幸せである
そして私の尻尾がわさわさと左右に揺れている事も、既に私の感情が旦那様にバレているのならば今更隠す必要もないだろう。
ただ、恥ずかしくないかと聞かれればやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいので、真っ赤になった顔だけは見ないで欲しいなと思うのであった。
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とりあえずこれからの方針は固まったのでタリム領は今まで以上に忙しなくなるだろう。
しかしながらこれもタリム領が生まれ変わっているという事でもあるので良い変化である事は間違いないだろう。
とりあえず味噌、醤油、みりん、日本酒はまだ数年はかかるとしても、大会を開始する前に今できるご当地食材なる物を作っておくべきだろう。
今案として出しているのが蕎麦とうどんである。
特に栄養が少ない土地でも育つ蕎麦を本命として押していく予定なので醤油やみりんが今手元にない今、つゆの代用品をどうするかが問題ではあるのだが、とりあえず前世の五島列島を真似て魚醤を使った味付けで出すぐらいしか今のところ案は無いのでそれで何とか三か月経てば味噌を、約半年経てば醤油ができるので徐々に移行していく方向で問題はないと思いたい。
しかしながら味噌も醤油もある意味で生き物相手である為万が一の事を想定して蕎麦やうどん以外のご当地新メニューが必要であろう。
よく前世ではこういう場合は柔らかいパンなどがあげられるのだが、この世界では既にあるのでとりあえず、試食会を開いて決める事にする。
案としては餅、団子、煎餅、葛餅、水あめ、あんこ類など江戸時代で嗜まれていたおやつならばこの世界でも作れ、尚且つ低価格で提供できるだろうと選出している。
江戸時代には爆発的な人気を誇り芋成金を多く産んだり飢饉を救ったりした薩摩芋にかんしては帝国には似たような甘い芋は無かったので保留である。
しかしながら芋はある為そこから葛餅や水あめ、豆を甘く煮てあんこ擬きは作れ、粘り気の強い米も隣国にあるにはあるのでそれを栽培すれば餅や団子、煎餅は作れるだろう。
なんならより餅などに適した米や薩摩芋のように甘い芋もここで品種改良をしていけば良いし、品種改良専門のチームを作る予定である。
ちなみにその米で現在日本酒などを作っているところであるが、餅は餅屋という言葉もあるので近いうちにドワーフを勧誘することは決定事項であり、既に何人かに目星をつけている。
いくら前世の知識があるからと言っても、だから作れるというほど簡単な訳ではないのでそこはやはりプロに任せるべきだろうし、醬油や味噌などもランゲージ家が囲い込み職人を育て上げていく予定である。
しかしながら作物を育てるにあたってやはり肥沃な土地づくりは必要である為、その点でも畜産業にも力を入れていくつもりである。
その糞尿を肥料にするのだが、それだけではなく土、蚕糞、鶏糞、藁、枯草に人の尿を使って火薬を生成していく予定である。
この火薬に関しては出来上がるのに六年かかるのだが、それでも『一般市民が並みの魔術師』と渡り合える戦力を持てるというのはタリム領としてかなりのメリットとなるだろう。
恐らく我々の事を良く思っていない貴族はいるだろうし、肥えた領地に賊が攻め込んでくる可能性もあれば、魔王に関してはダニエルに丸投げ予定ではあるものの万が一討伐失敗という可能性も視野にいれた場合は近い将来必ず必要となるだろう。
ちなみに火薬及び銃器は勿論のこと、我が領地で俺が前世の知識を使って関与したものに携わる領民たちには情報を外に漏らさないように魔術で重い契約を結んでいるので、何かを作っているという情報は漏れるかもしれないがその生成方法は流出する事は無いだろう。
その点に関しては前世と違いスパイや引き抜かれる心配もないのでかなり安心して事業を進めていけるのは有り難いかぎりである。
生成方法ならばいざ知らずせっかく育てた人材を引き抜かれる事は避けたいかぎりである。
「ドゥーナ、今からデートしないか?」
それとは別に、確かに領地改革も重要なのだが、だからと言って俺の元に嫁いで来てくれた妻を蔑ろにして良い訳がないので、俺は近くにいたドゥーナにデートを誘ってみる。
今までドゥーナばかり頑張って俺にアピールして来たので今度は俺から積極的にアピールをしていくつもりである。
その為ならば忙しい中でも頑張って時間を定期的に作るのも苦ではない。
「ほ、本当かっ!? 旦那様っ!! 行くっ! 今すぐ出かける準備をしてくるから少しばかり待っていてくれっ!!」
そして、俺からのデートの誘いに、尻尾をブンブンと左右に振りながら了承してくれるではないか。
やはり変な駆け引きなどせず素直に好意を表してくれるのは、見た目が姉御系美人なのも相まってそのギャップからも見ていて可愛いと思ってしまう。
まぁ隠したところで、尻尾でバレバレなのだがそこもまたドゥーナの良さだろう。
うん、初めは俺の為に始めた領地改革なのだが、今はドゥーナの為にも頑張って領地改革を進めて行こうと思えるくらいには幸せである。
◆
くそくそくそくそくそっ!!
俺のドゥーナを奪いやがったアイツが憎い一心で魔物を狩りまくっているのだが、未だにアイツより強くなれたと思えないのが、腹が立って仕方がない。
「ちょっと、ダニエルっ! もう少しゆっくり進みませんか? 一緒にパーティーを組んでるクラスメイト達もダニエルに追いつくだけで精一杯で、魔物や獣に注意を向ける余裕すらございませんわっ!!」
「あ? そんな事この俺に言うなよっ! 俺について来る事ができない弱い奴が悪いんだろうがっ! 何が特進クラスだよっ! 雑魚ばかりじゃねぇかっ!!」
今俺は実習の授業として学園が所有する山の山頂にあるアイテムを取って学園へと戻ってくるという課題の最中であり、今俺が抱いている苛立ちを現れる魔獣たちを片っ端から切り刻む事によって発散しているのだが、そんな俺に対してマリアンヌが『一緒に組んでいるクラスメイト達の事も考えて欲しい』などとふざけた事をぬかして来るではないか。
「し、しかし……」
「そもそも特進クラスであるのならば俺がいなくてもどうにかなるだろうっ? だったらお前たちはお前たちで無理に俺へ合わせる事をせずにゆっくりと進めば良いだろうがっ!! だいたいこんな身になるとも思えないような授業なんか一刻も早く終わらせて自主練をしたいんだよこっちはっ!!」
イライラする。
アイツに勝てなかった俺も、あれからどれだけ力をつけてもアイツに勝てると思えない事も、俺の足を引っ張るだけのクラスメイトたちも……っ。
「ダ、ダニエル……前………っ!!」
「あ? 前が何だよ……あぁ、こいつは良いストレス解消ができそうだぜっ!!」
そしてこんな俺の足を引っ張ることしか出来ない無能たちを置いて先に進もうとしたその時、マリアンヌが恐怖に滲んだ表情で指を刺した方向へ視線を向けると、そこにはあの日俺たちを襲った魔獣がいるではないか。
あの目の傷、忘れもしない。
コイツが現れてから俺の未来が崩れ始めたんだ……。
やっとその借りを返す事ができると思うと、俺は思わず口元がニヤリと歪んでしまう。
「何やっているんですのっ!? ダニエルッ!! 逃げますわよっ!!」
「何を言っているんだ? マリアンヌ。 こんな雑魚で逃げるとか、あの時の俺じゃないんだから逃げる必要なんか無いだろう?」
そして俺はそう言うと、クマ型の魔獣を魔剣で切り刻む。
「しかし、この魔剣を怪しい老婆から譲ってもらった時は騙されたかと思ったが、どうせただで貰ったものだから使って見たら、まさか本当に魔剣だったとは……」
確か老婆が言うにはこの魔剣には何らかのデメリットがあるとの事だが、今のところ俺の身体には何ら異変も何もないので、老婆が忘れたというデメリットなどあってないようなものであろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




