私の事を避けている理由
半ば強引ではあるもののギルドに対してこちらの要望を全て通した旨をドゥーナに伝えると、ドゥーナは興奮気味に称賛してくれるではないか。
確かに、あのギルドマスターの態度からしても冒険者が外の声を聴くとは考えにくいので、今現在帝国では冒険者の聖地と呼ばれている領地を持つ貴族ですら、問答無用で突っぱねていたであろう光景が目に浮かぶ。
「確かに、あれは酷すぎたな……。 だからちょっと一発ぶん殴って分からせてやったら話を聞いてくれたよ」
「凄いな……一発とはいえギルドマスター相手に物理的な強さで推し勝ったからこそこの結果だろう。私のお父様ですら当時のギルドマスターに勝つことは出来なかったからなぁ……。 引退しているとはいえ、当時最高峰のSランク冒険者がギルドマスターになれる資格がある事を考えれば仕方のない事ではあるし、それでも、経験の差で負けたとはいえそこそこ良い戦いをしていたお父様もバケモノではあるのだが……私の旦那様はそのギルドマスターに勝ってしまうとはな」
ドゥーナは凄い凄いと褒めちぎるので、ギルドマスターに勝つという事はそれほどまでに凄い事なのであろう。
「あぁ、ありがとう。 これで俺の領地ではS級冒険者を燻ぶらせる事は、今までよりかは無くなるだろう」
ちなみにここ帝都に来る前に一度タリム領に指導側として雇ってくれないかと来ていた元A級冒険者を交えてどのようにしていけば集めた冒険者を腐らせることなく有意義に使う事ができるのかと話しあった結果、闘技場を作り定期的にトーナメント方式で大会を開催するという事で決まった。
しかしながらただ大会を開いたところでファング家の二の舞になる事は目に見えているので、スポーツ化をする事にしたのである。
勿論死者が出ては元も子も無いので結界を予めかけ、致命傷を超えるダメージを受けると負けという方法を取る事は大前提として、個人枠チーム枠と分けた上で冒険者が戦う姿を、映像魔球を使い帝国内にて放送する事によってスポンサーを募り、グッズ展開も行う事により優秀な冒険者たちに金が集まりやすい構図を作るというものである。
更に賭博による売り上げも売り上げの数パーセントを冒険者へ還元させる事により、裏で依頼を受ける必要は無くなるくらいには稼げるようにする事を考えたのだが、その為には冒険者ギルドとの連携が必要不可欠である為多少強引ではあるものの押し通したという訳である。
ちなみにこの映像魔球による放送に関しては、ゲーム時代で一定額課金する事によって解放されるサービス機能にて利用できるアイテムを使って行う為タリム領以外では『今のところ』は同じように大会を開いたところで、ギルドで放送は出来ない。
ただ方法があるとするならば俺が持っている映像魔球を、とあるダンジョンで低確率にてドロップする『魔道具または所持しているアイテムを複製できるアイテム』を使い複製したものを他の領地へ貸し出した場合は例外ではあるものの、今のところ貸し出す予定は無い。
それでもいずれは全国大会などを開きたいとは思っているので一定の認知度と人気が出始めてから貸し出そうとは思っている。
ちなみに譲ったり販売をしたりするつもりは無く、あくまでも貸し出すだけである。
「これが上手くいば帝国内だけは燻ぶっている冒険者たちは今までよりかはマシになるんじゃないかな? それでも『本来の冒険者とかけ離れている』や『自分の手の内を晒す馬鹿がどこにいる』などと言って参加しなかったり他国へ拠点を移す冒険者たちもいるだろうが、そこまでは俺も面倒見切れないしな……。そもそも俺の領地を発展できれば良い訳だし」
「あぁ、それで良いと私も思うぞ? 肩入れしすぎて両方失敗して、本来救えた筈の冒険者も救えなくなるような事になるよりかは遥かにマシだ。 それに、一つ例外を出したり冒険者側の要望を聞いてしまったら俺も私もとキリが無くなるからな。慎重に慎重を重ねて判断して行動していく方が賢明だしな」
ドゥーナはそう言うと俺の手をさり気なく握ってくると、俺の肩へ頭を乗せてくるではないか。
今現在馬車の中なので見られて困るような者はいないのだが、なんとうかこれはこれでドゥーナの感情を読み取ることができずに困ってしまう。
「ドゥーナ……?」
「嫌ならば申してくれ……。私だって恥ずかしいのを我慢しているのだが、それ以上に旦那様とこうしたいと思ったからこそ行動に移したという事だけは分かってくれ……」
そして俺はドゥーナへ声をかけると、ドゥーナは今の感情を隠そうともせずそのまま感じている事を言葉にして伝えてくるではないか。
流石の俺もここまでされて気付かない訳がない。
結局今まで裏切られる事が怖くてドゥーナの事を信用しきれておらず『メインヒロインであるドゥーナが俺に惚れる訳がない』と予防線を張って、俺が傷つかないように逃げていただけなのだ。
だから俺も勇気を出す事にする。
「いや、嫌ではない」
そして俺はドゥーナの肩を抱き寄せるのであった。
◆
旦那様は私の事を避けている理由は分かっていた。
そしてそれが自分の今までの行いのせいであり、自業自得である事も理解できている。
だからこそ、私から旦那様にこの感情を伝えなければ何も始まらないという事も理解していたし、ここで嘘をついて誤魔化すのは一番やってはいけない手段である事も理解していた。
自分の感情をさらけ出すのは恥ずかしいのだが、それ以上に旦那様に一生疑われて生きていく事の方が私にとって辛いと感じてしまった。
そして、かなり強引ではあるものの私のお父様が無しえなかった事を簡単にやってのけた旦那様の話を聞いて、気が付いたら私は旦那様の手を握ってしまっているではないか。
その事に気付いた私は恥ずかしさから握った手を解こうとしたのだけれども、ここで解いたところで『私から手を握ってきた』という事実は旦那様に伝わっているので今更であろうし、それに解いてしまった場合、旦那様に要らぬ誤解を与えてしまいかねない。
であればここは引くところではなく攻める所だと判断した私は恥ずかしいという感情を押しのけて、勢いのまま旦那様の肩に私の頭をコテンと乗せてみる。
たったこれだけの事なのだが私は恥ずかしさから頭から火が出るのではなかろうかと思うくらいに身体が熱くなっているのが自分でもわかるし、恐らく今の私の顔は他人が見ても一目で分かる位には真っ赤に染まっている事だろう。
それでも旦那様が嫌ならば素直に引こうと思っていたし、その旨を旦那様へちゃんと伝えた。
これで恐らく旦那様は私が傷つかないように配慮しつつ優しく引き剝がすのだろうと思っていたし、そうされても仕方がないと半ば諦めていたのだが、次の瞬間旦那様は私の肩を少しばかり力強く抱き寄せたかと思うと、そのまま私の頭を撫でてくれるではないか。
一瞬、一体何が起こっているのだろうかと混乱してしまうのだが、理解してからは呼吸ができないのではと思えるくらいに(実際に呼吸が一瞬止まってしまう)喜びの感情によって満たされる。
今思うと、私の事をしっかりと一人の人間、一人の女性として考えてくれたのは旦那様だけであると理解できる。
結局お父様は所詮政略結婚の駒でしかなく、ダニエルは自分が好きな女性ならば誰でも良いという感じであった。
そもそもダニエルのような人間であれば、私の思わせぶりな態度やあからさま誘いに対して何も考えずに欲望のまま受け入れてしまうだろうし、その時かぎりの甘い言葉を使って私の承認欲求を満たしていただろう。
結局私はその程度の女だったからこそ足を失った瞬間に見捨てられたのだ。
その為、昔の私に『ルーカスと結婚できて幸せだ。ダニエルと結婚しなくて良かった』と言ったとしても、一人の人間、一人の女性として見てくれるその幸せに気付かなければ信じてくれなかっただろう。
馬鹿な女である。
しかしながら馬鹿な女だったからこそあんな事件が起きて、結果今旦那様の隣にいられるのだから人生というのは分からないものである。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




