ある種の感動すら覚える
とりあえず、アイシャの使っている武器は【氷の竜牙】であり、ゲーム内のレア度はBである。
そして特殊スキルは周囲温度を下げ、寒さに弱い相手の動きを鈍く、寒さに強い相手の動きは鋭くなるという特殊スキルに加えて、斬撃には固定ダメージの他に氷属性のダメージが付与される。
勿論属性ダメージである為、氷属性が苦手な相手にはダメージは倍増し、逆に氷属性の相手には回復させてしまうというメリットとデメリットが一緒になっている剣である。
しかしながら、それでもこの世界では破格の武器である事は間違いないのだが、その武器の性能に胡坐をかかず、ちゃんとデメリットがある事を理解しているからこその、腰に別途予備の剣を帯剣しているのだろう。
その事からもアイシャはその傲慢な態度に見合った努力もしてきたのだろう。
しかしながら、それ故に勿体ないと思ってしまう。
このレベルまで上り詰める事ができるだけの努力をしてきた結果、相手をまず見下す事から入り、そのせいで視野が狭くなり、見えるものも見えなくなってしまっているのだろう。
だからこそゲームではブラックスライムへ単独討伐を、そしてこの世界ではDランクというだけで相手を見下して俺に噛みついてしまったのだろう。
「後悔しても知りませんからね……。それこそ、凍傷で指先が腐ってしまい、二度と剣が仕えなくなってしまっても、それは自業自得。己の見る目の無さと傲慢な態度、そして肥大したプライドを恨む事ですね」
そして、俺に煽られたアイシャは怒りの感情のまま愛剣である【氷の竜牙】のスキル能力を使い、ただでさえ肌寒い修練場の温度を氷点下まで下げ始める。
「くだらない」
「……今なんと?」
「くだらないと言ったんだよ。そもそも今お前が偉そうにして行使している力はお前の力ではなくてその剣の力だろう? そんな、剣の力をまるで自分の力であるかのように振舞うのもくだらなければ、それで勝った気でいるのもくだらない」
そういうと俺はアイシャが持っている剣と同じ系統の剣をストレージから取り出す。
「な……何ですか……っ!? その剣はっ!!」
腐ってもSSS級冒険者。俺の取り出した剣を見ただけで、この剣のヤバさを肌で感じ取ったのだろう。
「この剣はデメトリアという剣だな。言っても分からないだろうが、この剣は冬を担うギリシャの女神の名前を付けられているだけあってレア度はURであり、当然レベルもカンストした上で限界突破もしている一振りだ。分かりやすく言うとお前の持っている剣の完全上位互換というやつだ」
そして俺はストレージから取り出した、課金ガチャで七万溶かして手に入れたURの武器【デメトリア】(カンスト済み)を取り出し、自慢する。
やはり、苦労して(金を溶かして)手にし、クエストを周回してアイテムを集めて育てた武器となると自慢してしまうのは仕方ない事だろう。
「う、嘘ですっ!! 私のこの【氷の竜牙】よりも上位の武器なんかがある筈がないっ!! しかも同じ氷属性で上位の武器なんかあって良いはずがないじゃないっ!! そんなものは偽物に決まっていますっ!!」
「あっそう。まぁ、そう思うのはお前の勝手だから、そう思うのなら良いんじゃないのか?」
それにしても、苦労して手にして育てた武器を実際にこうして眺めるのは、ある種の感動すら覚える。
その感動と比べたらアイシャに向けていた怒りの感情など取るに足らないくらいにはどうでも良いとさえ思ってしまう。
しかしながらそれとは別に、せっかく人が自分の剣を気分よく眺めている横で『そんな剣があるはずない』だとか『その剣は偽物に決まっている』だとか言われれば、それはそれで俺の努力(課金)が無駄な行為だと言われているようで腹が立つ。
なのでとりあえず、コイツには俺には太刀打ち出来ないと思える程プライドを粉々にした上でこの模擬戦を終わらそうと思う。
勿論プライドを粉々にするのだから急所を狙い、審判を兼ねているギルドマスターによって勝敗を宣言されては意味がないので、嬲るように遊んでやるとするか。
そもそも、ゲームのヒロインという事もあり、変に優しくしてフラグを立てられるのも嫌だしな。
「…………ふーーーーっ」
そんな事を思っているとアイシャは深く一度深呼吸をすると、次の瞬間には姿が消えていた。
恐らくスキル【縮地】またはそれに似た効果を持つ移動方法で一気に俺の後ろへと回ったのだろう。
「子供だましだな」
「うぎゃ……っ」
しかしながら見えていないけど動きのパターンが分かっているのならば、タイミングを合わせて蹴り技をカウンターで入れる事など造作もない。
そしてアイシャは俺の蹴り技を諸にくらい修練場の壁へと土煙を上げながら激突する。
「まさかこれで終わりとか言わないよな?」
「あ、当たり前です……っ!! 武器スキル【氷龍の顎】っ!!」
すると、アイシャは武器スキルを使ったのか土煙の中から氷の龍が俺目掛けて飛び出してくると、その顎を開き噛みついてくるので、その氷でできた龍をデメトリアで、まるで羽虫を叩き落とすかの如く横薙ぎによる斬撃で切り潰す。
「そ……そんな……っ」
そして氷の龍が俺の斬撃で砕け散る光景を、アイシャは呆然と眺めながら突っ立っているではないか。
「そんな蛇でこの俺をどうにかできると思っているのか? そもそも、武器スキルを使うのは良いがその後攻撃を追撃するわけでもなく、ただ突っ立っているとは……がっかりだな、ハッキリ言って。どうせ今までその武器スキルを使えば大抵の相手は一撃で屠る事ができ、そうでなくとも致命傷を与える事ができたのだろうが、その力は所詮武器の力であり、言い換えれば『自分の力では勝てない相手には武器の力でどうにかしてきた』その事からも、それで手にした地位、冒険者ランクSSS級も、対価も、全てがお前そのもの評価ではなく武器の評価だったという訳だろうな」
まぁ、それを言うとゲームの能力を引き継いでいるだけの俺も他人の事は言えないのかも知れないのだが、それでも今俺が持っている力とそれを扱う為の知識に立ち回り方はゲーム内とはいえ俺が努力して得た俺の血肉である事には変わりない。
ただ、俺とアイシャとの違いがあるのだとすれば同じレベル、または自分よりも強い相手に巡り合う事が今までなかったという違いだけだろうとは思う。
俺も武器スキルを使うだけで相手に勝てるのであれば立ち回りやコンボ、有利・不利の対面、それこそフレーム単位で調べたりなどしなかっただろうし、アイシャと同じように武器スキルを行使するだけのbоtみたいな戦い方になってしまっていただろう。
でも俺はこれだけで終わらすつもりは無いし、アイシャの心が折れるまでしっかりと分からせるまではやるつもりである。
「ふ、ふざけないでください……。この私が血反吐を吐きながら武の道以外を捨ててまで手にしたSSS級冒険者という地位を……私の力を示した評価ではなく武器の力を示した評価ですって……っ? その言葉、絶対に後悔させてあげましょう」
そして、自身が追撃する必要も無いと棒立ちするほどの信頼を置いている武器スキルを目の前で簡単に切り砕かれたのを見たにも関わらず、アイシャはまるで『武器スキルを使わなくても俺に勝てる』というような言葉を吐いて俺を睨みつけるではないか。
何か他に手札を隠し持っているのかとほんの少しだけ注意して相対するのだが、結局アイシャは縮地か何かを使っての瞬間移動を使って俺へと一気に距離を詰めて来るだけなので、同じようにタイミングを合わせて蹴り技を入れる。
「かかったわね。この私が何の対策も無く同じように攻める訳がないわ」
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




