私たちの旦那様は最強だ
アイシャの上から目線で見下してくる態度には腹が立つもの、今この場所にはドゥーナとマリアンヌは、そしてアイシャのメインヒロイン三名が揃っている光景は、原作ファンとしては素直に感動してしまうレベルであり、思わず映像魔球を使いこの光景を記録として残したい衝動に駆られるのだが、この一触即発しそうな雰囲気にも関わらずいきなり映像魔球を取り出して撮影し始めるのは、明らかに頭のおかしな人物認定されかねないので、ここはグッと堪える。
それに、いきなり見下してきたアイシャの態度に腹が立ったのも事実なので、その相手に『(原作の)ファンだから映像を撮らせて欲しい』等とは言いたくない。
そこは絶対に譲ってはいけない部分である。
「ほう、威勢だけは良いようだが、その威勢がどこまで持つのか私が試してみよう。それと、金持ちの坊ちゃんには分からないでしょうから一応忠告はさせてもらうわね。良い武器を使い自身のステータスを強引に上げた状態を『自分の本当の力』だと勘違いしているのかもしれないのでしょうけど、それはあくまでも武器の力であって貴方自身の力ではございません。その力を自分の力と過信していてはいつか『本物』が現れた時にその事に気付いても遅いでしょう。ですがあなたは幸福です。その本物から教授できる機会を今から体験できますもの。本来であればその授業料は自身の命となる事が多い中、今回は私への土下座謝罪で許してあげましょう」
うん、絶対に譲らねぇわ。何なら泣かすまであるな……。
俺が密かにヒロイン三人揃っている光景に感動している事には気付いていないアイシャは、俺がアイシャからの模擬戦を承諾するだけではなく、俺がアイシャに勝って当たり前だというような態度が癇に障ったのか長めに説教じみた事を俺に言ってくる。
確かにアイシャの言わんとしている事は分かるのだ、戦う前から『俺はアイシャよりも弱い』と決めつけられて話をされると流石の俺も腹が立つというものである。
そもそもこのアイシャは確かゲーム内では主人公たちと同様に高ランクの魔物に挑み、勝てないと分かって命からがら逃げてきたところで主人公たちと出会い、主人公も昔魔獣に挑んで敗走した経験話で打ち解け意気投合から仮のパーティーを組み勝てなかった魔物へ再度挑んで討伐成功し、そして正式に主人公たちのパーティーメンバーとなるという話であったはずである。
その本来こうなる筈であったifの未来を知っている俺からしてみればブーメラン過ぎて『お前や!』と突っ込みたくなる。
ちなみに、アイシャが勝てなかった相手は魔剣士殺しと言われるほど、魔剣士の天敵であるブラックスライムであり、Sランクという実績とプライドから魔剣士であるにも関わらず『自分ならば勝てる』過信した結果、命からがら逃げる羽目になったという内容である。
更に補足すると、このブラックスライムは討伐ランクS級であり、同じS級とはいえ相性が悪い魔剣士がまず勝てるような相手ではない強さである。
恐らくアイシャは、今俺に高圧的かつ上から目線な態度で絡んで来たところを見るに間違いなく現時点で自分の強さを過信し『今の自分はSSS級冒険者』だと勘違いしてしまっているだろう事が伝わってくる。
その為ブラックスライムを討伐してSS級冒険者にランクを上げようと職員の制止も聞かずに単独でブラックスライムがいるとされる漆黒の沼地へと討伐しに行った結果が敗走という何ともお粗末な結果である。
そもそも魔剣士が足元を囚われる湿地帯でまともに戦えるのか疑問ではあるのだが、湿地帯にブラックスライムがいると知っていて討伐しに行くのだから、何かしらの対策はしていた筈だと思いたい。
ようは、今のアイシャはその肥大しきったプライドが折れる前のアイシャである事は間違いないだろう。
そして恐らく、この世界でアイシャのプライドを折る役目がブラックスライムから俺へと変更したとみて良いだろう。
運命に対して実に面倒くさい役回りを俺へと押し付けてきやがったと一言クレームを入れてやりたい気分である。
そんな事を思いながら俺たちは模擬戦をするべく闘技場まで向かう。
「ドゥーナからはわたくしが思っている以上にルーカス様がお強いという話は聞いてはおりますが、相手はSSS級ランクの冒険者ですわ……。相手の挑発に乗って模擬戦をしても問題ないんですの? 怪我とかで済んだ場合はわたくしが回復魔術で治癒してあげられますが、万が一命に係わる致命傷を負ってしまう可能性もございますわ……っ。今からでも遅くないと思いますし、わたくしも一緒に頭を下げますので一緒にアイシャさんへ謝罪をした方がよろしいのではなくて? 見下されて腹が立っているのはわたくしも同じですけれども、それよりも死んでしまっては元も子もないですわ……っ」
「大丈夫だマリアンヌ、私たちの旦那様は最強だ。相手が例えSSS級冒険者であろうとも負ける事はないぞっ!! だからそんな不安そうな顔をせず、どんと構えてこの模擬戦を見守っていればいいっ!!」
そして、これからアイシャと模擬戦を行うという時にマリアンヌが俺の心配をしてくれるのだが、それを俺の代わりにドゥーナが大丈夫だと答えてくれるではないか。
ドゥーナが信頼してくれているだけで何だか少しだけ嬉しく思ってしまう。
ちなみに冒険同士の模擬戦なのだが当然高ランクになっていくにつれて技や魔術の威力も上がる上に、使う武器は冒険者が実際に使っている武器や魔杖が多くなってくる。
勿論ギルド側は木剣などを表向きは勧めているのだが、上の者になればなるほど慣れ親しんだ武器じゃないと本来の力を発揮しないというのと、負けた時の言い訳にされる可能性を潰したいという事もあり本物の武器で行う模擬戦というのが増えて来る。
その場合勿論身体に後遺症が残ったり手足が切り落とされたり、最悪死亡するケースもある。
この場合ポーションを使えば何とかなるのだが、例えば腕を切り落とした後に炎魔術で焼き尽くしたりすると【フェニックスの尾】を使わない限りはくっつける腕が無い為回復は見込めないし、即死した場合も蘇生する事はできない。
そして、今回模擬戦の相手はSSS級であり、模擬戦の内容は実際に使っている武器の使用となっている為マリアンヌが俺の事を心配するのも分かるし、ドゥーナが俺の事を心配してくれるのは嬉しくも思う。
しかしながら、ただ一つだけ引っかかる事がある。
私の旦那様ならば分かるのだが私たちの旦那様というのは一体どういう事なのだろうか?
俺、その部分が気になり過ぎて模擬戦に集中できないのですが? ドゥーナさん。
というか、あの日一緒にマリアンヌと二人でお風呂に入った時かっ!? それとも一緒に寝た時なのかっ!? ドゥーナさんっ!! 一体マリアンヌと何を約束したっ!? 旦那様は嫌な予感で冷汗が止まらないんですがっ!!
アイシャの件といい女難の相が出ているとしか思えない……。
とりあえずこういう場合は『恐らく大丈夫、多分大丈夫、きっと大丈夫』だとか『言っても俺が当主だから何とかなる』などと思い後回しにしてしまうと取り返しのつかない事になりかねない(最近セバスが第二夫人を娶れという圧が増してきているのも気になる)ので、この模擬戦が終わったら二人とはしっかりと確認する必要がありそうだ。
今回ドゥーナの同行はここ帝都までなのだが(流石に俺の子供を身ごもっている状態では長旅になるかもしれない同行は許可できない代わりに別邸のある帝都までならば構わないという事を同意の上でここまで同行を許していた)、ドゥーナの身の回りの世話をする為にセバス及びセバスが選抜したメイド数名も一緒に帝都へと来ていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




