俺の妻
そして俺は内心は隠しつつドゥーナへ愛想を振りまきながら話しかける。
これで大体の女性は俺に夢中になるのだが、更にドゥーナの事を気遣って心配するような事を話したのだ。
俺の事が異性として好きなドゥーナからすればルーカスや貴族の妻という肩書を捨てて俺の所へ戻ってくる決心もついた事だろう。
当然今の自分がどのような価値しかないのはドゥーナ自身理解しているからこそルーカスというゴミクズの所へ嫁いだんだろうし、ルーカスも足を失ったドゥーナしか嫁の貰い手が居ないと分かっていたのだろう。
こういう所だけちゃんと自分の価値を理解できているルーカスには腹が立つのだが、そうでなければおそらくドゥーナは性奴隷か良くて娼婦として誰と寝たのかも分からない、病気を貰ってしまったのかも分からないような事になるよりかは、ルーカスに一時的とはいえ拾って貰えた事は感謝するべきだな、と思う。
しかしながらドゥーナは俺の想像の反応とは違い、一友としての反応はしてくれるのだが、そこに以前のような俺を異性として見ている雰囲気や表情などの反応は一切感じ取る事は出来ないではないか。
「そ、そうか……本当に心配しなくても大丈夫なのか? もしあれならば俺がお前をこの地獄から助け出しても良いんだぞ? あれなら今俺がルーカスとかいう屑から助け出しても良い……っ」
しかし、恐らくそれはルーカスが近くにおり、そしてドゥーナ自身の価値が無いに等しいとちゃんと理解しているからこそ『私なんかダニエルには相応しくない』などとでも思っているのだろう。
あの男勝りなドゥーナにも可愛らしい所があるじゃないか。
こんな事ならばさっさと喰っとけばよかった。
しかし俺にはまだ聖女マリアンヌがいるので我慢するとしよう。
「…………今、何と言った?」
「いや、ルーカスとかいうゴミクズから助け出してやるって言ってんだよ……っ!」
しかしながらこの俺がせっかくルーカスとかいうゴミクズから助け出してやると言うのに、それを聞いたドゥーナから笑顔が消え、殺気を俺へ向け始めるではないか。
流石の俺も腹が立ったのだが、ここで怒っては意味がないと、なんとか強引に怒りの感情を押し殺して今一度ドゥーナへ、ルーカスというゴミクズから助けてやると伝えてやる。
「ダニエル…………言って良い事と悪い事が……いや……そっか、うむ。これはある意味で私自身が過去旦那様に対して行ってきた恥ずべき行為でもあるのだな……。その事に気付かせてくれた事は感謝する」
ドゥーナはそう言うと一度言葉を止め、俺に対して怒りが籠った目で睨みつけてくるではないか。
「だが私の旦那様であるルーカスの事をこれ以上悪く言うのであれば、もう貴様とはこうして会って話す事も無いだろう」
そして何を言うかと思えば、俺に助けを請うのではなく、まさかルーカスを庇うような内容ではないか。
「おいドゥーナ、調子にのってんじゃねぇぞ? 痛い思いをしたくないのならば今すぐに土下座して俺の靴を舐めろ」
そのドゥーナの言いように流石の俺も猫を被る事ができず、マリアンヌには聞こえない程の声で思わずブチ切れてしまう。
他の女生徒たちならばいざ知らず、ルーカスのお古となった女相手に猫を被る必要も無いだろ。
「……なるほど、それがダニエルの本性という事か。まったく私の周りの男どもはなぜこうも本性を隠す事が上手いのか……。そして、ダニエルへの返事なのだが、何故私が土下座をしなければならぬ? おかしなことを言っている暇があれば少しでも強くなれるように鍛錬でもすればどうだ?」
しかしドゥーナは俺が怒っている事を知っているにも関わらず挑発しながら土下座を断るではないか。
「そうか、そんなに痛い目に合いたいと言うのであれば望み通り痛い目に合わせてやる──」
「おい貴様。俺の妻に何をしようとした?」
そして俺が怒りの感情のままドゥーナの肩を掴もうとしたその時、ルーカスによって俺の手首を掴まれてしまい、ドゥーナの肩を掴むことを止められてしまう。
「ルーカス……。お前レベルの雑魚がこの俺に楯突いた事を、ドゥーナよりも先に後悔させてやろうっ!!」
「雑魚が、俺の妻に暴力行為をしようとしたり、土下座を強要したりしてんじゃねぇぞ? あ?」
「ぶふぅ……っ!?」
流石にあのルーカスからここまでコケにされて相手にしない訳もいかず、ドゥーナへの制裁は後回しにしてまずはルーカスから制裁を加えようと魔術を行使する為に魔力を練ろうとしたその瞬間、俺の腹に穴が空いたのではないかと思ってしまう程の衝撃が襲い、その威力に思わず意識を持って行かれそうになるのだけはなんとか耐える事ができたが、次の瞬間その衝撃はダメージと痛みへ変わり俺へと襲ってくるではないか。
俺は腹に受けた衝撃によるダメージで昼に食べた物を吐き、下半身の前と後ろから出してはいけないものを漏らし、その上我慢できない程の痛みに襲われ、その黄色い液体を漏らして汚れた地面の上をのたうつ事しかできなくなってしまう。
そしてジタバタとのたうつ事で下半身の後ろ側で漏れた茶色いものがパンツの中でぐちゃぐちゃになり、ズボンから染み出るのだが、はっきり言って今の俺にそれを気にする余裕は無いほど腹が痛い。
「あぐぐぐぐぐぐ……っ」
「…………少しやり過ぎたようだが、まぁ命を取った訳でもないから許せ。一応、内臓が破裂して後で容態が悪化して死んだり後遺症が残ったりした場合面倒くさい事になるから回復魔術くらいはかけておくよ……って、失神しやがった……」
そして、そんな俺をみてルーカスが何か話しかけてくるのだが、それが何なのか理解できるほどの余裕もなく、おれは脂汗をかきながら失神するのであった。
◆
とりあえず、ダニエルの腹に一発拳をぶち込んだらゲロや糞尿をもらしながらのたうち回ったあとに失神したダニエルと、俺たちに向かって何かを叫ぶマリアンヌを無視して俺とドゥーナは一度帝都にある冒険者ギルドへと向かっていた。
「……良かったのか?」
「何がだ……?」
「いや、ダニエルはお前の友達だろう? そのダニエルが俺のせいでもあるのだがあんな状態になっているのに無視して俺について来て……。あれなら帝都の別荘を待ち合わせにすればわざわざ俺に付いてくる必要も無かったのだが?」
「あぁ、なんだそんな事か。正直いうとダニエルに関しては自業自得であるし、化けの皮が剥がれ本性を知ってしまっては助けようとも思わなければ友と思っていた事すら恥ずかしいと思ってしまう程だから助けようとも、マリアンヌが回復魔術行使して落ち着くまで側にいようとも、微塵も思わなかったし選択肢にすら入らなかったな。むしろ私は旦那様と一緒にギルドへ向かう方を選ぶ」
そしてドゥーナはそういうと、顔を赤らめながら俺の腕に、自分の腕を絡めて来るのだが、ドゥーナのお胸様が腕に当たるので、性欲を落ち着かせる為に素数を頭の中で数える。
「そんな事よりも旦那様……私の事を『俺の妻』と言ってダニエルに啖呵を切ってくれたこと、凄く嬉しかったぞ……っ!! その、旦那様さえ良ければもう一度私の事を『俺の妻』と言ってくれないだろうか?」
「ぐぬ……っ。 どうしてもか……?」
「あぁ、どうしてもだ……っ!」
しかしながら俺が必死に耐えている事を知ってか知らずかドゥーナは更に俺へ胸を押し付けてきて、先ほど思わずダニエルに対してドゥーナの事を『俺の妻』と言ってしまった事をバッチリと聞いていたらしく、もう一度言って欲しいと上目遣いでお願いしてくるではないか。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




