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打算的で、最低なのだろうか





 わたくしはあのクマ型の魔獣が現れ、ドゥーナが犠牲になった時、ドロッとした黒い感情に満たされていた。


 これでダニエルを独り占めできると思ってしまったし、実際にそうなった。


 そして片足を失ったドゥーナは学園を去り実家に帰ったと聞き、安心した。


 万が一学園に残ってしまいダニエルがドゥーナに対して罪悪感を抱いており、介護なんかし始めた場合、折角優位な立場になれたにも関わらずドゥーナにダニエルを奪われてしまう。


 そう思ってしまったのである。


 つくづくわたくしは最低な女だと思う。


 そして、そんなわたくしが聖女だなんだと持て囃されている現状も気持ちが悪い。


 ボタンを掛け違えている服を気付いているにも関わらず直す事もせず過ごしているような、そんな気分である。


 しかしだからといてわたくしの中の黒い部分を、ダニエルを含めた他人に教える程の勇気もなく、いつかバレてしまうのかも知れないという恐怖とともに毎日過ごしている。


 そんなストレスを抱えながら学園生活を過ごしていると、ドゥーナが学園へ一度戻って来るというではないか。


 それも、あのルーカスの嫁としてである。


 その時わたくしはドゥーナの事を本心から可哀想だと思ってしまった。


 それはドゥーナが『ダニエルの恋敵にはなり得ない』と分かりきっているからこそ、やっとドゥーナの事を一人の人間として見る事ができたのであろう。


 そんなわたくしが自分ですら恐ろしくも思う。


 敵だと判断したら仲間であっても不幸を望むなど、聖女としてあまりにも相応しくない。


 中身は最低な女である。


 そして、ダニエルとルーカスが相対する時、ダニエルとルーカスの反応を見て私は何故か安心してしまう。


 表では良い人を演じてその化けの皮が剥がれたダニエルに対して、表ではクズを演じて中身はまともなルーカス。


 外面だけ良くて腹黒いわたくしにダニエルはピッタリで、表裏のないドゥーナにはルーカスがピッタリではないか。

 

 そう当時は思い、自分の中で納得したのだが、それ以降ダニエルと共に過ごせば過ごす程に『やっぱりダニエルとはやっていけない』と考え始めるわたくしがいる訳で……。


 どこまでも打算的で、最低なのだろうか……。


 しかしながらダニエルと一緒にやっていける未来が見えないのもまた事実で、もうどうすれば良いのかわたくし自身分からなくなっていたし、ダニエルもダニエルでルーカスに負けてから善人を演じる事を止め、常に強さを求めるようにもなった。


 そもそもわたくしはダニエルが猫を被っている事を見破っていた。


 本当は承認欲求の塊であり、ハーレム願望やプライドも高い。それも並みの人間以上に。


 しかしながらわたくしはそれで良いと思っていたし、だからこそあれ程の才能があるにも関わらず努力を怠らない原動力にもなったのだろうと理解もしていたつもりであった。

 

 そしてわたくしはそれを受け止める事ができるだけの覚悟と器があると勘違いしていたようである。


 実際に猫を被る事を止めて好き勝手に振舞うようになったダニエルとは、とてもではないが将来を見据えて一緒になるなど到底考えられない。


 結局わたくしは、ダニエルの事すら『道具』としてしか見ていなかったのだろう。


 きっとダニエルならば偉業を成してくれるだろう。ならば今のうちに青田買いをして将来ダニエルの功績を妻として甘い汁だけ吸えれば良いと思っていた。


 それがある種の女性としての幸せだと思っているし、その考えは今も変わってはいないのだが、その相手にダニエルでは厳しいのでは? と思ってしまう。


 その考えは『ダニエルの事を信頼しているからこそ』だとか『なんだかんだ言ってもわたくしはダニエルの心の支えになるのだし』などと考えていたのだが、今だからこそそれら感情が『わたくしがダニエルに寄生する為の体のいい言い訳』でしかないという事が分かってしまった。


 それは、わたくしはダニエルの事を一人間ではなく『わたくしの人生を彩ってくれる為の道具』としか思っていない何よりもの証拠であろう。


 ダニエルの性格を理解した上で本心からダニエルの事を想い、ダニエルの事を考えていたというのであれば、ダニエルが猫を被る事を辞めたからといってもわたくしは変わらずダニエルの事を想い考えて行動できていたはずである。


 そしてわたくしは、そんな打算的で最低な自分自身の醜い部分を見て見ぬフリをして今まで逃げてきたのであろう。


「…………もう勝手にすれば良いわ、ダニエル。わたくしも勝手にいたしますわ」


 だからといって『だからこそダニエルを支えなければ』とならず『だからこそダニエルとは縁を切る』という判断をしてしまうわたくしも、嫌になる。


「お前も……お前も俺の事を馬鹿にしているのか?」


 そして、例のクマ型の魔獣を倒して悦に浸っているダニエルに向かってわたくしは縁を切る旨を告げると、ダニエルは怒りの感情を隠そうともせずわたくしに詰め寄る。


「どういう意味かしら? 別にわたくしはダニエルを馬鹿にしているからとかではございませんわ。ダニエル、貴方は──」

「どうせお前もあのクズに負けた俺を馬鹿にしているんだろっ!!」

「だれもそんな事は言っておりませんわ……っ。そのように自分勝手に行動して、自分の思い通りにならなければ激昂し、相手の言い分を聞こうともせずに話を遮り憶測で相手を罵る……。こういう所について行けないと感じたからでありルーカスに負けたからではございませんわ」


 そして、あれほど手に入れたいと思っていたダニエルが、今はただ『鬱陶しい』と『できる事ならば面倒事にならずに離れたい』と思ってしまっているわたくしがいる訳で。


 ダニエルが変わった訳ではない。


 そもそもダニエルが自分の欲望に忠実であることはわたくしも理解しており、それでなおダニエルが欲しいと思ったのだから。


 では何が変わったのか。


 それは『ダニエルよりも強い男性が現れた』事により『わたくしの中でダニエルの価値が一番ではなくなった』だけである。


 なのでダニエルが悪い訳ではないし、むしろ悪いのは心移りしたわたくしのせいだと頭では理解しているものの、それでもダニエルの事を鬱陶しいと、なんなら今わたくしが不愉快な感情になってしまっているのも全てダニエルのせいだと、全てダニエルが悪いと思い込み始めているわたくしがいる訳で……。


 そんなわたくしのドロッとした部分をこれ以上見たくない、心の奥底の見えない部分に押し込んでおきたいと思うからこそわたくしは『それも込みで』ダニエルとの関係を切る事を選んだのである。


 それも込みというのは『ダニエルとの関係を切る言い訳ならばいくらでも思いつく』というだけである。


 そんなわたくしが嫌で仕方がないし見たくもない、見るだけでストレスになり頭がおかしくなりそうだ。


 もしルーカスの実力を知る前であれば、今のダニエルの実力に興奮していただろう事が容易に想像できてしまうのも、自分の人間性が透けて見えて嫌になる。


 聖女だなんだと良い気になっており、自分の本質すら見抜けず『自分は聖女に相応しい人間なんだ』と疑いもしなかったのだから笑えてくる。


 そんなんだからルーカスの本質も見抜く事ができなかったのであろう。


「分かった……。もういい……」

「分かってくださいましたの?」


 そして、ダニエルはわたくしの言葉を受け入れてくれたみたいでホッとする。


 正直もっと粘着してくるかと思っていたので意外ではあるのだが、本人が『分かった』と言っているのでわたくしもそうする事にする。


 とりあえずは他の者達と下山だろう。


 実習をクリアする事よりもまずは自身の安全第一である。


 今までダニエルの、パーティーの体力を無視した無茶苦茶な進行により、限界に近い者も中にはいるだろう。


「だったらここでマリアンヌを犯して、目撃者は殺す」

「……え?」

「そもそも、俺はここ最近ずっと考えていたんだ。こんな学園に卒業までいて何になるのかって。無駄に時間を消費するだけではないかって。噂によると魔王も復活する予兆が見えているらしいし……こんなところで油を売っても良いのかって……っ」


 ここまで読んでいただきありがとうございます!!




 今現在、別作品にて


【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】


https://ncode.syosetu.com/n5038jr/




 を連載中でございます!




 もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ

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