バカな女だと思っていた
本当の俺は異性からもてたいし、同性からは羨望の眼差しで見られたいと常に強く思っているような人間である。
だからこそその為であればいくらでも何だって努力をするし、そうして今まで生きてきた。
幸い俺には頭脳魔術剣術武術そのどれもで人並み以上の才能があり、そしてその成長速度も並み以上であった。
その為俺は幼いころから村一番の神童と持て囃されてきた結果、その快感を失いたくないと強く思ったのである。
それに、頭脳魔術剣術武術どのどれもが平民だの貴族だの関係ない、平等に手にすることができる能力であるというのも大きかった。
確かに頭脳や剣術に武術といったものは貴族であれば優秀な家庭教師をつけてもらえたり、魔術に関しては血筋というどうしようもないものもあるのだが、それでも優秀な人材になるかどうかは本人のやる気と才能次第であり、血筋が良いからといってもそれはあくまでも『魔力量が多い子供が産まれやすい』というだけである魔術を行使する才能がなかったり、そもそも魔力量が少ない子供が産まれてくる可能性だってある。
それは頭脳や剣術なども同じであり、逆にいえば平民であろうともそれらの何かしらが優れた者たちが産まれる可能性だってあるのだ。
その者たちが戦争で活躍する事によって英雄というのが産まれる訳である。
そして英雄は決まって平民出身が多いのだが、その理由に分母の多さがあるのだろう。
確かに貴族ではありえない程の低い能力を持っている平民がいるのだが、逆に貴族の中でも太刀打ちできない程の能力を持った平民がいる可能性が高いという訳である。
良くも悪くも貴族は平民と比べて優秀な物が多い、言い換えれば平民よりも平均値が上なだけであり、それだけだ。
確かに、貴族の中でも優れた者が産まれない訳ではないのだが平民の人口と貴族の人口約千五百万人と、その中で貴族は約二百五十家では数が違い過ぎる。
サイコロで一の目を出すのに貴族は六面ダイス、平民は十二面ダイスだったとしても転がすダイスの数が違い過ぎるのである。
そして、その平民という数多のダイスの中でも俺という歴代の英雄すら凌駕するであろう才能を持った俺が産まれたというだけである。
そんな俺ならば間違いなく将来爵位を得る事ができるだろうし、貴族の娘だって娶る事も不可能ではない。
なんなら複数娶ったうえで平民から妾を持っても良いだろう。
その娶る予定であったドゥーナなのだが、足を失ったのならば妾として拾ってやろうと思っていたのに俺の前から消えてしまい、バカな女だと思っていた。
それでも行く当てがなく、娶られる相手もいないと泣きついて来たのならばいつでも妾として受け入れてやるつもりでいた。
そもそも貴族とはいえ獣人という人擬きが妾であったとしても俺の女になれるのだから、そう俺が思っている事すら感謝してもらいたい限りである。
しかし、あのドゥーナというバカな女はルーカスと一緒に学園へ戻って来たと言うではないか。
実際に俺が二人が一緒にいる所を見たわけではないのだが、それでも複数人の目撃情報があるので間違いないだろう。
恐らくドゥーナは、足を失った事によって実家から捨てられるように追い出されたのだろうが、そこをルーカスに拾われでもしたのだろう。
正直言ってそんなクズに縋るような低能な頭であったと娶る前に気付けて良かったと思う。
そう考えればマリアンヌではなくドゥーナが足を失ったというのは幸運だったのかもしれない。
そして学園へ来たという事は恐らくルーカスの目を盗んで俺の助けを求めに来たのであろうが、ルーカスの手が付いたゴミは妾にするのも正直な話気が引ける。
そもそもルーカスなど関係なく他人の手が付いたお古を俺が娶ったり妾にする訳がないのだが、そこは俺が今まで演じてきたキャラクターのデメリットであると言わざるをえない。
どうせあの雌犬は『優しい俺に助けを求めればきっと救い出してくれる』とでも勘違いしているのだろう。
馬鹿な女である。
しかし俺は少しだけ考え、ニヤリと思わず口角があがってしまう。
これはルーカスから女を寝取って、俺はドゥーナを試食してから奴隷商人に売り飛ばせばいいのではなかろうか。
こうすればルーカスからドゥーナを奪え、俺はドゥーナを抱け、奴隷商人から金銭を貰え、ドゥーナは浮浪者ではなくとして住むところを失わずに済む。
まさに一石四鳥ではないか。
なんと天才的な発想なのだろうか。
なんならその後にドゥーナを性奴隷として買い取っても良い。
奴隷ならば奴隷契約によって主人の事を外へ漏らす事も無いため、俺は仮面を被らずに欲望の赴くままドゥーナを抱くことができる。
あぁ、俺の天才的な頭脳が自分でも恐ろしい。
「どうしたんですの? なんだか嬉しそうな顔をしておいでですが……」
「いや、今ドゥーナがルーカスと共にこの学園へ来ているらしくてな、急にいなくなったから心配していたんだが、またこうして友達と会えるのだと思うと嬉しくてな」
「…………そうなんですのね」
そんな俺を見てマリアンヌが何故嬉しそうな表情をしているのか聞いてくるため答えてやるのだが、嘘は言っていないので問題はないだろう。
◆
「それで、何故我が夫を呼び寄せた?」
今俺はドゥーナと一緒に学園長室の中にあるソファーにドカッと座りながら、机を挟んで対面に座っている学園長へと、何故かドゥーナが俺を呼んだ理由を問いかける。
ちなみにドゥーナは何故か俺の座っているソファーの横で立って学園長を見下ろしており、これではまるで妻ではなくて俺の護衛騎士ではないか。
しかしながら俺もその理由は気になるし、学園長に聞こうとおもっていたので学園長の返事を待つ。
「…………ふむ、ずいぶんと雰囲気が変わったの。ドゥーナよ。まさかあのルーカスと婚姻関係を結んでいる事にも驚きなのだが、まさかこの短期間の間にルーカスの事をかなり惚れこんでいるじゃぁないか。それは、ルーカスがドゥーナを拾ってくれたからか? …………まぁ、それは後で聞くとして、何故儂がお主の夫であるルーカスを学園へ呼んだか、という事だったの」
学園長はドゥーナに睨まれているにも関わらず、それを飄々と受け流し、なんなら軽くおちょくるような事をドゥーナに言いつつも本題へと入る。
「そもそもお前たちをこの学園へと呼んだのは何を隠そう融資をして欲しくてな」
「…………融資? 何故か聞いても? 正直言って融資するメリットが思いつかないのだが?」
そしてそのまま俺をこの学園に呼び寄せた理由を聞けば融資をして欲しいなどというふざけた理由ではないか。
「よせドゥーナ」
「……旦那様がそう言うならば一旦は引こう」
その理由にドゥーナがブチ切れているのが分かった為、俺はドゥーナが何かしでかす前に止める。
というか、今この場は学園長を相手に言葉の裏を探り会話をしながら味方だと思っていたドゥーナという爆弾が爆発しないようにしなければならないという、かなり神経を使う状況ではないか。
もし学園長が狙ってやっていたのだとしたらかなり腹が立つし、融資は断る方向で話を進める事を俺は決める。
「あのルーカスがのう……ふむ」
そんな俺を見て学園長は、先ほどまでの好々爺といった雰囲気から、切れ者の雰囲気へとガラッと変わるではないか。
その事からも先ほどまでは俺の事を以前までのルーカスだと見下して相手をしていたのだろう。
「食えない爺さんだな……」
「そういうルーカスこそ……まさか学園時代は猫を被り、この儂の目すら欺いていたとはのう……」
そして、年下の俺に欺かれていたという事実にかなり怒っているようで、怒りの感情も伝わってくる。
「それは良いのだが、融資をお願いする立場であるにも関わらず、そんな態度で良いのか?」
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今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




