人としての尊厳に当たる部分
しかしながらアイシャは腐ってもSSS級冒険者、先程もろ喰らった攻撃であろうとも二度目は通用することは無く、むしろ俺の蹴り技に合わせて使い捨ての氷でできた盾で防ぎ、その間にアイシャは剣先を俺の胸元へと突き刺そうとしてくるではないか。
少しだけアイシャを見くびり過ぎていたようである。
しかし、だからと言って極端にアイシャの強さを測り違えていた訳ではないので所詮は誤差範囲でしかない。
そのアイシャの刺突は、俺のデメトリアの武器スキルの一つである【雪月花】を発動していたので、それによって出現した十一本もの氷でできた剣型のビットで受け止める。
ちなみに、デメトリアは武器スキルは三個ついており、そのうちの一つである【雪月花】なのだが、発動すると俺の背中にまるで剣の華、または月のように十一本もの氷でできた剣が円形に出現する武器スキルである。
これによって出現した氷の剣は炎でも溶けず、どんな打撃でも砕けることは無い為攻撃は勿論防御としても有用である。
しかしながら攻撃を喰らうと消えてしまうのが惜しいところではあるのだが、これくらいのデメリットが無いと流石にゲームバランス的にぶっ壊れるので致し方なしと言った所か……。
それでも一年後には、属性こそ炎属性とちがうものの上位互換の武器が出ているので課金ゲームの恐ろしい所なのだが、運営も対策していない訳ではないので登場時より一年が経過すれば限界突破が、さらに一年たつと空きスロットが三つ追加、以後一年ごとに空きスロットが三つずつ追加される救済処置はされている。
ちなみにこのデメトリアはガチャに実装されてから二年目なので当然空きスロットは三つあり、そこへは移動スピード二割増加、斬撃二割増加、氷属性ダメージ二割増加を付与してある。
「何ですか、それはっ!?」
「この剣の武器スキルだ。カッコいいだろう?」
そしてアイシャは、攻撃が防がれたと分かると即座に俺から離れて距離を取った後に、俺の行使した武器スキルについて聞いてくるので、素直に武器スキルであると答えてやる。
しかしながらだからと言って攻撃の手を休めるつもりは無いので十一本の剣を操作して、俺は一歩も動かずに遠くにいるアイシャへと切りかかる。
やはりファンネル型のスキルがある近距離型の武器は、それだけで中距離へとリーチが伸びるのでかなり使い勝手が良いな。
「卑怯だとは思わないのですかっ!?」
「は? 氷の龍を飛ばして来たお前がこれを卑怯だと言うのか?」
当然こうして話している間も十一本もの剣で攻撃し続けている訳で、アイシャは防御に徹することしか出来ず、たまらず距離を取る為にその場から離れようとする。
「逃がさないよ? 戦略的撤退とかではなく、ただ単に固められるのを嫌がって後退する者に待っている未来は画面端での固めであり、更に自分を追い詰める事になるというのに……」
当然、ゲーム時代の武器である以上好きなように刀を動かせる訳ではなく一定の決められた動作内で選択して動かす事になるのだが、どんな組み合わせで攻撃しても必ず隙ができるようになっている。
そこをストーリークリア後にできる対人戦では読み合うのだが、アイシャは読み合う以前に考える事を放棄して逃げる選択しか考えていなかったようである。
おそらくアイシャレベルであればちゃんとファンネルの攻撃を見ていればパターン化されている事に気付く事はできただろうに……。その点から見てもアイシャは心が折れかけているのだろう。
弱気になってしまっているのが伝わってくる。
「ぐぅ……っ!」
「流石にしぶといな……」
「ぎゃうっ!?」
なのでここが攻め時であると思った俺は二つ目の武器スキル【氷銃】を低出力(一般的な銃と同じレベルの威力)で氷の弾丸を放ち、アイシャの左腕へと命中する。
ちなみにこの武器スキル【氷銃】の普段行使する威力はこの世界のドラゴンの鱗ですら余裕で貫通する(実証済み)威力であるが、それ程の威力をだしてしまうとアイシャの身体では耐えきれないであろうし、万が一何らかの方法で耐えきったとしても追加効果までは防ぐことはできず、一瞬にして氷の中に閉じ込められてしまう事だろう。
「な、何なのこれっ!? 攻撃を受けた個所から腕が凍っていくわっ!?」
しかしながら威力を落としからと言って追加がまでも無くなる訳ではないので、落とした威力に見合った追加効果がアイシャの身体を蝕んでいるようである。
「その氷は俺が生み出した氷の剣同様に打撃では破壊されず炎ですら溶けず、全身を氷で覆いつくすまでお前の身体を蝕んでいくだろうな」
「ひぃ……っ!? お願いっ! 謝るから解いてっ!! この氷を解いてよっ!! 私はまだ死にたくないのっ!!」
そしてじわじわと迫りくる目に見える程の死ほど怖いものは無いだろう。ついにアイシャの心がぽっきりと折れ、肥大したプライドは粉々に砕け散ったようである。
アイシャはその場にへたり込み、泣きながら俺へと懇願して来るのだが、漏らしてはいけない黄色い体液も漏らしてしまっているのはプライドとかではなく人としての尊厳に当たる部分である為見なかった事にするか……。
とりあえず、流石にアイシャをそのままという訳にもいかずストレージから上着を取り出すとさりげなくアイシャの肩へとかけてやる。
「ギルドマスター、これ俺の勝ちで良いよな?」
「そ、そうだな……」
そして、兎にも角にも俺はこれでアイシャを入れたパーティーを作りSSSランク冒険者としての待遇を受ける事ができる訳だ。
◆ダニエルside
「うーーん、ドワーフや獣人がそこまで美味しくなかったから、もしかしたらエルフもそうなんじゃないかと思っていたんだが……俺の想像通りエルフもあんまり美味しくねぇな」
俺がそう吐き捨てるとエルフの国であるウッドグリーン王国の長であるハイエルフが住む首都、エルフェイムまでわざわざやって来たというのに……とんだ肩透かしである。
そして俺は、魔剣を突き刺した護衛の男性であるハイエルフを、まるでゴミのように払い捨てる。
というかゴミだしな……。
「ハイエルフは高貴な種族だの、エルフ以外の下等種族とは血の高潔さが違うだのなんだのとデカい口を言っていた癖に、何だ? これならまだドワーフや獣人の方が独特な風味があってまだマシじゃねぇかよ。てかあれほど見下していた人間の方が圧倒的に美味いってなんだよ?」
例えるのならば人間が果実酒とするならばドワーフや獣人、魔族はその果実酒を薄めた物であり、ハイエルフは水である。
生きる為には必要である為喉の渇きを解消する為には良いが、嗜好品としてはハッキリ言って味がしない時点で論外である。
「き、貴様……魔族や人間、獣人やドワーフ等様々な種族を殺しまくっている殺戮のダニエルか……っ。我らエルフ、そしてハイエルフに対して下等な生物の人間である貴様がこんな事をしてただで済むと思っておるのか? ここで逃げ切れたとしても、いつか我の同胞たちが貴様の首を切り落としにくるじゃろう……」
「あ? うるせぇよジジイ。何千年生きて来たか分からねぇが、その見下した種族に良いようにされている現状すら認識する事ができないんじゃぁ、ボケが始まって来ているんじゃぁないのか?」
流石に人間一人にここまでされても上から目線の現状を変える事が出来ないあたり、このジジイはもうどうしようもないだろう。
「貴様……っ!! 魔剣に乗っ取られている事も知らぬ哀れな人の子が、この我に向かって何という口の聞き方を──」
「あ? 知らねぇよ糞ジジイ。死んどけや」
そして尚も唾を飛ばして噛みついて来るので流石に煩わしくなってきた俺はジジイの首を切り落して黙らす。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




