流石にそれは道理が通らない
しかしながらこいつが崩れるまで待ってやるほど俺も優しくは無いので、フェイントを入れて翻弄し、一気に崩しにかかると、ものの数秒で簡単にオリバーは崩れ、その左頬へと俺の拳をめり込ませる事ができた。
そして、俺の拳を喰らったオリバーは錐揉み回転しながら吹き飛んでいき、少し先にある崖へとぶつかって止まる。
相手がただ喧嘩を吹っ掛けてきた相手であれば追い打ちはせずにここで終わらせるのだが、殺そうとしてきた相手にそんな情けは必要ないだろう。
オリバーが吹き飛んでいった所まで行くと、壁に身体が半分めり込んでいるオリバーの髪の毛を掴み引っこ抜くと、そのままの勢いで馬車がある方向へと投げ飛ばす。
すると、流石に足や腕が折れていたみたいで受け身を取る事もできずにゴロゴロと数メートル転がってから止まる。
「で、Sランク冒険者様が何だって? 速いだけではなんだかんだと言っていた様に聞こえだが?」
「ゴフ……ッ。 あ、そ、その、許して──」
「許す訳がないだろう? お前殺そうとした相手に返り討ちにあって自分は殺されたくないって虫が良すぎるだろうがよ、流石に。自分でケツを拭く事も、その覚悟も無いんなら初めからこんな依頼受けてんじゃねぇよ」
流石にそれは道理が通らないだろう。
「あ、謝るっ!! 謝るからっ!!」
「は? 貴様の謝罪に何の価値があるんだ? そんな価値があると思ってんなら底抜けのバカじゃなくてどうしようもないバカだな、オリバー君は」
「旦那様、少しいいか?」
「……どうした? ドゥーナ」
とりあえず報復されるのも面倒くさいのでいっその事ここで殺してしまおうかと思い、骨すらも残さない威力の炎魔術で燃やし尽くしてしまおうかと思っていたその時、今まで馬車の残骸に身を潜めていたドゥーナが、何か言いたいことがあるのか俺の元までやってくる。
「ここでこの者を殺してもメリットは無いだろう。もし仲間がいれば結局報復されるであろうし。ならば録音という証拠と共にコイツを突き出してギルドへ報告しに行った方が良いと思うのだが? そうすればギルドサイドも旦那様に『暗殺しにきた冒険者をわざわざ殺さずにつれて来てくれた』という借りができるからな。それに、生きて償わせてやりたいと思ったからだな。こいつはこれから罪人として一生ギルドで飼い殺しが決定だろうし、Sランクとして威張り散らしていたのが罪人奴隷として雑用を押し付けられる方が鬱憤も晴れるというものだ」
ふむ、確かにここで殺してしまうよりかはギルドで生き恥をかきながら死ぬまで飼い殺されるのもありだな……。
しかしながら、学園長に関しては他の貴族に舐められても困るので確実に殺す事は決定事項である。
さて、どうやって狩ってやろうか……。
◆
あのバカにルーカスの暗殺を依頼してから数日が経った夜。
儂はルーカスを暗殺したという報告が来ない事に腹を立てていた。
「あのゴミ貴族のクソガキ一人殺すのに何日かかってるんじゃっ!! Sランクと言えども結局は仕事のできないバカではないかっ! だから仕事の依頼も少ないんじゃよっ!! 使えないっ!!」
せっかく高い依頼料の半分を前払いとして払ってやったのだからちゃんと仕事をしろと、暗殺の達成報告をしてきた時に一言だけでも言ってやらねば気が済まない。
どうせ先に貰った報酬で飲んだり女遊びしてるんだろう。
そう考えただけでも腹が立つ。
「むしろ一発殴ってやろうか……。ただ殴るだけでは痛くも痒くもないだろうから、先祖代々伝わる我が家のS級武器である拳鍔を装着してぶん殴ってやろうではないか」
「ほう……その武器がどんなものか教えて貰おうか? もしその武器がゲーム内で入手できるアイテムである可能性もあるからなぁ……。クソジジイ」
「あ……? え? ……は? ル、ルーカス……ッ!? なんで儂の部屋にいるんじゃ……っ!?」
そして、仕事の遅い冒険者をどのように制裁してやろうか? と悩んでいたその時、誰も入れていない筈の儂の部屋であるにも関わらず儂に声をかけてくる者がいたので恐る恐る振り返ってみると、そこには何故かルーカスがいるではないか。
「あぁ、俺が今この場所にいる事はどうでも良いんだよ。問題は今お前が独り言で言っていた『あのゴミ貴族のクソガキ一人殺すのに何日かかってるんじゃ』って事なんだが、一体誰の事なのか教えてくれないか? なぁ?」
「いや、その……他国の貴族の話しでな、別にルーカス、お前の事ではないぞ? 何か勘違いしているようなのだが、今ならば儂に対しての無礼な態度も合わせて許そうではないか」
「あ? 無礼な態度? 何言ってんだお前」
「い、今まさにルーカスは儂に向かって──」
「俺は公爵でお前は伯爵だろうが? あ? 違うか? 公爵は伯爵よりも立場は低いのか?」
「いや……そういう訳ではなくての……。儂の方が学園長という肩書や年齢──」
「話逸らしてんじゃねぇよ。 あと、お前の言う年齢や肩書は伯爵が公爵よりも立場が上になるとでも言うのか?」
「そ、それは勘違いでぶべはぁっ!!??」
「そう言ってんだろうが。脳みそ腐ってんじゃないのか?」
そしてルーカスはこの儂に向かって言いがかりをつけてくるのでそれは勘違いであると説明するのだが、それを理解する知能もないのかそのまま殴られてしまうではないか。
これだから知能の低い猿は困るし、だからこそ躾が必要であるというものだ。
それに相手が先に暴力をふるって来たのだから正当防衛で殺しても良いだろう。
死んでしまえば後からいくらでも捏造できるのだから、なんなら暴力を先にふるって来たくせに、さらに決闘まで申し込んで来たとでも言えば、コイツが死んでも俺はお咎めなし、無罪放免だろう。
馬鹿な奴だ。
貴族の前にいち人間として年上を、そして生きてきた功績としてついた学園長という肩書に対して敬意を払うのは当然であるにも関わらず、今年で七十歳となる儂よりも三分の一すら生きていないガキが調子に乗りやがって……。
それに爵位も儂の功績ならば近いうちに公爵まで陞爵していた筈である。
そんな事すら儂の功績から想像する事すらできない低知能の猿は儂の手でしっかりと殺してやらないとな。
そして儂は拳鍔を装着してルーカスと相対する。
「この拳鍔はS級武器である。装着したからにはいくらお前とは言え勝てる事はできないだろう。なに、素直に今謝れば今までの狼藉を許してやろう。これが儂からの最後の情けだ」
嘘である。
許す訳がない。
許しを請うた瞬間にその顔面を殴って困惑と涙でぐじゃぐじゃになった顔面へと再度この拳をめり込ませ、死ぬまで殴り続けてやろう。
「…………その武器は……っ」
そしてルーカスは儂が装着した武器の凄さに気付いたのか、狼狽しているのがその表情からも理解できる。
あぁ、その表情だけでも気持ちが良いものだな。
「ほう、見ただけでこの武器の凄さが理解できるとは……その点だけは褒めてやろう」
「まさか無料ガチャで手に入るゴミ武器を『僕が持っているS級の最強武器』とか言うんじゃないだろうな? 流石に肩透かしも良いところじゃねぇかよ。恥ずかしくねぇのか? そんなゴミみたいな武器でどうせ今まで威張ってきたんだろう? 俺なら恥ずかしくてそんな真似絶対にできないな」
しかし、ルーカスの反応は儂の想像とは違っていたらしく、儂が今装着したS級の武器を『ゴミ武器』などと貶して来るではないか。
流石の儂も我慢の限界が来たので、この武器をバカにしたルーカスに、この武器がどれほど凄い武器であるか見せつけてやることにする。
馬鹿は口でいくら説明しても分からないからこうして身体に叩き込まないと理解できないから面倒くさいかぎりである。
「せっかくだからこの武器の価値を理解できないルーカスに、どれほど凄いか見せてやろう」
「なら、俺もその同じ武器を鍛え上げた最終ランクとやらを見せてやろう。一応手に入れた武器はゴミであろうとも全て最終ランクまで鍛え上げていてな……」
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




