感動している自分がいる
ちなみに足が治ってから今日までの三日間、ドゥーナは治った足の感覚を試していた姿を見ていたのだが、単なる鍛錬であると思っていたが俺との模擬戦に向けた確認も含まれていたのだろう。
「分かった。というか模擬戦くらいならば時間があればいつでも付き合ってやるからそんなにかしこまる必要は無い」
「ほ、本当かっ!?」
「あぁ。約束しよう」
そして俺は、模擬戦くらいならばいつでも相手をしてやると返すと、ドゥーナは目をキラキラしながら喜ぶではないか。
そんなドゥーナの尻尾はぶんぶんと風の音が聞こえてきそうな程に左右に揺れ、先ほどまで垂れていた耳はピンと立っている。
表情や声音だけではなく、尻尾や耳でも感情が分かってしまうところはケモナーの俺からしたらなかなかに高ポイントである。
しかし、模擬戦で喜ぶ当たりドゥーナはフォング家の血を濃く受け継いでいるのだろう。
その姿は淑女というよりかは、まさにじゃじゃ馬娘といった感じではあるのだが、人狼というのもあってそれはそれで似合っていると俺は思う。
「では、早速模擬戦をやろうではないかっ!!」
ウキウキと模擬戦を促すドゥーナを見て、つい最近まで鬱気味だったとは誰も想像できないだろう。
そんなこんなで朝食を終えた俺はドゥーナによって引っ張られる形で半ば強引に家の裏にある修練場まで連れてこられる。
そして、ワクワクしているのはドゥーナだけではなく、正直言うと俺自身もドゥーナとの模擬戦が楽しみで仕方がない。
今まではダンジョンにいた魔物やボスしか相手にしてこなかったので、対人戦、それもゲームの中でも武闘派であるドゥーナとの模擬戦をして、今の俺の戦闘スタイルがどれ程通用するのか楽しみで仕方がない。
「とりあえずハンデとして魔術は使わず、木剣と身体強化のみで相手をするが良いか?」
「そうだな……本音を言えば全力を出した旦那様と戦ってみたいのだが、私はまだそのレベルに達していないと判断したのならば受け入れよう。しかし、直ぐに旦那様の全力を出させてやろう」
しかしながら流石に全力をだすと一瞬で終わってしまう為ハンデとして魔術を行使しない事をドゥーナへと伝えると、渋々ながらも了承してくれた。
「では、始めようか」
「あぁ、いつでもかまわないぞ? 旦那様」
「なら、お言葉に甘えて……っ」
そして俺は自身に身体強化をかけたあと、スキル【縮地】を使い、一気にドゥーナの背後へと移動すると、そのまま木剣をドゥーナの横っ腹へ振り抜く。
しかし俺の木剣はドゥーナの横っ腹に当たることはなく、ドゥーナの木剣によって止められたのでそのまま足払いを繰り出すのだがこれもまたジャンプされて避けられてしまう。
だが、ジャンプしたという事はドゥーナは今空中にいる訳で、流石に空中では移動する事はできないと判断した俺は、足払いの動きを利用してそのまま一回転する要領で更に木剣を横に薙ぎ払おうとするも、ドゥーナはそれを見越して既に魔術を詠唱しているのが見えたため、俺は木剣で攻撃するのを止めて縮地で移動し、再度ドゥーナの背後へと移動する。
するとドゥーナは器用に空中で反転して俺が放つであろう攻撃を受け止めようとするのだが、縮地に合わせて俺はスキル【残刃】を放ち、俺が縮地する前にいた場所から放たれた斬刃はドゥーナの背中に直撃した。
このスキル【残刃】なのだが、ゲーム内では攻撃技を縮地でキャンセルした場合、ボタンを押しっぱなしでその攻撃の残像を維持し、ボタンを離すと残像が動きキャンセルされた攻撃が放たれるという技である。
ゲーム内ではよく使ったスキルなのだが現実世界となれば『残像は残せるのか?』という疑問を抱きつつも行使してみたのだが普通につかえたようで、もろに攻撃を喰らってしまったドゥーナには悪いのだが、ゲームで良く【対人戦ルール】で使っていた技を実際に目にして、ちょっと感動している自分がいる。
ちなみにこの技なのだが対人戦にしか使わず、魔物相手には基本的に範囲攻撃を、今回周回したダンジョンのボスであるフェニックスに関しては、蘇生不可の追加効果がある魔術で倒していたため、実際にこの世界にきて使ったのは今日が初めてである。
そしてスキル【残刃】を喰らったドゥーナはそのまま地面へ落ちて数メートル転がって止まる。
「回復魔術を行使してやる──」
その光景を見て流石に女の子相手にやり過ぎたと思った俺は急いで回復魔術を行使しようと駆け寄るのだが、ドゥーナはガバッと起き上がると、顔を掠り傷と土まみれにしながらも興奮しながら俺へと視線を向けてくるではないか。
「なんだっ!? 先ほどの攻撃はっ!! 先ほど旦那様が使った技は私にも使えるのかっ!? 使えるのならば教えて貰えることはできるのかっ!? 教えて貰えることができるのならばいつから教えて貰えるのだろうかっ!? なんなら今日、今すぐ教えて貰っても私はかまわないぞっ!!」
「──まったく、一旦落ち着け。俺が使ったスキル【残刃】ならば教えてやるからまずは傷を治させろ」
「す、すまない。こういう所が淑女としてダメなのだろうが、やはり見たことない武器や攻撃、魔術にスキルを見るとどうしても抑えられなくてな……。こんな女らしくない女を娶って後悔したのならば婚姻関係を切ってもらってかまわないから……。失った足を治してもらって、更に我が儘を言う程、まだ私は落ちぶれていないからな……」
「いや、ドゥーナのそういう所は普通に俺は(犬っぽくて)好感が持てるから気にするな」
そして俺がスキル【残刃】を教えてやると言うと一瞬だけ嬉しそうな顔をした後に、そんな自分に女性らしくないと自己嫌悪し始めるではないか。
流石に毎回毎回こんな事で自己嫌悪に陥ってはドゥーナは勿論、それをケアする俺も大変なので本音は隠して問題ない事を教えてやる。
嘘は言ってないのでセーフだろう。
するとドゥーナは顔を真っ赤にして俯くのだが、尻尾はちぎれてしまうのではないかと思ってしまうくらいにブンブンと左右に激しく揺れているのが見えるし、実際にブンブンと風切り音も聞こえてくる。
うん、尻尾で感情が駄々洩れな感じが可愛いと再確認できた。
ドゥーナではなくて腹黒聖女マリアンヌを選んでくれたダニエルには感謝しかない。
というか、模擬戦でドゥーナに勝ってからドゥーナの俺を見る目が恋する乙女に変わった気がするのだが気のせいだろうか?
いや、ここで『もしかして俺に惚れているのでは?』と勘違いしてしまうのは童貞の思考なので気のせいで留めておくべきだろう。
「……この後タリム領と他の領地と繋がっている道の整備状況を確認しに行く予定だから、今日の模擬戦はこれで終わりで良いか?」
「あ、あぁ……。かまわない。では私は汚れを落とす為にシャワーを浴びて来るとしよう……っ」
そして俺はこの後道の整備状況を確認しに行く予定だと告げると、ドゥーナは顔を真っ赤にしたまま、汚れを落としにシャワーを浴びに行くと言ってそそくさとこの場から去って行くのであった。
◆
心臓が壊れたのかと思える程に激しく脈打ち、その鼓動音が旦那様に聞こえてしまうのではないかと思うと恥ずかしくて今すぐにでも旦那様の近くから去りたいと思ってしまう。
しかしながらそんな感情とは別に『旦那様の側に居たい』という真逆な感情もあり、自分で自分がどうしたいのか分からなくなってしまう。
ただ言える事は、間違いなく私は旦那様に惚れてしまったという事である。
そもそも私は以前から『結婚するならば私よりも強い異性が良い』と思っており、ダニエルがその最有力候補であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今現在、別作品にて
【婚約破棄された公爵令嬢は罰として嫁がされたのだが、旦那様のお陰で日本(地球)の食べ物に舌鼓を打てて今日も幸せです】
https://ncode.syosetu.com/n5038jr/
を連載中でございます!
もしよければこちらも読んでいただけると幸いでございます(*‘ω‘ *)ノ




