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どうしようもなく恥ずかしくなってくる


 そして旦那様に関しては路傍の石、いやちょっかいをかけて来る時点でまだ何も喋らない石の方がマシだとさえ思っていたくらいである。


 あの時に旦那様の本当の実力に気付いていれば……と今さらながらに悔やんでしまう。


 もし気付けていたのならば『旦那様に嫌われているかもしれない』などと悩むことは無かっただろう。


 いや、間違いなく嫌われているにも関わらず『かもしれない』などと濁して自分の心を保とうとしている自分自身が嫌になる。


 あんな事をしておいて、婚姻を断ることなく受け入れてくれたからといって、好かれている理由にはなりはしないというのに。


 旦那様は優しいから私の前では『そうされても仕方ない事をしていたから気にしていない』とは言ってくれてたものの、それに縋ろうとするのは余りにも甘えすぎだろう。変わる努力をしていないにも関わらず旦那様の私に対する感情が変るわけが無い。


 しっかりと今の自分を受け入れ、そして旦那様に好かれる努力をしていかない限りは何も変わらないというのに……。


 だから式こそまだあげていないとはいえ婚姻関係の間柄であるにも関わらず未だに私は旦那様に夜の相手をされていないのだ。


 これが現実ではないか。


 そして私はシャワーで汚れを落とし、着替えを済ますと旦那様の元へと向かう。


「すまない、待たせたな……っ」

「いや、むしろ他の貴族の女性と比べると早い方だろう。気にするな」


 その『他の女性』という言葉に私は様々な推測をしては嫉妬をしてしまう。


 なんと醜いのだろうか……。


「あうあうっ!? な、なにをするっ!?」

「他の女って言ったのはあくまでも世間一般的な話で、耳に入って来た言葉から推測した時間を比べただけだ。だからドゥーナが心配するような事は無い」


 そして、私が落ち込んでいる事に旦那様は気付いたらしく、多少乱暴に私の頭を撫でながら心配するなと言ってくれるではないか。


 それが嬉しくてたまらないのだが、同時に嫉妬心を抱いていた事を見抜かれた事がどうしようもなく恥ずかしくなってくる。


「……し、心配などしておらんっ!!」

「そうかそうか。なら良かった」


 そして照れ隠しで否定するのだが、旦那様は笑いながらそれを軽くあしらうではないか。


 本当は、ここで嫉妬していた事を素直に告げる事が出来るような素直な女の子の方が殿方は可愛らしいと思うのだと思うと、すこしだけ旦那様には申し訳なく思うのだが、それでも旦那様は私との婚姻関係を承諾してくれたのだから今はそれで良しとして、これから少しずつ変わっていく努力をすれば良い。


 そう思いながら私は旦那様と一緒に用意された馬車へと乗り込むのであった。




「どうしたんですの? ダニエル。ここ最近何かに悩んでいるようですわ」


 ドゥーナが『父親に呼ばれたから一度帰郷する』と言って一か月ほど経ったのだが、一向に戻る気配がなく不安になってくる。


 そもそもドゥーナの家までは馬車の場合は二週間もあれば往復できてしまう為流石に一か月も帰ってこない、しかもそれだけではなく『遅くなる』などと言った連絡もないなど、流石に不自然すぎる。


 ドゥーナであればすぐさま用事を終わらせて学園へと戻ってくるものだと思っていたので、戻って来られない何らかの理由があるのではないかとより一層不安になる。


「いや、ドゥーナが学園へ一向に戻ってこないからどうしたんだろうとな……」


 そんな時にマリアンヌが不安げに話してくるのでそのまま今ドゥーナの事で悩んでいる事を話す。


 するとマリアンヌは少し複雑そうな表情をしたあと、言い難そうに話し始める。


「そのドゥーナさんですけれども、婚姻する事が決まったみたいですわ……いや、もう婚姻はしているみたいですので今は婚姻相手の家にいると思いますわ」

「……なん、だとっ!? だから学園へ来ないというのかっ!? それではドゥーナの気持ちはどうなるっ!?」


 するとマリアンヌは『ドゥーナは婚姻しており、その婚姻相手の家にいる為学園へ来られないのでは』と言うではないか。


「どうなるも何も、私たち女生徒はこの学園で貴族の殿方にアピールをして、嫁ぎ先候補を増やすというのが一番の目的ですわ。たしかに学園に入学して勉学に励む方もいますが、そういう方も結局は貴族へ嫁ぐ事を最終目標にしておりますもの。男生徒においても、勉学よりも貴族間の友人構築という学園へ通う意味は増えますが、女生徒と同じように娶る候補を探している殿方も多いでしょう。だからこそ、既に貴族の元へ嫁ぐことができたドゥーナさんは、言い換えると『学園へ戻る必要は無い』とも言えますし、婚姻相手がそう言ってドゥーナさんを学園へ行かせない気持ちも分かりますわ。それこそそういう目的の男女がいる学園へ戻らせて、悪い虫に食われたり、他の異性へ恋してしまったりしたら目も当てられませんもの……」


 そしてマリアンヌは俺の疑問に答えてくれるのだが、その内容にはドゥーナの意見など一切配慮されていない事が窺えるような内容であった。


「それに、片足を失ったドゥーナさんは恐らく実家にも居場所が無く、今嫁いでいる家に捨てられたら、これから先は娼婦くらいしか生きる術はないのでしょう。むしろ、拾ってくれた貴族の殿方が居た事を感謝するべきかもしれませんわね」

「こんな事がまかり通って良いのかよ……」


 マリアンヌの話を聞いて俺がそう呟くと、マリアンヌは少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

 

 それが答えなのではないのか?


 本当は、そんな事を貴族の女性は望んでいないんじゃないのか?


 でなければマリアンヌが気まずそうに視線を逸らす訳でもなければ、もっと明るい話題として話す筈である。


 しかし、マリアンヌの話し方はまるで『受け入れるしかない現実』であると自分に言い聞かせていあるかのようにしか俺は見えなかった。


 これではまるで物みたいではないか……っ。


 いったい何処のどいつがドゥーナを娶りやがったのか……見つけて一発殴ってやらなければ気が済まないと思える程には、今俺は腹が立っていた。





 おれは今、領民に対して雨などによって凹凸の出来てしまった道の直し方を教えて、実践させているところである。


 方法は、道を掘った後に土のうを詰めて、その上に土を被せて叩き固める方法である。


 この土のうがあると無いとでは大違いなので、隣の領地から我が領地へと続く道全てに土のうが埋められれば凸凹道もかなり改善されて馬車での移動がしやすくなるだろう。


 ちなみに道を直す理由には勿論馬車を行き来しやすくして商人を俺の領地に来やすい環境を作るというのも勿論あるのだが、それ以上にこの領地内の雇用を増やすという方が大きい。


 そして道を直す為に雇った人たちには一日の日給として大銀貨二枚(日本円で三千円ほど)を与えている。


 日本円での価値で考えると大銀貨二枚は少ないように思えるかもしれないのだがむしろこの世界では日雇い労働としてはかなり多い方だったりする。


 そもそも領地から領地への道は歩いて移動すれば数日かかってしまうので、道を直す仕事はかなりの雇用を得る事ができるだろう。


「なるほど、雇用を増やすのと商人を含めた人の流れをスムーズにするために道路の整備をするというのは理解した。だが、何も相手の領地までの半分の距離でいいのでは? これでは相手の領地は無償で道路整備をしてくれるようなものではないか」


 しかしながら俺の話を聞いてもドゥーナは納得している部分はありつつも、損しているであろう部分が気になるようである。


「確かに、損をしていると考えればそうなのだが、領民の為の仕事がその分減らないという事もあるのだ。それよりも『損してでも得られるであろう利益の方が大きい』というのが一番の理由だな。それに帝国全土の道を整備するという訳でもない」


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