ヒロインの一人
ダニエルの討伐が国やギルドからの依頼であれば、お前たちから依頼しておいてこの体たらく、しかも何も対策を講じていない時点でキレ散らかしていたのかもしれないのだが、今回のダニエルの討伐はあくまでも俺の自己判断であり、そのある意味俺の我が儘でギルドの情報を寄こせと言っているのだからここでキレるのは違うだろうと判断して、少しイラついた感情を深呼吸一つして抑える。
そもそも、恐らく本来であれば外に漏らす事の出来ない情報を俺に教えてくれた時点で感謝こそすれ怒るのはただのクレーマーだろう。
理不尽な内容でない限りギルドにはギルドのルールというものがあるだろうし。
しかしながら、だからと言ってここで引き下がるつもりは毛頭無いので、とりあえず質問を一つ投げかけてみる事にする。
「なぁ……」
「は、はい……っ」
「俺の冒険者ランクをSランクとやらに一気に引き上げる方法、またはSランクとやらと同等の権利を得る抜け道みたいな方法は無いか?」
とりあえず、向こうから提示しないのであればこっちから聞き出せばいい。
言わないからできないと判断するのは早計過ぎるし、俺にはこのギルドマスターが『また面倒臭い事になりそうだから敢えて言わなかった』という風にしか思えないのである。
そして、俺の予想は当たっていたみたいで、ギルドマスターは『コイツ、今一番聞いてほしくない事を聞いてきやがった』というような渋い顔を一瞬だけした事を俺は見逃さなかった。
「そ、それは……そのー……有るというか無いというか何と言いますか……」
「嘘ついたら……また俺暴れちゃうかもなぁ……?」
「あ、有るには有りますっ!! ただ、ルーカス様を面倒な事に巻き込んでしまう可能性があるのですが、それでも大丈夫でしょうか……っ?」
「あぁ、かまわない。言ってみろ。それに聞くだけならばタダだし、聞いてからダルイ内容ならば断われば良いだけの話だしな」
「わ、わかりました……」
それでも尚ギルドマスターは渋るので少しだけ殺意を込めて早く話すように促すと、やはり俺の見立て通りSランクになる方法、またはSランクと同等の権利を得る方法があるようだ。
「それは、既存のSランク、その中でもSSS級の者と同行した場合はその同行者は、同行している間のみS級として扱われます……」
「なんだそんな事か。一体どんな内容かと少しばかり身構えてしまったではないか。それで、今この帝都ギルドにはそのSSS級冒険者とやらはいるのか?」
「あぁ、今ちょうど一人いるんだが……ちょっと愛想が無いというか、無礼な態度をルーカス様にとってしまっても怒らないでくれればありがたいんですが……」
そしてなんとなくギルドマスターがこの話を避けていた理由が分かってきた気がする。
どうやら今ここ帝都のギルドにいるSSS級冒険者が性格に難がある者しかいない為、俺と鉢合わせて無礼な行為をしてしまう可能性を考え、そのリスクを回避しようとしていたのだろう。
「でもまぁ冒険者という者たちはそういう世界で生きてきただろうし、生い立ちもあるだろうから多少の無礼には目を瞑るさ」
なので俺はギルドマスターを安心させるために多少の無礼であれば目を瞑るというのだが、それでもギルドマスターは安心したようには見えない。
まさか、多少どころの話ではない……というのだろうか?
むしろギルドマスターが全くもって信頼していない事が伝わってくる程の者が、いったいどんな者であるのか逆に気になってきた。
「……そんなにか?」
「……そんなにです」
「なるほど……逆に気になってきたな。 今ここに呼ぶことは出来るのか? 実際に合ってみて一緒にパーティーを組むか、調教して性格をまともに改造……正してからパーティーを組めば良いか選べばいいだろう」
「……わ、分かった。一応連れてきますが、怒りの矛先をこっちに向けないでくださいよ?」
「分かっている。だから早く連れてくれば良い」
そして、しぶしぶといった感じでギルドマスターはその問題児をここへ連れて来てくれるようだ。
ギルドマスターはその問題児と俺を鉢合わせたくないという気持ちも分かるのだが、最終的にはギルドマスター同様に力でねじ伏せれば問題ないだろう。
どんなに生意気であろうともギルドマスター同様に『絶対に勝てない』『こいつには絶対に逆らってはいけない』というのを分からせてあげれば良いだけである。
「では、そいつを呼んでくるので少しこの部屋で待っていてください……っ」
そう言ってギルドマスターはこの部屋から出て行くと、十分ほどで戻って来る。
「…………は?」
そうして連れてきたのは、腰まで伸びた青みがかった銀髪に、まるで俺を値踏みしつつも見下すつり上がった目に、大きな胸……。
その姿はRPGゲーム『暁の夜明け』のストーリー中に仲間になるヒロインの一人である氷の女帝という二つ名を持つアイシャ・コンラッドではないか。
何故俺は気付く事ができなかったのか。
マリアンヌがここへ来た時点でアイシャもまた俺の元へ合流する可能性はかなり高かったはずであり、そしてこの出会いは気付いていたら避ける事ができた筈である。
「こいつが、身の程も知らない冒険者ランクがD級のバカ貴族……という事で良いのでしょうか?」
そしてアイシャはまるで周囲を凍り付かせそうなほどの冷めた視線を俺に向けながら、かなり失礼な事をギルドマスターへ確認するではないか。
「そ、そうだけど、そうじゃないというか……とにかく、貴族であるルーカス様相手に言ってはいけない言葉があるだろう……っ?」
そんなアイシャの態度にギルドマスターは、お腹辺りを抑え、脂汗をかきつつも何とかフォローを入れてくれるではないか。
きっと今のギルドマスターはストレスとプレッシャーで腹痛を感じているのだろう。
俺も前世で似たような状況、ストレスとプレッシャーで胃に穴が空き入院した事があるので、今のギルドマスターの気持ちが痛い程良く分かる。
「ほう、ギルドマスターも落ちたものですね。こんな、冒険者ランクDというバカ貴族に対して『相手は帝国の爵位を持っているから』という理由だけでペコペコと……。それとも何かしら? コイツがギルドに多額の寄付をしてくれているとでもいうのでしょうか。だとしてもここ冒険者ギルドであり、強いものが権力を持つというのに、恥ずかしくないのかしら?」
そんな、今にも胃に穴が空きそうになっているギルドマスターに容赦なく思った事をずけずけと言い放つ。
「ほう、強い者が権力を持つ……ね。であればお前は俺よりも弱いのだから、それ相応の態度を取ってもらおうか?」
「……いいだろう。今から修練場に行って分からせてあげましょうか?」
「そうだな。自分は俺よりも弱いと気付けていないのであれば、その事が分かる事ができる良い案だな」
まぁ、ゲーム通りの性格であれば、こういう展開だよな……。
しかしながら初対面にもかかわらず開口一番そんな失礼な事を言ってコイツはどの道ボコるつもりでいたので相手から修練場へ誘ってくれるのであれば、わざわざこちらから誘う手間が省けたというものである。
「……言っておきますけど、ここの筋肉だるまのせいで理解できていないとは思いますが、ここ冒険者ギルドでは貴族だからといって他の場所同様にぺこぺこと低姿勢で相手をしてくれると思ったら大間違いだという事だけは教えてあげましょう。そもそも冒険者ギルドは帝国に所属していないので、冒険者ギルド内は帝国の法律など通用せず、適用されるのは己の強さのみであるという事だけは言っておきます」
「ご忠告、どうも。ではお礼に俺からも一つ……。人を肩書や見た目で判断したら痛い目見るぞ?」
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




