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どのルートでも死亡する噛ませ犬的なポジション


「お前みたいな平民など足手纏いでしかないのだよ。頼むから貴族でエリートである俺様の邪魔だけはしないでくれよ?」


 つい先ほど、ブラック企業での業務を終えて家に帰り、ろくに飯も食わずにコンビニで買った安酒でつまみを流し込み風呂も入らずにワイシャツのまま布団で寝ていた筈なのだが、気が付いたら俺は今目の前の平民に対して嫌味を言っているではないか。


 それと同時に、この世界で産まれてからこれまでの知識が流れ込んでくる……いや、逆か。前世の記憶が俺の中に流れ込んでくるではないか。


 これはもしかしなくても俺は前世で一度死んでこの世界に転生したというものではなかろうか?


 いや、もしかしなくてもそうなのだろう。


 しかしながら俺は前世の記憶を思い出した事である衝撃的な事実も一緒に思い出す。


 今俺が転生しているルーカス・フォン・ランゲージは、前世俺がハマっていたRPGゲーム『暁の夜明け』で主人公に噛みつく悪役であり、最終的にどのルートでも死亡する噛ませ犬的なポジションの悪役キャラクターではないか。


 どれだけ噛ませ犬かというと、まだ主人公に殺されるのはマシなほうで、父親の死により領地に戻り父の後を継いで領地経営し始めるのだが父親同様に酷い経営で住民を苦しめ、執事やメイドなど使用人に毒殺やら刺殺されたり暴徒化した住民に殺されたりと、本編と関係ない方法で殺されるストーリーの方が多い程には噛ませ犬キャラクターである。


 そして、今俺が嫌味を言っている相手が何を隠そうRPGゲーム『暁の夜明け』の主人公、ダニエルなのである。


 因みに何故今嫌味を言っているのかというと、これから行う遠征で平民であるダニエルに対して貴族でありエリートの俺である足を引っ張るなと、ぐちぐちと言ってた訳である。


 そんな主人公は怒りを隠して張り付いた笑顔をしているのだが所詮は子供。社畜として揉まれて来た俺からすれば主人公の感情など隠していないに等しい。


 むしろこれほどまでに分かりやすいにも関わらずその事に気付けなかった俺の駄目さ加減ときたら……。


 その主人公の両脇には狼耳を生やし、腰まである長い髪をポニーテルで纏めてる獣人ドゥーナ・ミラ・ファングと白い修道服を着た聖女マリアンヌ・サヴォイア=アオスタが、怒りの表情を隠そうともせず俺の方を睨んできていた。


 そもそも俺は、マリアンヌが主人公と仲良くしているのが気にいらないという理由で突っかかり始めたのだが、いくら何でもだからと言ってこの方法は逆効果である事は少し考えれば分かるような事であろうに。


そんな事すら分からなかった自分が情けない。


「あなたに言われなくともダニエルはトップの成績でこの遠征をクリアしてみせますわっ!!」


 そんな俺に対してマリアンヌが目じりを吊り上げ、怒りの感情を隠そうともせずに噛みついてくるではないか。


 恐らく以前の俺であればこのマリアンヌの反応に対して、ダニエルへ怒りの感情を向けていたのであろうが、今の俺はマリアンヌに怒りの感情を向けられたところで何も感じることは無い。


 取りあえず俺は今自分ができる事を確認する事と、負けイベント後はフェニックスの尾を入手できるダンジョン攻略がメインとなるだろう。


 そんな事を思いながら俺は学園の端にある一番人気のない修練場に来ていた。


「一応気配を探ってみたけど誰もいないようで良かった……」


 万が一誰かがいる可能性も想定して貸し切りにしているのだから当たり前ではあるのだが念には念を入れて確認した方が良いだろう。


 そして俺は誰もいない事を確認すると早速自ら感じている感覚が正しいのか確かめる事にする。


 その感覚とは、何故だか分からないのだがゲームで育て上げたキャラクターのステータスとアイテムを引き継いでいるような確信に近い感覚が、前世の記憶が戻った時から感じていたのである。


 ちなみにこのゲームなのだが、主人公はプレイヤーの好みのスタイルに育て上げる事ができ、その点はかなり自由度が高いゲームとなっていた。


 そして俺は魔術師と剣士のジョブをカンストさせる事で入手できる魔剣士へと育て上げており、当然専用武器である剣型の魔杖もかなり苦労して制作していた。


 それほどまでにこのゲームにのめり込んでいたとも言うのだが、今となっては良い思い出である。


 そんな事はさておき、俺は【ストレージ】からその苦労して作った魔杖を取り出すと、次々にゲーム内で良く使っていた魔術の数々や剣術の立ち回りや剣技を試していく。


 そして、小一時間程身体を動かしつつ魔術を行使して俺は確信する。


 今の俺は間違いなくゲームで使用していたキャラクターのステータスから入手したアイテム、行使できる魔術や剣技全てを引き継いでいる事に。


 しかしだからと言って死亡フラグが消えたわけではないのだが、力こそ正義という言葉があるように意外と何とかなりそうだと思うのであった。





 そして遠征当日。


 俺は鬱陶しい主人公たちから離れた場所で講師たちの注意事項を右耳から左耳へと聞き流していた。


「少しは真面目に聞いたらどうだ?」

「あ?」

「お前一人がクラスメイト全員の足を引っ張り、迷惑をかけるような事にならない為にも講師たちの話をちゃんと聞いておけと言っているのだっ」


 そんな俺の態度が気に入らなかったのかドゥーナがいちいち突っかかって来るではないか。


 正直言って俺の死亡フラグをまき散らしまくる主人公とドゥーナ、そしてマリアンヌには極力関わりたくなかったのだが、同じ学年、同じクラスである以上そうもいかないらしい。


「あ? この俺が? 誰の足を引っ張り迷惑をかけるだって?」


 むしろ、マリアンヌはいくら俺がアピールしようが、そして俺が善人であったとしても俺の事を好きになるわけが無いのだから、そんな奴相手に感情を揺さぶられる事も無いだろう。


 それは主人公に対しても言えることで、前世の記憶を思い出し、ここがゲームの世界に何故か転生している事を知ってしまった今、こいつらに対して俺が抱く感情は『無』である。


 むしろ相手するだけ時間の無駄であり、なんならこのままゲームのシナリオ通りに俺が動けば死ぬ運命である可能性が非常に高いのである。


 であれば、俺が生き残る為にも最善の行動はこいつらに関わらないという事である。


「情けない。これでダニエルと同じ男であるならば一度はダニエルに勝ってみせてからデカい口を叩くべきだな」

「まぁまぁ二人とも落ち着いてっ。俺は大丈夫だからさっ!!」


 そして、俺がそんな事を思っているなどと思ってもいないであろうドゥーナがマリアンヌに続けとばかりに噛みつき、それをダニエルが止める。


「フン、躾けも碌にできないとは情けない」


 そんな三人にこれ以上時間を取られるのは無駄でしかないと判断した俺は捨て台詞を言うとそのままこの場から去る事にする。


「に、逃げるのかっ!?」

「やっと自分がダニエルには敵わないって気付いたのねっ!!」


 そんな俺に二人は違和感を覚えたのか、この場から去る俺に噛みついてくるのだが相手をする必要も無いのでそのまま無視をするのだった。




 その後は何の問題も無く学園の授業は終わり、俺はこの一日でゲームの流れを頭の中で纏め上げながら過ごしていた。


 俺の記憶が正しく、そしてこの世界がゲームのストーリーと同じような展開になるのだとすれば、この後主人公は負けイベントでヒロイン一人を失う事となる。


 失うと言っても死ぬ訳ではないのだが、それでも片足を失ってしまう為学園を卒業後主人公の旅に着いていけなくなるので自動的に主要キャラから外されるという事である。


 ちなみに主要キャラからは外れるとは言っても途中フェニックス討伐で手に入る『フェニックスの尾』というアイテムを使用する事で仲間にする事は可能なのだがヒロインへと戻る事は無い。


 


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