俺が潰してやろうか?
しかしながらギルドマスターはそんな俺のクレームなどどこ吹く風。
淡々と聞き流してやり過ごそうとしているのが見え見えである。
恐らく今まで似たようなクレームを多数捌いて来たのであろうし、ギルドマスターというだけあって身長は二メートルを超え、服の上からでも筋肉という鎧を着こんでいるのが分かるほどの人物であれば、俺のような見た目がひょろい権力だけの貴族など怖くは無いのだろう。
それに、ギルドマスターは元S級冒険者である為、貴族の脅しなどそよ風程度にしか感じないのかもしれない。
「なるほど……冒険者ギルドはあくまでも仕事を斡旋するだけで、冒険者個人の不祥事は知らぬ存ぜぬという訳か?」
「さきほどからそう言っておりますが?」
「ふむ。 しかしながらこのS級冒険者の暴走は明らかに冒険者ギルドのシステムが、戦争や災害級の被害など滅多にない安定した平和が数十年続いている帝国に合っておらず、その歪みで漏れ出た問題だと思うんだが? その歪みを見て見ぬふりをしてきた結果今回の冒険者のような『ギルドの依頼以外で金銭を稼ぐ』という、裏依頼で生計を立てている冒険者、それもS級冒険者も多いと聞きますが? そのツケは市民が払えとでも? 相手はS級冒険者だというのに? 武力で押し切られたら並みの一般市民は泣き寝入りでしょう? それに市民がどうにかできない問題だから腕っぷしに自信がある冒険者へ依頼するのでしょう? それを、問題が起きても冒険者ギルドはその責任を一切責任は負いませんというのはふざけているのでは? そもそもあなた方ギルドサイドがそういうスタンスだから冒険者は市民に対して舐めた態度を取っているのでは? しっかりとペナルティーなり何なり問題行動を起こした冒険者へ与え見せしめにする事で防止に繋がるにも関わらずしない理由は?」
「いやー……そう言われましてもな、こちらはしっかりとそれらを明記しておりますので……ははっ」
そして俺は悪質なクレーマーよろしく一気に捲し立て、冒険者ギルド側の問題点を一気に指摘する。
当然冒険者ギルドも非が冒険者及び冒険者ギルドの体制・対応が今の時代に合っていないという問題がある事は理解している為、言い返せばそこからボロが出ると分かっているのだろう。
質問に対して返答するのではなく曖昧な返事で流そうとするではないか。
「なるほど、お前たちギルドの方針は良く分かった」
「分かっていただけたのならば良かったです。こちらも規則である以上心苦しいのですが無理な物は無理でしてね……ははは」
そして俺はそう言いながら席から立つと、ギルドマスターは俺にバレていないと思っているのか『やっと面倒くさいクレーマーから解放された』という表情でため息を一つ吐いて遠回しで『さっさと帰れ』という感情が籠った言葉を投げかけてくるではないか。
「あぁ、良くわかったよ。お前らギルドは自分たちのケツも拭けないどころか市民がギルドのケツを拭けと、そうやって今まで対応してきたしこれからもその方針、今の時代に合っていない旧時代の体制を変えるつもりは無いって事をな。一応今回の件は全て録音させてもらったからそれを市民がメディアに売りつけて新聞とラジオで拡散してもらっても問題ないよな? 一応メディアもギルドとグルなのは調べずとも今まで問題として取り上げられていない事からも理解できるのだが公爵家としての権力を振りかざせば余裕だろうよ。ちなみに皇帝陛下にもこの証拠と共に進言するから覚悟しておけよ?」
なので俺は録音していた球体型の魔道具を懐から取り出すとギルドマスターへ向かってこれから俺が行う事を言う。
すると、先ほどまで面倒くさい客が来たというギルドマスターの顔から、明らかに怒りの感情が滲み出てくるのが見て分かる。
「どうやってその録音魔道具をこの部屋に持ち込んだ? この部屋に入る時は一応録音されないように身体検査は行っていた筈だが?」
「敵に対して教える訳がないだろバカが」
「…………なるほど。どうやって持ち込んだのかは分からないのだが、それは俺に伝えるべきではなかったな、小僧。もしここで言わなければ、もしかしたら上手く行っていた可能性があったというのに。そんなものを見せられて無傷で返すと思うか?こちとら国に所属していない機関なもんで、貴族の権力とか効力無いんだわ」
そういうとギルドマスターはミシリと音を立てながらゆっくりとソファーから立ち上がり、俺の顔面へギルドマスターの顔面を近づけ『武力こそ全て』と遠回しに脅してくるではないか。
「……なるほどなるほど。お前たち組織が腐った原因が良く分かった。そもそも国に所属していない機関と言えど店を建てているこの土地は貴族のものであり、金銭を出しているのはこの国の市民であり、帝都の冒険者ギルドへ所属している冒険者は少なくとも半数以上が帝国民出身の冒険者であるにも関わらずその物言い……。しかも分が悪くなると武力行使で強引に相手の言い分を押し曲げようとするその思考回路…………こんな腐っている組織などこの俺が潰してやろうか? なに、心配するな。冒険者ギルドの後釜には俺が新しく帝国が所有する冒険者ギルドを俺主体で作ってやるからよ」
「小僧、あまり調子に乗り過ぎると……へ? ぐふっあっ!!」
「調子に乗り過ぎると何だって?」
そして俺が軽く挑発してやるとギルドマスターは簡単に引っかかってくれたようで俺に殴りかかって来たので、俺は軽く避けるとそのままその横腹目掛けて蹴り技を叩きこむ。
するとギルドマスターは二階にある部屋の壁をぶち破ってギルド内部にある修練場へと転がり落ちるので、俺も追って飛び降りる。
幸い、修練場は未使用だったらしく使用者がいなかったのは嬉しい誤算であった。
これで俺がギルドマスターを倒しても変な噂が流れる心配は無いだろう。
「ぐ…………貴様……」
「何で俺を睨みつけるんだい? 最終的に暴力で解決しようとしたのは冒険者ギルドマスター、お前だろう? にもかかわらず逆にやり返されてキレるとか頭おかしいんじゃねぇのか?」
「……良いだろう。荒くれ者たちを束ねるギルドマスターという者がどういう存在であるかしっかりとその身体に叩き込んでやろう……」
そしてギルドマスターはそういうと、キューブ型のペンダントへ魔力を注ぎ、自分の背丈よりも大きな大剣へと変化させるではないか。
「引退してはいるが、日々の鍛錬は欠かさず行って来たのはお前みたいな生意気な奴らを力でねじ伏せる為なんだが、貴族様相手にこの大剣を見せたのは初めてだな。その点だけは誇っていいぞ? 小僧」
そういうとギルドマスターは、まるで大剣の重さを微塵も感じていないかのようなスピードで斬撃を繰り出して来るのだが、はっきり言ってこの程度で今まで散々威張っていたのかと俺はがっかりする。
「つまらん……」
なので俺はギルドマスターの大剣の腹を拳で殴り真っ二つに折った後、ギルドマスターを今一度蹴り飛ばし、修練場の壁に当たってドスンと地面に落ちて土煙を上げているギルドマスターへと近づく。
「何か勘違いしているようだから教えてやるが、武力で相手を押さえつけようと思えばいつでもできたにも関わらず対話でわざわざ対応していたのはお前じゃなくて俺なんだよ筋肉ゴリラ」
「ぐぬ……っ。お前は一体、そんな力をどこで……」
「あ? 今は俺の強さの秘訣なんか関係ない。 それで、優しい俺は話を初めに戻してやるよ。 で、冒険者ギルドはS級冒険者が闇依頼で俺を暗殺しに来た落とし前をどう付けんだ? それと、このような問題が今後起きないようにどのような体制に作り変えるのか教えてもらおうか」
◆
「しかし、本当に上手く行くとは思わなかったぞ旦那様っ!! 私のお父様でもギルドは梃子でも動かなかったくらいだからなっ!!」
現在馬車の中で今回の経緯をドゥーナに伝えると、興奮気味にそう言うではないか。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




