幸せな未来
基本的にはそんな感じで、前世でいう所の中学生または老夫婦のようなデートをしているのだが、今日に限ってドゥーナが朝からそわそわと落ち着きがないのが少しばかり気になる。
その落ち着きの無さの原因は直ぐに分かった。
少ししてからドゥーナがまるで死地へ行く事を決意したかのような表情になったかと思うと、次の瞬間には『俺との間に子供が欲しい』というではないか。
これはこれで本心からであるのは間違いないだろうが、それが『貴族の務めとして』であるのならば断わろうと思っていた。
そうであるのならば無理に子供を産む必要は無いし、なんなら教会から孤児を養子として迎え入れても良いと思っていた。
その為一応ドゥーナに『なぜ俺との間に子供が欲しいのか』といのを確認すると、きっぱりと貴族の務めではなくて一人の女性として愛する異性との子供が欲しいと言われてしまうではないか。
正直な話しドゥーナのような美人に好意を寄せられていると分かってからは毎日我慢の日々であったのは間違いない。
俺も一人の男性である。
ドゥーナの容姿や性格は自分の好みであり、そんなドゥーナと夫婦でもあるのだからそういう行為を求めても良いのでは? という感情が無かったと言えば嘘になる。
しかしながらそれはそれこれはこれである。
今のドゥーナの現状ではまだ心に傷を負っており、そういう行為は精神的に負担になってしまう可能性がある、または前世でいうところのまだ高校生程の年齢である為そういう行為に興味があっても子を成すという事まで想像できていない可能性だってあるのだ。
そう思ったら一歩踏み出せない自分がいた。
前世の年齢も足すと三十を超えるオッサンが、責任から逃げて、決定権を十代の女性であるドゥーナに託す。なんと情けない事か。
しかしながらこればっかりは相手の同意がなければ絶対にやってはいけない行為であるのも間違いないので線引きが難しいわけで。
そんな事を考えている自分自身に対しても嫌悪感を抱いてしまっていた。
「分かった。だが、本当に嫌だと思った時は遠慮せずに言ってほしい」
「いう訳がないだろうっ!! むしろ旦那様の了承を得られたのならば今すぐにでもっ!!」
そんなうじうじとしている自分と違い、こうと決めたら竹を割ったような性格をしているドゥーナを見て、何だかんだで俺たちは馬が合っており『良い夫婦になれそうだな……』と、ドゥーナの尻に敷かれつつも何だかんだ幸せな未来を想像するのであった。
◆勇者side
俺はどうして今こんな事をしているのだろうか?
魔剣を手に入れてまで強さを求め、魔獣や魔物を殺しまくり魔剣へ捧げる日々の繰り返しである。
確かにあの老婆の言う通り、この魔剣を手にすると信じられない速度で一気に強くなった事はたしかであるし、そこからの成長スピードも目を見張るものがある。
だが、俺が力を得れば得る程魔剣が血を欲するようになり、最近では弱い魔獣では満足しないのか討伐ランクB級以上でなければ魔剣からの血の要求が収まらなくなってきている。
ここ最近では寝ている時と食事の時以外はずっと魔獣や魔物を狩り続けてやっと何とか魔剣を鎮める事ができるほどだ。
これでは何のために強さを求めたのか意味が分からない。
更に酷いのが、魔獣や魔物よりも人の血の方が、魔剣が静まりやすいという事である。
そして、ここ最近では魔剣の要求によって人を殺したいと思っているのか、俺自身が人を殺したいと思っているのかが分からなくなって来た。
こんな事になるのならば魔剣など手にするんじゃなかったと後悔するも後の祭りである。
帝国内に居れば俺はいずれ近い将来人を殺すだろう。
だから俺は魔王を倒しに行くことにした。
ここ最近魔王の動きがきな臭いという噂を良く耳にしていたので、恐らく人族側へ戦争を仕掛けるつもりではないのかという推測がされているのだが、俺からすればどっちでもいい。
魔族と人族などそもそも相いれない存在である以上、お互いに手と手を取りあって平和な関係を等と言っている者は頭がお花畑なのだろう。
そんなもの、魔族を根絶やしにすればそんな問題など無くなると言うのに。
人間を殺したいという欲求と魔族に脅かされる事が無くなる、まさに一石二鳥ではないか。
きっと楽しいだろうな……。
逃げ惑う魔族を一方的に嬲り殺すのは。
それも子供など弱い存在であれば尚良い。
ダニエルが魔族の住む国へ行った数か月後、魔族側から『人族が我が停戦協定を破った』という抗議と、それ相応の賠償が無ければ人族側へ攻め込む旨の報せが各国へ告げられるのであった。
◆ 主人公side
せっかくタリム領が軌道に乗り始めたというのに、魔族と人族の間で再び大規模な戦争が起きるのではないかと危惧され始め、ここタリム領の領民もかなりピリついていた。
ちなみに魔族側の主張は某青年の身柄を生きた状態で渡す事と、多額の賠償金を魔族側に支払わなければ人族へ攻め込むというものであった。
そしてその青年を帝国は賞金をかけて探し出しているのだが、魔族側が提供した映像魔球に映し出された人物が、どっからどう見てもダニエルそのものではないか……。
ちなみに今現在ダニエルは行方をくらませており、何処に潜伏しているのか分からないという状況である。
それだけならばまだ良いのだが、ダニエルの足取りを遡った結果帝国から魔族側へと向かっていた事が分かり、今現在帝国は魔族側だけではなく人族側の国々からかなり非難されてしまっている。
俺のスローライフ生活がやっと形になり始めたというところでダニエルの奴がとんでもない邪魔をしてきやがった……。
死亡フラグを回避しようとした結果、運命が強引にその歪みを元に戻そうとしているような、そんな気持ち悪い感覚になる。
まぁ、これが運命の仕業だと言われても跳ね返すだけなのだが。
今の俺には守るべき領民と妻であるドゥーナ、そして近い将来俺たちの間に産まれてくるだろう子供がいるので今まで逃げてきた運命と戦う覚悟は既にできている。
「ダニエル……いったいどうしてしまったんだろうか。 こんな事をするような奴じゃなかったんだが……」
「確かにな……。もしかしたら誰かに操られている可能性もあるから何とも言えないのだが……それでも実際に魔族側で虐殺行為をしたのはダニエルで間違いない……。その報いは受けなければならないだろう」
俺視点から見てもダニエルの性格は終わっているとは思うのだが(まさかあそこまで酷い性格だとは思わなかったのだが)、それでもあんな事をするほどの度胸はなかったはずであるし、第三者からよく見られる事を第一に考え行動していた人間が、第三者から嫌われてしまうような行動をするとはとてもではないが思えないのも確かである。
その為、恐らくダニエルではない何かしらの要因が別にあるとは思うのだが、それが何であるのかまでは分からない。
もしかしたら気でも狂ってダニエル本人の行動である可能性もあれば、バックに誰かいる可能性や、既に殺されていて死霊系魔術で操られていたり、そうでなくても魅了などで操られている可能性もある訳で……。
どの道、こうなってしまったのは俺が本来とは違う行動を取ってしまったから起きた事件である事は間違いない。
であれば、今回魔族側で起きた惨劇は俺のせいで起きたと言っても過言ではないだろう。
「もしかしたら俺があの時ダニエルを追い込み過ぎたせいかもしれないよな……」
「それは違うぞ、旦那様。全てダニエルの弱さが招いた結果であり、全てダニエルの自己責任だ。旦那様のせいではない」
そしてマイナス思考に陥ってしまい、思わず零れてしまった言葉にドゥーナがそれは違うと俺の目を見て力強く否定してくれる。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




