コイツに慈悲はいらない
そんな会話を馬車の中でドゥーナとしながら俺たちは領地のなかで一番発展している街へとむかう。
ちなみにここタリム領には一つの街に四つの村があり、今のところなんの問題も報告されてないのでとりあえず水路と下水道を作った弊害、井戸水の変化や地滑り等は問題ないとみて良いだろう。
しかしながらこの件に関しては今大丈夫だからと言って将来も大丈夫とは限らないので数年単位で調査をしていく予定である。
とりあえず今のところ農業用の水の確保が容易になった事は勿論、水路のお陰で移動手段が馬車と徒歩の他に船という手段ができたと喜んでいるみたいなので一安心といったところであろう。
「ドゥーナっ!!」
「きゃぁっ!?」
しかしながら馬車は街へと着く前に何者かによって襲撃され、破壊されてしまう。
なんとか相手の攻撃が当たる前に気付けたお陰で御者含めて誰一人として死者は出ていなかったものの馬車が大破するほどの威力である。
俺が気付くのが少しでも遅れれば誰かが死んでいたかもしれない。
そう思うと怒りの感情に支配されそうになるのだが、こういう時に感情に流されてしまうのはあまり良くない事くらいは前世も含めて安全な場所で暮らして来た俺でも理解できる為、深呼吸を一つして精神を安定させる。
「ほう、あれを防ぐとは……調べた君の実力よりもかなりの実力者だと判断するべきだな。しかしながら調べた君の情報では、権力を始め自身の魔術などといった力は他人へ見せつけて弱い者をイジメていたとの事なのだが、そんな君が実力を隠していたとは考えにくいんだがな……何か実力を隠さなければならない理由でもあったのか……もしくはたまたま俺の攻撃を防ぐ事ができたのか……。まぁ、どうせこれから殺す相手だ。そんな奴で悩んでいても時間の無駄だからここはさっさと殺してこの依頼を終わらすとするか」
「……誰だお前?」
そして、俺に攻撃した奴は逃げたり隠れたりする事も無く、むしろ堂々と俺の前に現れると、ぶつくさと独り言を言い始める。
流石に攻撃した相手の前で挨拶も無く独り言とは、失礼過ぎて思わず怒りを隠そうともせず誰か質問をする。
「あぁ、ごめんごめん。本当はさっきの一撃でここにいる全員殺して目撃者一人も残さずに帰る予定だったんだが……まさか防がれてしまうとは思わなくて驚いてしまったよ」
そう言いながら頭をかく青年なのだが、だから誰なんだよと殴りたくなる。
なので実際に殴る事にする。
そもそも人の命、それも俺の妻や使用人たちまでも巻き込んで殺そうとしている時点でコイツに慈悲はいらないだろう。
「そうか……ならその顔面をぶん殴っても文句は言うなよ?」
「いやだなぁ、君みたいな温室育ちのクズがこの俺の顔面を殴れる訳が無いじゃないかっ! ひぃっ! ひぃっ! 笑わせないでくれよ……っ!」
俺がそいつに向かって顔面を殴ると言った事がツボに入ってしまったのか腹を抱えて笑い始めるではないか。
「いや、別にそう思うのは別に構わないけどできない事は言わない方が良いよ?」
「そうか。ならお前こそ俺たちを殺すなどという出来ない事は言わない事だな」
「……言うねぇ。これだから貴族は馬鹿だから嫌いなんだよ……」
そして俺がこの青年から言われた事をそっくりそのまま返してやると、それがかなり腹が立ったのか青年の雰囲気が優男風からガラッと変わり、ピリついた雰囲気を出してくるではないか。
「あの糞ジジイも俺たち冒険者の足元を見やがって。文句を言わないからといって俺よりも上だという訳ではないぞボケが。殺そうと思えばいつでも殺せるんだよ……。でもまぁ、その依頼で俺は今まで殺したいと思っていた貴族を殺す口実ができたんだ。例え俺の行いがバレたとしても依頼したのはあの糞ジジイだからな。単独で貴族を殺すよりも『貴族から殺せと命令されては断る事ができなかった』とでも言えばほぼ無罪放免だろう」
そして青年はベラベラと、何で俺を殺しに来たのか喋るではないか。
もし俺に倒されたらなどという事は一切考えておらず、その場合に想定される『最悪な事態』を予測する事を放棄しているのだろう。
だとしても、普通であればそんな重要な事は絶対に暗殺相手にベラベラと喋って良いわけが無い。
バカなのだろうか? バカなのだろう。
「そうだな、お前とは話す事も何もない事は分かったし、誰が俺へ暗殺依頼を仕向けたのかも分かった。そして先程のお前の発言はしっかりと録音できる魔道具で録音させてもらったからお前を生かして証人として突き出す必要も無いわけだ。殺そうとしたんだ。逆に殺されても文句は言えないよな?」
そして俺はそう言うとスキル【縮地】を使い、一気に加速して近づくと青年の左頬目掛けて力の限り殴りかかるのだが、躱されてしまう。
「あぁ、言い忘れたんだがな、俺はこれでもSランク冒険者なんだ。さっきの攻撃には確かにビビりはしたんだけど、早いだけじゃこの俺は倒せないぜ? 因みに必要は無いかもしれないけど一応自己紹介でもしてやろうか。自分が誰に殺されるのかくらい知っておきたいだろうからな。俺の名前はオリバー、Sランク冒険者だ」
「…………あっそ」
確かに俺は舐めすぎていたのは事実であるし、この一撃も避けることもできずにそれで終わりだと思っていた。
しかしながら蓋を開けてみればどうだ。
俺の拳はしっかりとこの青年、オリバーに見切られているではないか。
その事実を知って俺は思わずにやついてしまう。
「あ? 何が可笑しい?」
そんな俺を見たオリバーは、苛立ちを隠そうともせずに何で笑っているのか聞いてくる。
「あぁ、ごめんごめん。馬鹿にするつもりなど無かったんだが、そう受け取ってしまったのならば謝ろう。 そして俺が笑っている理由何だが、いや、やっとそこそこ強い者と戦う事ができると思ったら嬉しくてついにやけてしまったようだ、そもそもダニエルにしても学園の校長にしても、はっきり言って弱すぎて話にならない程に弱くてな、ここ最近は不完全燃焼だったところだったんだよ。良い戦いができるとは思わないのだが、良い運動は出来そうだな……」
そして俺は何故笑ってしまったのか素直にオリバーへと伝えると、再度スキル【縮地】を使い、今度はオリバーの後ろへ周り背後から攻撃をしようするも、それも防がれてしまったので、また【縮地】を使って移動し攻撃を繰り返していく。
「ぐ……っ!! な、何故これほどのスキルを高速で連続使用できる……っ!?」
「あ? 敵に教える訳がねぇだろ。バカだバカだとは思っていたんだが底抜けのバカだったのかよ」
そして、そんな俺に対してオリバーは『何故スキルをそんなに早く連続で使用できるのか?』と聞いてくるのだが、敵である相手にわざわざ教える訳がないし、教えたところで実践できるとも思わない。
そもそもこれは【進化の種】という、次のスキルを行使する時間を短縮出来るようになる低ドロップアイテムを、金の力で大量購入し、一気に使用したからこその理由である。
そして、そのアイテム【進化の種】がドロップするダンジョンはまだギルドに登録されていない所をみると未発見であり、当然そのアイテムを使った事がある者どころかその存在すら知る者はこの世界には居ないだろう。
それでも何とか防げているのは、Sランク冒険者を自称するだけの実力は確かにあるという事なのだろう。
しかし、流石に【縮地】だけでいっぱいいっぱいになっている時点で弱すぎるな。
それに、反応がすこしずつ遅れて来ているので俺の攻撃が当たるのも時間の問題だろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




