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感極まっているオッサン


 両親が殺害されていた事で何かしら感付き、領民の為の領地経営を少しでも行っていただければとは思うものの、今までのルーカス様の言動を鑑みるにそれは無理な事であろうことは火を見るよりも明らかである。


 その為期待するだけ無駄だと思い私はルーカス様に対して何も期待していなかった。むしろ、これ以上領民を苦しめるような事をするのであれば今度こそ私がルーカス様を殺害しようとすら考えていた程である。


 しかしながら蓋を開けてみればどうだ? ルーカス様は両親の遺体を見て心の整理がまだついていないであろうにも関わらず、自分の心情よりも領民たちの為にとその日に動き始めたではないか。


 それだけでも信じられない光景であるのだが、ルーカス様が掲げた領地経営の内容は両親よりもマシなどころか、帝国内でも平民にとってかなり好条件な内容であると言えよう。


 今はまだその種が撒かれたばかりであるので、それが領民たちの生活に影響し始めるのはまだ少し先であるとは思うものの、だからこそこの撒いた種がしっかりと芽を出し、根を張り、やがて大木へと成長できるようにと全力でルーカス様のサポートをしようと強く心に刻む。


「ルーカス様……」

「何だ? セバス」

「失礼を承知で申し上げるのですが、ルーカス様は両親の経営について以前から不満を持っていたのでしょうか?」


 あの両親からは考えられないような展開に、私は気が付いたらルーカス様へ疑問に思っていた事を口にしていた。


 その私の疑問を聞いたルーカス様は訝し気な表情を私に向けてきたあと、少し考えはじめる。


「そうだな……。その質問が『私利私欲のための領地経営ではなく領民の為の領地経営へと切り替えたのか?』というのであれば、それは間違いだが『両親の経営に以前から不満があった』というのであれば正解だな」

「……し、しかしルーカス様か本日提示したどの内容も、領民の事を思って考えられたように思え、とても私利私欲の為の内容であるとは思えないのですが?」

「バカか、お前は。少しは考えてもみろ。両親の経営のままでは領民は減る一方であり、それは言い換えるとここタリム領の徴税額が減っていくという意味でもある。だからといって両親のように税金を上げるなどもっての外、更に領民が居なくなるスピードを速めるだけでしかなく、更に当然稼いだもののその殆どが税金で取られるとなれば働くモチベーションも下がり、それだけではなくここ最近では餓死者がみられるようになり子供が成人まで生き残る率まで下がり始めているではないか。そんな領地に未来など無い」


 そこまで一気に言うと、ルーカス様はテーブルに置かれている冷めたお茶を一口飲むと、また話始める。


「ではどうすれば良いか、そんな事は決まっている。他の領地よりも良い条件で住める領地にすればいい。そうすれば勝手に領民は増え、それに伴って我が領地民から回収できる税金の額も増えるという事だ。両親みたいにお金が無いからと金策の為に頭を回転させ常に金の事を考える生活など馬鹿らしい。俺は馬鹿な領民を煽てて勝手に俺の懐に入ってくる金額が増える方法の方が楽だと思ったまでで、あくまでも俺の私利私欲の為でしかない」


 そう語るルーカス様なのだがその目は優しさに満ちている事を私は見逃さなかった。


 それにもしこれがルーカス様の本心であったとしても、領民が住みやすい領地にするという内容は変わらない為、私はルーカス様の為に全力でサポートしただろう。




 

 両親が死んだ事によりやる事が山積みでまったく学園へと帰れる見込みが立たないので、学園へはそのまま退学も考えている旨の手紙を送った。


 まぁ、忙しいのは本当だが、領地経営等はセバスに任せればいいので学園の退学云々はそれを言い訳に使っただけではある。


 しかしながらこれで主要キャラがいる学園から離れる事ができるのならば安いものだろう。


 嘘は言っていない(使用人に任せれば学園へと戻れる事を隠しているだけ)ので、問題ないと思いたい。


 それはそうと、何故かセバスを筆頭に使用人たちが俺の両親に仕えている時よりもやる気に満ち溢れているのは気のせいだろうか? そもそも常に空気が淀んでいたこの家が、何故か明くなっている気がするのだから気のせいではないだろう。


 もしそれが、少し前に俺が提案した領地経営についての内容によるものだとしたら、使用人から殺されるという死亡フラグはブチ折ったと思って良いのだろうか?


 思わず希望的観測からそう思いたくなるのだが、賭けているのは俺の命である為安易にそう結論付けるのは危険と言えよう。


 ここはやはり『まだ死亡フラグは折れていない』と考えて慎重に動くべきだと俺は再度気を引き締める。


 そんな事を思いながら俺はこの領地へ戻って来てから何度目かの会議室へと入り、集まってくれた使用人たちに向かって適当に挨拶をすると、これからここタリム領を更に発展させるべく俺が考えた案を話していく。


「という訳で、西側を流れている川から水路を引いてきたいと思っている。理由としてはまず下水道を作り衛生面を確保したいのと、街の周辺に水路を作り守りも固めていきたいからだ。ちなみに下水道の先にはスライムを大量にぶち込んで汚物を処理させる施設も作る予定だ。異論はあるか?」


 とりあえず町の周囲の水路によって守りを固める云々は下水道を作る次いでのような物で、あくまでも本命は下水道である。


「す、水路に下水道ですか……」

「あぁ、そうだ。これからタリム領を帝国一住みやすい街を目指して行くのだが、それにあたって噂を聞きつけた平民たちがやってきて定住する率も増えていくだろう?」

「はぁ……」


 そこまで言ってもセバス達含めた使用人たちはピンと来ていないようなのだが、この世界ではまだ下水道は主流ではない為その反応になるのも仕方がないだろう。


 なので、もう少し分かりやすく噛み砕いて説明する事にする。


 穴を掘ったり水路を掘ったりするのは俺の魔術で一気にやるとしてもその他細々とした部分に関しては使用人と手の空いている領民にやってもらおうと思っているため、こういう大規模な事業を進めるにあたり現場を指示する者たちが何故作るのかという事を理解できているのとそうでないとでは後の仕上がり具合に影響が出てくるだろう。


 特に街にとってかなり重要な機能となる為ここはしっかりと『なぜ下水道を作るのか』というのを伝えるべきだろう。


「そうなった時に注意しなければならないのが伝染病なのだが、起きてから対策するのは凡人がする対策だ。この俺ならばまず領民が増えると分かっているのならば下水道を作って伝染病が流行しにくい街に作り変える。その上で万が一伝染病が流行ったらその対処をすれば良いのだが、下水道がある街と無い街ではそこでも差がでるだろう。せっかく集めた金づるに死なれては元も子もないからな。いわばこれは先行投資である」


 そこまで説明してやると、セバス含めた使用人たちは何故か目に涙を浮かべており、中には既に泣いているものまで出てきているではないか。


 そんな泣かれるような事を言った覚えはないので、ちょっと引いてしまう。


「ルーカス様っ!!」

「どうしたセバス……? そんな感極まった表情で……」


 そんな事を思っているとセバスが涙を流しながら俺の所まで近づいて来たかと思うと、俺の手を両の手で握ってくるではないか。


 その様はまるで推しのアイドルの握手会に来ることができて感極まっているオッサンのようですこし気持ち悪いので、抑えて欲しいものである。


 でもまぁ、こうして目に見える形で好感度が上がっている事が把握できるのは良い事であろう。


「も、申し訳ございません……っ。しかしこのセバス、何故私はランゲージ家に仕えているのかと幾度となく考えた事があるのですが、きっとルーカス様に仕える為だったのだと今では確信をもって言えますっ!!」


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― 新着の感想 ―
すんごく偉そうな使用人たちだな 給金を貰っていながら新しい主人に対して自分たちの感情を隠せないとは、最低限の仕事すらできてない まさか無償で働かされてるわけでもないだろうし
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