ゴミ過ぎてヤバいレベル
勿論未知の現象などに遭遇した場合は今までの経験や知識からそれが何であるのかある程度予想する事は正しいと俺も思う。
しかしながら自分の知識や経験に無い以上は、仮説を立てた予想とはまったく違う可能性もある事も念頭に置かなければならない。
似たようで全く違うものなどこの世にはごまんとあるのだから疑ってかかるのが常識であろう。
そして俺は再度【童子切安綱】の武器スキルを発動する。
「土魔術段位一【土の壁】」
違うのは武器スキル行使する前に、土魔術の基礎である土の壁をダニエルの背後へ出現させて逃げ道を事前に防いでいる事である。
たかが後ろ一枚の土の壁、しかしながら追い詰められた時、この土の壁一枚あるだけで疑似的な画面端の状態となり絶望的な状況となる。
「ぐっ……こんな土の壁ぐらいで……っ!!」
「バカとハサミは使いよう、というように低段位の魔術も使いようだという事だ。使われて初めてその有効な使用方法が分かる場合も多いのだが、この世界ではその有効な使用方法を相手に使われた場合基本的には死ぬという事が嘆かわしい。その結果がこの世界の冒険者や魔術師たちが俺の想像よりも弱いという事に繋がっているのだろう」
「だ、だが一度見た技を来ると分かっていて捌けない程俺は弱くはないっ!! 俺の強さを見誤ったなルーカスッ!!」
「ほう、流石というべきか……」
しかし、この圧倒的な不利な状況でダニエルは魔剣を使い俺の飛ばした斬撃六連撃を全て捌いていくではないか。
確かに俺はダニエルの事を少しばかり見誤っていたようで、その点に関しては俺の驕りであったと反省する。
駄目な個所から目を逸らし、言い訳を並べてちっぽけなプライドを守るよりも、素直に認めて受け入れた方が自分の成長にも繋がるしな。
「その小さなミスでこの俺を仕留め切れなかった事を死んで後悔するんだなぁっ!!」
そして六連撃全ての斬撃を捌いたダニエルはここぞとばかりに反撃をしようとしてくる。
「そうだな、だが残念ながらお前も俺の強さを見誤っているようだ」
そして俺はそういうと再度武器スキルを発動させて斬撃を六連飛ばす。
「……は? あぎゃぁぁぁああああっ!!!!」
「連続で行使した時点で、技の撃ち終わり直ぐに同じ技をまた繰り出す事ができるという発想に何故思い至らなかったのか……俺を見下していたんじゃないのか? 例えば『今のダニエルで勝てそうな強さで俺の強さを予測していた』とか。 その無駄に高いプライドが、俺の方が強いという事を『ただの予想であっても認めたくなかった』と無意識の内に思ってしまったのだろう」
流石に連続で使用できたとしても、これほどの威力の能力がある技を間髪入れず武器スキルを行使できるとは思っていなかったのだろう。
さらに、先ほどの六連撃を捌き切ったところで、安堵したのか集中力が切れてしまってのか、碌に捌くことができずに四肢が切り飛ばされ、そして切り口には青い炎がダニエルを焼き尽くさんと燃え広がって行く。
「結局、魔剣を手にして沢山の命を奪い得た仮初の力といえどもこの程度でしかないのか……。本当に、お前が『俺憎し』と復讐の為に費やした時間も努力も命も、全て無駄だったな」
「ふざけんなぁぁぁぁぁあああっ!!!!」
そして俺の挑発に痛みよりも怒りが勝ったのだろう。ダニエルはその怒りを叫んで俺へと伝えて来る。
しかしながら叫んで怒りを伝えたところで『あぁ、こいつ俺に怒っているんだな』と感じるだけであり、四肢から燃え広がる炎が消える訳でも、失った四肢が生えてくるわけでもないと言うのに。
こういう時に感情的にならずに冷静に思考を巡らせる事ができるかどうかで冒険者としての器が知れるというものである。
だからこそアイシャは俺に負けたしダニエルも俺にここで殺される訳である。
その前に俺は、一度土魔術でダニエルの身体を拘束して四肢を切り落とされたと同時に床へ落ちた魔剣を拾う。
すると、魔剣を拾った瞬間に老婆が俺の目の前に現れ『この剣を手にすればお前の望みを一つだけ叶えてやろう』言うではないか。
「なるほどねえ……。この魔剣自体が憎しみや悲しみ、怒りなどといった負の感情を長い年月によって溜め込み過ぎ、結果それが魔剣に自我を与え、そしてこのように魔剣を手にした者へと『幻術』を見せてくるのか……」
うーーん、控えめに言ってゴミ過ぎるなこの魔剣。
どれだけヤバいかと言うと、ゴミ過ぎてヤバいレベルである。
あまり攻撃力が高い訳でもなく、武器スキルが別途あるわけでもないしストレージも無い。はっきり言ってこの時点で俺からすれば『自分も含めて不幸になる』というゴミでしかない。
そんな魔剣を地面に突き刺して【童子切安綱】を構える。
この【童子切安綱】なのだが、酒呑童子を切った鬼切りの実績があるのだが、もう一つ、キツネに憑かれた女性からキツネを追い払ったという伝説もある訳で……まさに精神を乗っ取って来ようとするこの魔剣にはうってつけという訳である。
取り敢えず、この魔剣は無料ガチャで配布される武器の中でもゴミの部類であるという事は間違いないので俺は要らないし、そもそも残して置いたら同じように誰かを操って不幸をばら撒くかもしれない。
であるのならばここでぶっ壊すのが得策であろう。
「おいっ! 何をしようとしているっ!? やめろっ!!」
そしてダニエルは俺が今からこの魔剣を【童子切安綱】でぶった切ろうとしている事に気付いたのか、四肢が無い状態で必死に止めようとしてくる。
ダニエルもこの魔剣の被害者であるというのに、その事すらも気付かずに必死になって魔剣の破壊を止めようとしてくるあたり、この魔剣を一度受け入れてしまった場合の洗脳はかなり強力であるのだろう。
しかしながらダニエルに止めろと言われて止めるわけが無いので俺はこのまま【童子切安綱】を一振りして魔剣を切る。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!』
すると、魔剣が叫ぶような声が脳内に響き渡り、老婆が【童子切安綱】の炎に包み込まれのたうち回る光景が浮かび上がる。
『よくもっ!! よくもこの私をっ!! 許さない……絶対に許さなっ!! 他の仲間が必ずお前を殺しにくるだろうっ!! せいぜいその時を──』
「うるせぇよ。黙って死ぬ事もできないのか?」
すると魔剣は俺の脳内に許さないだの、他の仲間がどうのとかうるさいので【童子切安綱】を二度、三度と振るって黙らす。
そして魔剣はそのまま【童子切安綱】の炎に焼き尽くされてしまったのか、炎が消えた後には形すら残っていなかった。
しかしながらこの魔剣が言っていた『仲間』なのだが、新たにアップデート後に実装される新ストーリーの伏線という噂があり、その噂では一年後にアップデートが実装されるという内容であったのだが、その噂が本当かどうか分かる前にこの世界に来てしまった訳で。
原作ファンの一人としては、その続編を体験してみたいという欲求が無いわけではないのだが、そんな事でドゥーナたちを危険にさらすくらいならば来ない方が良いと俺は思う。
まぁ、万が一来たとしてもこの魔剣同様にぶち壊すだけなのだが……。
「…………お、俺は今までなんという事をして来たのだ……」
そんな事を思っていたその時、魔剣を破壊したことによりダニエルが正気に戻ったようで、今まで自分が行ってきた数々の悪行がどれだけ罪深い行為であったのか理解してしまったようである。
ダニエルはその罪の重さに押しつぶされそうになっているのが、彼の声音や表情からも理解できる。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




