終話 春の宴
一週間後、桜の花が満開の中、祓い屋の本部である屋敷にミツバ達はやって来ていた。
そこで春の宴が開催されるのだ。
吾妻家の家族は全員、和装を着ている。
特にミツバは本日は婚約のお披露目という事もあって、家族からかなり気合を入れて準備をされていた。
その髪には椿と桔梗、それから杉の実がついた髪飾りがつけられている。スギノが知り合いに特注で頼んでいたらしい。
それが届いた時はスギノはご機嫌だったが、
「ううっ、綺麗だよ、ミツバ……」
――いざ今日になってみると、はらはらと涙を流していた。
それを見てキキョウが呆れた顔になっている。
「あなた、お嫁に行くんじゃないんだから、泣くのはおやめなさいな」
「だってキキョウ……」
ぐす、とスギノは鼻を鳴らす。普段のクールな義父はどこへ行ったのだろうか。
その変貌ぶりに、周囲の祓い屋達から「え……あれ吾妻さん……?」「別人……?」なんて言われている。本人である。
ミツバは少し居たたまれなくなってきて、
「あの、ところでここまでする必要が……?」
「あるのよ。だってお披露目だもの。あたしの妹が一番可愛いって見せたいじゃない!」
と聞いたが、ツバキにご機嫌にそう返されてしまった。
そうしていると十和田家の面々がやって来た。
「お、いたいた。お~い、吾妻の~」
手をぶんぶん振るハジメの後ろには、ソウジ以外に彼とよく似た男女の姿もある。ソウジの兄や姉だろう。
「……ハジメ」
「こんにちは、皆さん」
「よう、こんにちは。ってか何でガチ泣きしてんだよ、お前は」
ハンカチで顔を押えるスギノを見て、さすがのハジメも苦笑している。
そんな彼の後ろから、ひょいとソウジが顔を出した。
彼もしっかり和装をしている。格好良いなとミツバが思っていると、
「ミツバさん、とても綺麗です。よく似合ってらっしゃいます」
ソウジに先を越されてしまった。
ミツバは照れつつ、にこりと笑う。
「ありがとうございます。ソウジ君も着物姿、格好良いですねぇ」
「父さんや兄さん達が気合いを入れてくれまして……」
ソウジもちょっと恥ずかしそうに、ふふ、と笑った。
どちらの家族も子供が大事なようだ。
そうして会場まで向かうと、そこにはすでに大勢の鬼人達が集まっていた。
そんな彼らの視線は、とある場所に向けられていた。
ミコトとサクヤだ。ミコトの乗った車椅子をサクヤが押している。
幽世から戻って来てから、幸いな事にミコトの身体に急激な変化は起こらなかった。
ただ術が切れた事で、生きるために必要な事を身体が欲するようになった。
例えば食事とか、睡眠とか、そういうものだ。
しかし長い時間それらしていなかったミコトの身体は――特に食事に関しては、なかなか思うようには摂れないらしい。
今は点滴や流動食などで少しずつ身体を慣らしている最中なのだそうだ。
その手伝いをサクヤが行っているらしい。
見ていると、ミコトがこちらを向いた。サクヤもだ。
二人はミツバ達に向かって笑顔で手を振ってくれたので、ミツバも振り返す。
そうしていると、
「まったく、よく顔を出せたものだ」
「ええ、ええ。あんな事をしでかしてくれた若造共が……」
そんな声も聞こえて来る。
まだ説得しきれていない残りの祓い屋のお偉いさん達だ。
春の宴には参加しているものの、彼らは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そうは言われても、行事だから参加したのだけどなぁと思っていると、ソウジが心配そうに「ミツバさん」と声をかけてくれた。
「あ、ええ、全然大丈夫ですよ。大した事じゃありませんし。私はここへ、お披露目――というか、見せびらかしに来たので」
「見せびらかしですか」
「そうです。私の家族や友達を」
ミツバはそう言うと、ソウジや吾妻家の家族、十和田家の家族、それからサクヤ達の方を順番に見た。
とたんにスギノの目から滝のような涙が流れ出す。
「~~~~ッ!」
「おいスギノ。スギノしっかりしろ、お前そんなだったか、号泣してっぞ」
「うちの娘が……! 家族って……!」
「キキョウさんちょっとこれ」
「ううっ……ミツバ……ッ」
「ダメだ。キキョウさんも落ちた」
キキョウもダメだったらしい。二人揃ってボロボロ泣いている。
そんな両親を見たツバキが、
「まったくお父様もお母様も仕方ないわね! あたしがしっかりしてるからいいわ!」
腰に手を当ててそう言うと、
「そう言いつつ、お前も涙目じゃねーか」
後ろからそんなツッコミが飛んで来た。
ツバキがぎょっと振り向くと、そこには和装のレンジがいる。
彼は「よっ」と片手を挙げて笑った。
「うわ、いつ来たのよレンジ!」
「今だよ。騒いでるから気付かねーでやんの」
そう言ってレンジはハハ、と笑う。
それからミツバとソウジを見て、
「おー、似合うじゃん。結婚式みたいだな~」
「うおおお……!」
「何で吾妻さんの号泣度合いが上がるんだ」
さすがにレンジも真顔になった。
だんだん収集が取れなくなってきたが――まぁ、今日は慶事なので良いだろう。
ああ、でも、本当に素敵だなぁとミツバは思う。
『いらない』と捨てられた自分だったが、こうして一緒にいてくれる人達がいる。
メリットとか、そういうのだけじゃなくて、大事に想ってくれる人達がいるのだ。
何て幸せな事だろう。
ミツバはそんな彼らの顔を見ながら、
「……私の家族や、友達や――家族になる人は、優しくて、可愛くて、格好良い。自慢の人達だなぁ」
しみじみとそう言うと、その場にいた該当者達が一斉に赤面する。
泣いていたスギノとキキョウもだ。
「あげませんよ。僕のお嫁さんです」
そんな彼らに向かってソウジがそう言った。
まだ結婚していないけどなぁと思いつつ、お嫁さん、と言うのはなかなかどうして悪くない。
ね、とソウジに笑いかけられたので、ミツバも笑って頷いておく。
◇ ◇ ◇
そんなにぎやかなミツバ達を、少し離れた位置から見ていたサクヤとミコトは、
「副作用の執着心なくなったんだけどなぁ。あれはミツバ君、今後が大変そうだ」
「ソウジのはもともとの性質じゃないか? というより、君が言えた義理ではない気がするがね」
なんて言っていたが、まぁ、賑やかに騒ぐミツバ達には聞こえていなかったのだった。
これにて完結となります。
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