プライドの高いだけの貴族一人
「ふむ……しかしながら確かにたかがプライドの高いだけの貴族一人殺すだけでこの報酬は破格と言えよう。相手の性格がクズで救いようの無い人物であるというのであればギルドの規約違反とえどもこの依頼を受ける価値はあると考える事は理解できる」
「ふぉふぉふぉ、若いのう。まぁ好きなようにやりなされ。老いぼれの百の小言よりも実際に体験した方が学びとなるじゃろうて。ただ、もし今回の裏依頼を遂行した場合は一生今回の件がカルマとして付きまとうじゃろうて。その覚悟があるのならば儂からは何も言うまい」
そして俺は今回の依頼の件をパーティーメンバーへと話す。
勿論俺一人で今回の依頼は行うのでパーティーメンバーに手伝って欲しいとかではないのだが、ただ知らせずに依頼をこなすのは違う気がしたので隠さず話す事にした。
これでこのパーティーを抜けると言うのであれば引き留めるつもりは無い。
パーティーメンバーとはいえ各々譲れない物の一つや二つはあるだろうし、だからこそ皆Sランクにまで上り詰めた帝国最強のパーティーとして成り上がる事ができたのだと思っている。
それでも、もしかしたら全力で止められるかもしれないし、罵声を浴びせられるかもしれないと思っていたのだが、蓋を開けてみたらどちらかと言えば皆肯定的というか、むしろ俺の事を心配しているようで少しばかり拍子抜けしてしまった。
「みんな、ありがとう。今回の依頼が成功したらその報酬で俺たちに相応しい武具を買いそろえよう。これで俺たちはSランクから本当の英雄になれる……っ!!」
結局Sランクと言えども討伐依頼が無ければ無一文であり、そんなSランク冒険者へ依頼するような危機的状況など一年に数回有るか無いか程度でしかない。
更に言えば既に依頼主は贔屓にしているSランク冒険者または冒険者パーティーが存在しており、ギルドへの依頼は指名依頼が殆どである。
ちなみにAランクの時に贔屓にしてくれていた依頼主たちの殆どはSランクに上がる事で指名依頼が倍以上に上がる為別のAランク冒険者へと鞍替えする。
その為思っている以上にあまり稼げていないというのが現状であり、稼ぐことができなければ自分の実力にあった武具を揃える事も難しいなどは良くある話である。
中にはそれらを見越した上であえてAランクにとどまっている者達も少なくないし、実際にはその方が実入りは良いだろう。
「別に、Sランクになる事を決めたのはパーティー全員の判断で決めた事だからリーダーのオリバー一人が責任を感じる必要は無いわよ? 私たちも現状は覚悟していたし、だからこそ急がずにゆっくりと私に依頼してくれるクライアントを探していけば良いと思うのだけれど?」
そんな中、仲間で女性ヒーラーであり俺の彼女でもあるアイナが心配そうに無理はしないようにと言ってくる。
しかしながら、だからこそ俺はこの依頼を受ける決心がついたのであった。
◆
「S級冒険者と言えどもピンキリなんだな……」
俺は今ドゥーナからS級冒険者がどのような存在であるかというのを教えて貰っていた。
端的に言うとA級までと違って依頼が一気に減り、常にギルドにある依頼はオリハルコンやアダマンタイトなどの希少アイテムやドラゴンの鱗や牙など希少種の部位などの採取ぐらいしかなく、基本的にそのような依頼はいくらS級冒険者と言えども自殺行為のようなものであるので基本的には塩漬けとなるそうだ。
まぁだからこそ希少であり値段も張るので、俺が金稼ぎの為に正体を隠して出張らなくて良かったと、胸をなでおろす。
そのせいでそれらの価値が暴落してしまった場合に生じる歪の責任が取れるとも思わないしな。
こういう価値のある物は本来の目的の通り武具などに利用する場合は勿論のこと、投資目的や帝国の金貨だけではリスクが高いためリスク分散の為他国の金貨の他に高額な物などで資産を分散している貴族や高ランク冒険者たちも少なくは無いだろう。
希少であるからこそ今のバランスが保たれているのだ。
「なるほど……ある意味でSランクからはフリーランスとして独立するようなものか。それでも下位ランクの依頼を受けることくらい良いのでは?とは思うのだが、そうすると下位ランクの旨味ある依頼が全てSランクに喰われてしまうのか……。だからこそ逆にSランクには成りたくはない者も多く、ある意味でハイエナ行為を行い稼いでいると……」
とりあえず冒険者の為にダンジョンを作る事は自分の中で決定事項ではあるのだがドゥーナの実家ですらこのような状態なのだ。
流石に帝国内にある冒険者としての聖地の一つとして発展させたとして、S級冒険者になりたくないなどというような領地にはしたくは無いので、何かいい案は無いものかと頭を悩ませる。
「そんな現状を打開できる方法が何か無いものかとお父様も良く頭を悩ませて、定期的にSランクだけ参加できる武術大会などを開催していたりしたのだが、結局稼げないSランクしか集まらないという結果でな……」
そしてその問題はドゥーナの親も苦労しているみたいである。
「ふむ、冒険者稼業で領地を盛り上げるのも大変なんだな。だったら今募集している引退または引退間近の冒険者から面接ついでに何か打開策が無いか聞いてみるとするか」
結局のところ、ここグラデアス帝国が思っていた以上に平和であるのが今の現状だとは思うのだが、だからと言って戦争を裏でけしかけたり、災害級の魔物を無理やり俺の領地へ定期的に襲うように裏で操ったりなどという事はしたいとは思わない。
それに、もしこの燻っている高ランク冒険者たちが本気でSランク冒険者として稼ぎたいと思っているのならば黒の森があるエルフの国であるウッドグリーン王国や死の火山と呼ばれている火竜の住み家にされている火山がある獣人の国である合衆国にでもSランク冒険者として出稼ぎに行けばいいのである。
それをしないという事は結局の死ぬ可能性があるリスクを極力背負いたくない、けれども地位と名誉と現金は欲しいと思っているからこその歪なのだろうし、安全第一でかつ最大効率の行動を選んできたからこその高ランク冒険者でもあるとも言えよう。
逆に言えば今仕事を回してもらっているSランク冒険者や冒険者パーティーはそういった危険を冒して得た実績があってこそだろう。
「よし、分かった」
「……何か良い案でも思いついたのか?」
「いや、いくら考えても分からない事が分かったから考える事を俺は放棄する。こういう事が未経験者の素人があれやこれやと考えた所で現場では『そういう事じゃない』『こんなものは無い方がまだマシだ』となる可能性の方が高いしな。ならば下手に動くよりも動かず現状維持の方が百倍マシだろうし、冒険者歴の長い者達が集まるというのならば、やっぱりそのものたちからしっかりと意見を聞き、そしてそのものたちを主体として何が必要で何が不必要であったかを確認してから動いた方が良いだろう。後はトライアンドエラーで改善していけばいい。それに、俺には他の領地には無い秘策もあるしな。それをどう生かすかはやっぱり経験者に聞いた方が確実だろう」
結局のところ下手な考え休むに似たりという事だろうし、素人が『こうだろう』と想像で動いても良い結果どころかマイナスな結果にしか繋がらないものである。
それに俺にはダンジョン生成アイテムの他にも課金、無課金、限定等ゲームで得たアイテムがあるのだ。
これらアイテムをより効率的に使う為にもここは経験者に相談した方が良いだろう。
問題はそれらアイテムをどうやって手に入れたかという事なのだが、そこは公爵家という肩書で『先祖代々』だとか『領民に使ってこそのアイテム』などと言えば納得はするだろう。
とりあえず今はこれから増えるであろう領民がストレスなく生活を送れる基盤作りの方が優先度が高いので、こちらを前世の知識も駆使して整えていかなければならず、その為に一度街の現状を確認する為にドゥーナと共に馬車へと乗り込む。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




