来る商人との取引は俺の代で定期的に購入するのは止める為呼ばれてなければくる必要が無い旨の手紙を書いたりしているのだが、これだけでもいかに両親が無駄遣いをしていたのかが窺えてくる。
ちなみに要らない宝石や絵画、骨董品などは持っていても邪魔なだけなので既に売り払っている。
下水道と水路は既に掘っており後は不備が無いか使用人及び領民たちのチェック待ちである。
それが終われば川から水を引く予定なのでまだ後数日はかかるだろうが、一般的にかかるであろう日数よりも大幅に短縮できているので、それと比べれば数日など誤差の範囲だろう。
そんな事を考えているとセバスが、ランゲージ家に客人が来た旨を伝えてくるではないか。
ついに来たか……。
正直かなり迷ったのだが、俺はゲーム上で足を失ったドゥーナがどのような環境に身を置く羽目になるのか知っているためドゥーナの父親を通して『療養目的』として俺の領地へドゥーナを預けないか? という旨の手紙のやり取りをしており、もうそろそろドゥーナを乗せた馬車がここタリム領へと着くころである事を思い出す。
「入れ」
「し、失礼します……っ!」
そして部屋の扉をノックする音が聞こえたので入るように促すと、松葉杖をつきながら俺の予想通りドゥーナが入室してくる。
緊張と諦め、そして今まで実家での待遇からなのか学園時代ではピンと立っていた耳と尻尾は垂れ下がっている。
「…………お前はっ」
そんなドゥーナが俺の顔を見ると一瞬だけ目を見開いた後全てを悟ったような、そして自分の人生がまるで終わったかのような表情をするではないか。
「俺の領地での生活は色々と思う事はあるだろうが、お前の実家での待遇よりかはマシだろう。まぁ、嫌ならば実家に戻っても構わないから好きにすればいい」
「まさか、この私を娶った物好きが誰かと思ったのだが、それがお前だったとはある意味で納得だな。そして、私が嫁ぎにここへと来た以上実家との縁は切れているようなものだ。今さら戻れるはずも無く、今度こそ生きる価値無しと殺されるかもしれない。死ぬよりかはマシと言えば私のような役立たずの傷ものを、どのような理由であれ娶ってくれたお前に失礼なのかもしれないが、それでも私は、許される事ならば生きていきたいと思う。こんな意地汚く、往生際が悪い私を笑うか?」
そして俺が、ここで療養するか実家に帰るか一応聞いてみるとドゥーナは自虐気味にぽつぽつと話し始めるではないか。
確かに、武功で成り上がって来たドゥーナの一族からすれば、魔獣一匹倒す事も出来ず、寧ろ足一本を切り落とされた上に教師に助けられたドゥーナが療養先に嫌いな男がいたから帰ってきたなんて言ったら殺しかねないなと、容易に想像ができてしまう。
「そうか、まぁお前がそれで良いなら好きなだけ我が領地にいれば良い……うん?」
「あぁ、そうさせてもらおう」
そして、先程のドゥーナの話した内容に、どこか引っかかる所があるような気がしてモヤモヤしていると、ドゥーナは俺の領地に留まる旨の返事をした後床に正座し、三つ指をついて頭を下げ始めるではないか。
「お、おいっ!? いきなり頭を下げて何してんだよっ!! そんな事する必要ないからさっさと頭を上げろっ!!」
「不束者ではございますが、これからは妻としてこのドゥーナ、精一杯旦那様を支えて参りますのでどうかよろしくお願いいたします」
「いや、だからそんなん良いからっ!! …………は? 何だって? 妻……? そういやお前さっき嫁ぐだの娶るだの言っていたが……まさか……っ!?」
「…………? 何を言っているんだ?」