領地再建計画
そんな事を考えながら俺は領地へ帰る身支度を済まして行くのであった。
◆
「お帰りなさいませ、ルーカス様」
馬車に揺られて終日、ランゲージ家の領地へと到着し、実家へと向かうとランゲージ家の執事であるセバスが出迎えてくれ、俺の荷物を代わりに持ってくれる。
ちなみに俺の死亡フラグの中にはこのセバスに裏切られて背中からナイフで刺し殺されるという展開があるので何とか回避したいものである。
「それで、俺の父上と母上は……」
「残念ながら死亡されました」
「……そうか」
やはりというかなんというか、俺の両親は死んでおり、これから一度自室に荷物を置いた後、その両親の死体を安置している部屋へと案内されるそうだ。
そして荷物を置いた俺はセバスに案内されて両親の死体を安置している部屋へと向かう。
そこには、顔の原型が無い程にまで暴力を振るわれている事が見て分かる両親の死体があった。
しかし、顔の原型をとどめていないのだけれども確かに俺の両親だと分かるこの死体は、もし前世の記憶が無いまま見てしまったのならば俺は領民たちに対して更に心を閉ざして今まで以上に領民を締め上げるような性格の人間に変ってしまう気持ちも理解できてしまう。
普段の不摂生で前世は死んだんだろうというのは理解できているのだが、それの不幸が今世では幸運にも死亡フラグを回避する為に役に立つのだから皮肉なものである。
「セバス……」
「はい」
「この後、領地の経営を見直していく。主要な使用人を全員会議室へ集めておいてくれ。一時間後に俺もそこへ向かうからそれまでには全員揃えるように」
「……かしこまりました」
そして、両親の死によって俺がそのまま家督を継ぐ(今は代理なのだが、追って皇帝陛下から正式にランゲージ家の当主とする旨が言い渡される)事になっているので今からできる事は一日でも早く変更した方が良いだろうと判断した俺は早速セバスに対して領地経営に関して主要なメンバーを揃えて来るようにと命令をする。
そもそも俺は今までこの家の使用人たちには興味が無かった、正式に言うと同じ人間とすら思っていなかったので名前も顔も覚えておらず、誰を呼べばいいのか分からない結果、呼ぶメンバーはセバスに丸投げとなってしまったのだが、これで良いだろう。
そして俺は指定した一時間後まで何を変更するべきか紙へ書いていると、気が付いたら一時間まで五分前になっていたので早速俺は会議室へと向かう。
その会議室の部屋へと入ると既にセバスが声をかけたであろう使用人たちが揃っており、一斉に俺の方へと視線を向けてくるではないか。
しかしながら使用人たちが俺に向けてくる視線からは『このドラ息子がまたおかしな事を言い始めるんだろう? それに振り回される俺たちや領民の事なんて何一つ考えていないクズだな』という感情がダイレクトに伝わってくるので、俺が家督を継いだ家である筈なのにめちゃくちゃ居心地が悪くてゲロ吐きそうになってくる。
いやまぁ使用人たちの思わんとする事は今までの両親の行いや、俺の普段からの行動や言動を考えればそう思われても仕方がないと言えばそれまでなのだが、それでもこうも大勢から嫌っている事を隠そうともしていない視線を向けられる経験は前世でも無かった為、思わず怯みそうになってしまう。
だからといってここで怯んでしまい、何も言いたいことも言えないまま終ってしまい領地経営で変えるべき個所も変える事ができず終わってしまう方が嫌だと思った為、ここは勇気を振り絞って言いたいことを言う事にする。
まぁ、ここで何も言えなければこれから先何も言えないという訳で、それはそれで死亡フラグが立ってしまう可能性がある為どの道ここで何もしないという選択肢は無いのだが。
「他に仕事もある人もいただろうが、急な呼び出しに応じ、集まってくれたことをまず感謝する」
俺の我が儘によって急遽集まる事になったので、とりあえず初手謝罪から入る俺なのだが、俺が謝罪の言葉を口にしたところでざわめき始め、頭を下げた瞬間に驚愕しているのか先ほどまでざわめいていた会議室が一気に静かになる。
「では、静かになったところでまず俺からの提案なのだが、このバカげた税率を下げようと思っている。なんなら他の領地の平均でもまだまだ高いと思っているので一気にこの額まで下げていきたいのだが、急に下げてしまうと色々と問題もあるだろうからひとまずは他の領地と同じくらいの税率へと下げたいのだがどうだろうか?」
そう俺が提案すると、みんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしながら俺の方を見ているではないか。
いやまぁ確かにクズな両親の間に産まれたドラ息子から『税率を下げたい』などという言葉を聞いたら俺だって使用人たちと同じような表情をしてしまうだろう。
「ルーカス様……失礼な事を聞く事をお許しください」
「かまわん。どうした?」
「ありがとうございます。ルーカス様、先ほど申しました税金の引き下げを考えているというのは本気なのでしょうか?」
そんな中セバスが使用人を代表して先ほど俺が提案した税率を下げるというのは本当かと確認してくるではないか。
「本気だ。なんならそれだけではない。領民の為に子供は無償の学校を我がランゲージ家のお金で作ろうと思っている……どうしたセバス? 信じられない物を見るような表情をしているぞ」
「す、すみません……。しかしながらやはり信じられないと言いますか、なんと言いますか……」
「まぁ俺の両親があれでは信用できないのも無理ないのだが、そもそも領民から頂いた税金で私腹を肥やしていた今までの両親が狂っていただけだ。これからはちゃんと領民にいただいた税金を還元できるような形にしていこうと思っている。その為に今日はお前たちの知恵を借りるつもりで呼んだんだ。そして、徴収した税金を還元する案の一つとして学校の建設という訳だが、何も善意だけで小学校を作る訳ではない」
ここまで俺は一気に話すと、セバスだけではなく使用人たちまでが信じられないような物を見るような表情になり、次の瞬間今度は俺の言葉を聞き逃すまいと真剣な表情になる。
「と、言いますと?」
「一つは未来への投資だな。そしてもう一つは、ここの領地では子どもは無料で勉強ができるという噂が広まれば年々減少傾向にある我が領地の人口をプラスにできる一つのきっかけになるかもしれない。しかしながら、だからといって税金が高ければ本末転倒なので税金も減らす。まぁ、税金に関してはどう考えても高すぎだから学校を建設するしない関係なく下げるつもりではある」
そこまで言うと俺はセバスから視線をはずして、今度は使用人を見渡しながら話す。
「俺の考えはなんとなく理解しただろう? 次はお前たちの『この領地を立て直す考え』があるのならば教えてもらおうか。ちなみにどんな案であろうとも切り捨てたりクビにしたりはしないと誓おう」
そう俺が言うと、ここまでしてようやっとセバス含めた使用人たちが、俺が本気であるという事を信じてくれたようで、領地再建計画は早朝まで続くのであった。
◆
私はランゲージ家に仕えている執事である。
昔からこのランゲージ家は見栄や私利私欲の為にお金を使う傾向があり、それが年々酷くなっていくのを見ていつか誰かに殺されるだろう、最悪誰も殺さないのであれば私が殺そうか、等と考えてしまう程である。
そんなある日、やはり領民を締め上げてきた報いを受け、ここタリム領の領主であり公爵でもあるランゲージ家当主とその妻が何者かによって殺害されてしまうではないか。
私としては良くやったと心の中で思うのだが、だからといってランゲージ家には嫡男であるルーカス様がいる為まだ安心できない。