20、ネメア平原到着
翌日、壺中天を出た3人はネメア平原へと向かう。
「なんか、息苦しくないですか?」
「確かに、空気が重苦しいような……」
そんなことを言うレイアとアンドレに、
「壺中天の中と下界じゃあ、気の濃度が全然違うからね。今の二人ならわかるでしょ?」
そう答えるタオ。
「大丈夫、そのうちに慣れちゃうから。でも、壺の中で修行してた時ほどの無茶はできないから、そこは気を付けてね」
タオの言葉に、改めて昨日の修行を振り返った二人は、なるほどと納得する。
昨日の修行では、それこそ日が暮れるまで何時間(実際は数年間)も剣を振り続けることができていたが……。
あれは夢だからではなく、あの空間に満ちていた濃密な気のせいだったのかと。
「では、壺中天でできたようなことは、外の世界ではできないのでしょうか?」
そう問いかけるアンドレに、
「じゃあ、試してみたら?」
そう言って森の奥の方を見つめるタオ。
続いてレイアが、少し遅れてアンドレが同じ方向に目を向けると、しばらくして黒い狼の群れがその姿を見せる。
黒狼……一体でもCランクの凶悪な魔物だが、これが5体以上の群れになるとBランク、10体以上になるとAランクに格上げされる。
そんな魔物がざっと20体以上……。
本来であれば、最低10人以上のAランクパーティーか領主軍が派遣される相手だ。
((……でも、怖くはない!))
獲物を逃さぬよう取り囲んで襲ってくる黒狼を、近づいた側から切り伏せていくアンドレ。
同時に、周囲を取り囲んで状況を見守る黒狼が、1匹、また1匹と知らぬ間に倒れていく。
気配無く近づく刃が己の身に触れるまで、黒狼たちはレイアの接近にまったく気づかない。
「どう? 壺中天の中とまったく同じってわけにはいかないと思うけど、そこそこ動けるでしょ?」
そう言って笑うタオと、全滅したAランクの魔物の群れを前に、本当に自分たちがやったのかと信じられない様子のレイアとアンドレ。
「これ、本当に私たちだけで?」
「戦っている時にはあまり意識していなかったが……これはすごいな」
改めて自分たちがやったことを客観視することで、タオの修行による非常識な成長具合を実感する二人だが……。
「まぁ、今回は単に相性が良かったってのが大きいけどね。狼は集団で襲ってくるから怖いんであって、個々の強さは大したことないから。
でも、相手がもっと頑丈で、もっと気配に敏感だと、そう簡単にはいかないと思うよ」
そんなタオの言葉に、慌てて気を引き締める二人。
(うん、増長は見られないね。素直でよろしい)
それを見て、満足そうに頷くタオ。
それからも何度か魔物の襲撃を受けるも、アンドレ、レイアの二人が苦戦する様子もなく……。
「……着きましたね」
「まさか、二日とかからずあの森を抜けられるとは……」
ネメア平原の手前に広がる森は未開拓地。
魔物の数もそれなりに多い。
実際、3人も森を抜けるまでには、それなりの数の魔物に遭遇している。
強い魔物との直接戦闘を避けるための迂回路の選択に、遭遇してしまった際の魔物との戦闘。
それらを考慮し、森を抜けるには数日はかかると計算していたのだが……。
それが、こうもあっさり森を抜けられるとは思わなかった。
しかも、タオの助けを借りることも無く、レイアとアンドレの二人だけの力でだ。
順調に進んでいるとは感じていたが、実際にまだ日も明るいうちにこうして森の出口に辿り着いてしまうと、改めて自分たちが強くなったのだと実感する。
((これなら、もしかして、タオ殿に頼らなくても、ネメアの獅子を討伐できるのでは?))
二人がそんなことを考えていると……。
「そうだね。じゃあ、まずは二人で頑張ってみてよ」
にこにこと笑いながら、そんな恐ろしいセリフがタオの口から飛び出してくる。
「えっ? エッ? ちょ、ちょっと待って! 無理よ! 絶対無理だから!」
「……さすがに、私たちだけでネメアの獅子の相手は無理だと思います。出発前と違って、今ならタオ殿に助力するくらいは可能かもしれませんが……(レイア嬢をそんな危険に巻き込むわけには絶対にいかない!)」
「ふ〜ん、ボクならいいんだぁ」
ジト目でアンドレを見つめるタオに、レイアとは違う意味で慌てるアンドレ。
「まぁ、いいや。とにかく、まずはアンドレさんとレイアお姉さんの二人でがんばってみて!
どうしても無理そうだったら、その時は助けてあげるから」
タオは、にこやかにそう宣言した。




