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家出仙女は西側世界で無双する  作者: Ryoko


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04、お薬の対価

 ちょっと、()()しよう……その外見に全く似つかわしくない言葉に戸惑ってしまいます。


「取引、ですか?」


『うん、取引。対価と言ってもいいかな。もし、君がボクの願いを聞いてくれるなら、君のお父さんを助けてあげるよ』


 “助けてあげる”!? その言葉を聞いた瞬間、私は何も考えず道士様の要求を受け入れていました。

 たとえそれが私の命と引き換えであろうとも、父の命には替えられません。


『いやいや、そんな、命なんて取らないから。代わりにちょっと君の記憶を見せて貰いたいだけだから』


「えっと? それは?」


 それは、先ほどからされているような、私が心の中で考えたり思ったことを読み取ることとは違うのでしょうか?

 そんな疑問を持つ私に、道士様は丁寧に説明してくださいました。


『えっとねぇ、君が思ったこととかではなくて……つまり、君が生まれてから今までの経験の記録かな』


 知識と経験。私が今までに見たこと、聞いたこと、感じたこと。それらを全て読み取らせて欲しいそうです。

 なんでも、道士様は遠く東国から来られたばかりで、この辺りのことを全く知らないとのこと。

 今話している言葉も実はこの辺りの言葉ではなくて、念話という術で直接相手の心に意思を伝えているそうです。

 確かに話しているはずなのに、なぜか道士様の声が聞こえない気がして、どうにも不思議な感じがしてましたけど……。

 つまりは、そういうことみたいです。

 そんなわけで、道士様は私の住む西国で生活する上での知識を、私の経験を通して学びたいとのこと。

 別に私から記憶を奪うわけでもないし、ここで知ったことは決して他人には話さないと約束してくださいました。

 私はお父様の命を救ってもらえて、実質、失うものは何も無いということ。

 でも、それって、つまり、人には言えない()()()()()()()()()()も、全て道士様に知られてしまうってことですよね!?

 この穢れを知らないお可愛いらしい道士様に……。

 代わりに、何か目に見えない大切なものを失ってしまうと感じるのは私だけでしょうか。

 私はもう、どんな顔を道士様に向ければいいのかわかりません。

 ただ、それでも……。


「わかりました。だから、どうか、父の命をお救いください」


『わかった。では、目を閉じて』


 そう言いながら、私に顔を近づけてくる道士様!?

 えっ? えっ? なに? これって、キ、キスされちゃうの? 私、初めてなのに……でも、こんなに可愛い道士様なら別に女性でも……。


 コツン


 少し硬い感触をおでこに感じて、そこからゆっくりと道士様の熱が伝わってきます。

 ……私ったら、なんて恥ずかし勘違いを!?

 一瞬頬が熱くなるのを感じましたが、それもすぐに治ります。

 道士様と(おでこで)繋がる感じがなんとも気持ちよくて、私は道士様から感じる熱に思考を委ねてしまいました。

 それから、どのくらい経ったのでしょう?

 それは一瞬のようでもあり、生まれてから今までの時間を共に過ごしたかのようでもあり……。


「うん、ありがとう」


 そんな鈴を転がすような声と共に、おでこに感じていた熱が離れていきます。


「カテリーナのお陰で、この世界のこともだいぶ理解できたよ」


「あっ、私の名前」


「うん、カテリーナの記憶を読んだからね。ついでに、今の状況も理解した。

 確かにあの蛇の毒は厄介だ。このままでは長くはもたない」


 そう言うと、道士様は腰につけた小袋からブルーベリーほどの大きさの小さな黒い玉を取り出して、それを私にくださいました。


「これを飲ませるといい。この辺りでは丸薬は珍しいみたいだけど、これはれっきとした薬だから。

 飲むのが大変なら水で流し込んでもらっても構わないけど、割って毒味するとかはダメだよ。

 封じた仙気が逃げてしまうからね。必ずそのまま飲み込むこと。いいね?」


 錬金術師が作成するポーションや薬師が調合した薬草しか知らない私には、この黒い玉が薬だとはとても思えません。

 でも、これは、聖なる泉で出会った道士様がくださったもの。ゆめゆめ疑うわけにはまいりません。


「では、ボクはもう行くね」


「えっ? お、お待ちください! あ、あの! せめてお名前を!」


「タオ。じゃあ、またね、カテリーナ」


 その声を最後に、道士様……タオ様の姿は霞のようにその場から消えてしまいました。

 まるで、夢でも見ていたよう。

 それでも、握りしめた私の右手には、確かにタオ様から頂いたお薬があります。


『急がなくちゃ』


 手の中の丸薬をもう一度確かめると、それを落とさぬようしっかりと握りしめて、私は屋敷へ向かって駆け出しました。


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