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やっと死んでくれた


 むしろ原作ではドゥーナではなくて俺が主人公であるダニエルへ突っかかって行くシーンなのだが、俺が動かない場合はドゥーナが俺に突っかかってくるようだ。


 それも、この学園を卒業するまでの辛抱だと今は我慢するしかないだろう。


「そう言っている。実際にお前の実技試験の結果はダニエルに負けているではないか」

「あれは総合的な結果であり実際に俺と戦った訳ではない。そもそも俺とダニエルが戦ったら俺が勝つに決まっているだろう? むしろ俺と戦わなくて良かったではないか。平民らしく地べたで這いずる姿をクラスメイト達に見られる事も無かったのだからな」

「どこまでもクズな奴だな……っ」


 そしてドゥーナはそう言うとダニエル達の元へと戻って行く。


 いざ突っかかって来られると鬱陶しいのだが、これからドゥーナかマリアンヌのどちらかが負けイベントで主人公に選ばれなかった方の足が欠損するのだと思うと複雑な気分である。


 まぁ、だからこそ追々匿名でフェニックスの尾をヒロインの実家へと送り届ける予定ではあるもののだからと言って『知っていて何もしなかった』という罪悪感が消えるわけではない。


 しかしながらメインキャラクター達には関わりたくないので、卒業後は自分の領地でひっそりと暮らして行こうと考えている。


 ちなみに口調や態度は変えるつもりは無い。


「では、クラスごとに学園の裏山にある指定された場所まで徒歩で移動してもらうっ!」


 そんな事を思いながら時間を潰していると、ついにイベントが始まったようで担任の教師が学園の裏にある、事前に説明をしていた場所まで移動する旨の指示を出す。


 その指示を聞き俺は更に鬱屈とした気分になる。


 ちなみにこの授業そのものは注意していれば決して危ないような授業ではなく、ホーンラビットの討伐と薬草採取という、ギルドで出されている仕事の中でも比較的低ランク層の冒険者達が受け持つレベルである。


 勿論自然を相手にする為イレギュラーは付き物であり、それが今回の負けイベントであるブラックベアーとの遭遇である。


 本来であればゲーム終盤で出くわすような魔物である為当然今の主人公たちでは太刀打ちできる訳もなく負けてしまうというイベントである。


 ちなみに何故こんなところにブラックベアーがいるのかというと、縄張り争いに負けたはぐれブラックベアーという事らしく、ブラックベアーの世代交代が行われる二十年に一度はこの学園の裏山にも訪れる可能性はゼロではないらしい──と、ファンブックに書いていた。


 では、ゲームで使用していたキャラクターの能力を引き継いでいる俺が主人公であるダニエル達を助けないかというと、まず一つに負けイベントである以上いくらダメージを与えても勝てない可能性があるのと、ここで結果を変えてしまうと未来にどのような影響を与えてしまうのかが分からない為である。


 そもそもこのイベントは『主人公が強くなると決心した大事なイベント』でもある為、主人公たちには是非とも俺の為に世界を救ってもらいたいので変に俺が手を加えない方が良いだろう。


 そう考えた結果が、イベント後にせめて欠損した足くらいは治せるようにしてやろうという事である。


 そんなこんなで俺は難なくホーンラビットを狩り、薬草も採取し終えて教師陣に成果を見せて休憩所(ただの開けた場所なのだが)で待機していると山の奥の方でブラックベアーであろう雄叫びが響き渡るではないか。


 それと同時に、やはりこの世界はゲームでプレイした通りにイベントが発生するという事が分かったのと、ついに来たかという変な緊張感が俺を襲う。


 できればヒロイン両方とも怪我無く無事に帰ってきて欲しい。


 そう思っていた俺の願いも虚しくドゥーナの片足が欠けた状態で担架に乗せられて運ばれてくるではないか。


 それでも、ブラックベアーはゲームと同じく教師の放った弓が目に当たり、そのまま逃走していったようで、それに関してはゲーム通りで良かったと思うのであった。





 ゲームでの学園時代の主なイベントは負けイベント以降は特になく、あるとすれば三年生学園最後の夏休み前に俺の両親が馬車で移動している時に盗賊に襲われて殺されてしまうくらいであろうか?


 その為、ブラックベアーの一件以降は比較的何も問題なく平穏な日常を過ごせていたと言えよう。


 逆に主人公はというと、あの日以降何かに取り憑かれたかの様に鍛錬に費やすようになった。


 主人公には申し訳ないのだけれども、俺のスローライフ計画の為にも是非ともこのまま強くなって魔王を倒してもらいたい。


「ルーカスは居るかっ!? 直ぐに来てくれっ!!」


 そして時期的にはそろそろ来るかと思っていたのだが、やはりゲームのシナリオの通り両親が盗賊に襲われて死んだようで、担任が真っ青な表情で俺の名前を呼ぶではないか。


 ちなみに、両親は盗賊に襲われたとなっているのだが、正確には盗賊に堕ちた領民である為、徴税率を上げ自分たちは散財して毎日遊んでいた両親の、自業自得としか言いようのない結末と言えよう。


「何だ?」

「ま、まだ確定事項ではないのだが……お前の両親が馬車で移動している所を賊に襲われて死亡してしまったという情報が届いている……っ。先ほども申した通りまだ確定事項ではないが一応ルーカスは領地へと戻るようにとの事だ」

「…………そうか、分かった」


 担任である男性教師の説明を聞き『やはりそうなったか』と思い、以前から考えていたスローライフ計画を進める為に今とる最善の行動を一瞬だけ考えていたせいで俺の返事が遅れてしまったのだが、その一瞬の沈黙を担任教師は『俺がショックを受けてしまっている』と受け取ったようで何とも言えない表情をしていた。


 ここで担任の勘違いである事を説明しても良いのだが、誤解を解くよりも心配されていた方が心象的にはそちらの方が良いと判断した俺は訂正することなくそのまま『両親が亡くなったかもしれず不安になっている青年』を演じつつ担任から、これからどのように領地へと向かうのかという説明を聞き終え自室へと戻る。


 ちなみに担任曰く、明日の早朝にて学園が用意した馬車で帰るとの事なので、さっそく帰路の準備をし始める。


 正直言って両親に関しては死んで当然の事を行ってきたので何とも思わないし、むしろやっと死んでくれたかというくらいの感情しかわかない。


 なんなら退屈でもあり俺を将来殺すかもしれない人達との生活はストレスでもあったので、これでそいつらが居る学園をどれほど離れる形になるのかは分からないのだが距離を置くことができたので『死んでくれてありがとう』とさえ思ってしまう。


 しかしながら両親に向けられている領民のヘイトは当然俺にも向けられているであろうことは容易に想像ができる為、両親が死んだから安心とは思わずに、いつ命を狙われてもおかしくないと思いながら生活していく必要はあるだろう。


 それでもゲーム上のストーリーでは両親と同等またはそれ以上の酷い領地経営を行い、なおかつ主要キャラクターに殺されるまでは生きていたので、そこまで気を遣う必要は無いのかもしれないのだが、それはあくまでもゲームの話であり、既に俺自身がゲームとは異なる行動をしている為、それがどう未来に影響してくるのか未知数である以上は警戒をしていて損は無いだろう。


 そんな領地でも学園よりかはマシだと思うのだから、いかに主要キャラたちから受けるストレスが大きいのか分かるというものである。


 ちなみに主要キャラの一人である狼の獣人ドゥーナは、負けイベントによって片足を失ってからはまだ学園に復帰していない。


 もし復帰していたら俺は『助けられたかもしれない』という自責の念にも駆られてしまい頭が禿げてしまうところだっただろう。


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