勇者リアージュの朝
僕の名前はリアージュ。
栄光ある勇者であり、魔王討伐の唯一の希望〈勇者パーティー〉のリーダーだ。
あの無能な荷物持ち、ドゥリンを追放した次の日。
僕は街の宿屋のベッドの上で目を覚ますのだった。
「……朝か。ふう、昨日は少しばかり飲みすぎたか」
昨日はあの荷物持ちから奪ってやった金で、酒場で豪遊をしたのだった。
酒場にいた他の冒険者連中にも酒をおごってやった。
そして、今まであの荷物持ちがどれだけ役立たずの無能で、パーティーの足を引っ張ってきたのか、しっかりと話を広めておいてやったのだ。
これで間違ってもあいつが魔王討伐の旅に貢献したなどと、そんな間違いが広まることもないだろう。
くくっ完璧だな。美しい僕の武勇伝にあんな醜い男は必要ない。
こういう事実は正しく、歴史に残らなくちゃならないからね。
「ううん……勇者様ぁ」
隣で寝息を立てるのは、裸で眠るミネルバとモニカだ。
昨日は気分がよかったのでたっぷりと二人を抱いてやった。
まあ神に選ばれた勇者であるこの僕に二人が惚れるのも当然のこと。
特にあの無能のドゥリンは、不相応にも聖女に気があったみたいだったから、親切な僕が本当のことをわからせてやった。
ククッ……あいつの青くなった顔は最高に笑えたな。
僕はモニカの身体を掴んで抱き寄せた。
反対側ではミネルバが僕に腕をからませて眠っている。
この二人はかなりの美女だが、栄光あるこの僕にふさわしいのはこんなものじゃない。
もっといい女……魔王討伐に成功した暁にはこの王国の姫を貰おうか?
いや、そういえばあの女がいたな。
そうだ。どうせものにするなら彼女がいい。
僕はある女を思い出し、ニヤリと口元をゆがめた。
――大聖女ラフィーエ。
僕が王都にいた頃チラリと見たことがある。
神々しいまでの美しい容姿、高貴な雰囲気。
あの大聖女を僕の物にする。
あの清らかな肢体を好きにできると思うとたまらない。
僕は自分の下半身に熱がおびるのを感じた。
気分が高揚し、興奮がおさまらない。
(もうすぐだ、もうすぐすべてが僕の手に入る……)
目指す魔王城はもうすぐそこだ。魔王を倒せば僕は英雄だ。
地位も金も、美しい女たちもすべて思うがまま……
ククク……たまらないな。しかし興奮して少し高ぶりすぎてしまった。
今日は彼女たちを使っておさめておくとしようか。
僕が起きたのに気付いたようで、二人が僕に甘えた声を上げてすり寄ってくる。
「勇者様、昨日はすごかったです。ねえもっと可愛がってください」
「私もしてほしいわ。ねーえいいでしょ?」
「やれやれ仕方ないな。ほら?」
「んっ……! あんっあんっ勇者様っ!」
「はあはあ勇者様っ、気持ちいいです」
ベッドがギシギシと揺れている。
僕は乱れる二人を見ながら考えていた。
魔王を倒して大聖女を手に入れたらこの女たちもいらないな。
適当に理由をつけて別れるとするか。
こいつらは……そうだな。アルバあたりにくれてやるとしようか。
僕の中古だが、まあ寡黙なあいつには十分すぎる器量だろう。
まったく僕はなんて仲間想いなんだろうか。
汗だくになってベッドに横になるモニカとミネルバ。
……ふう。喉が渇いたな。
僕は傍らにあった水筒を開け、その中身を飲み干した。
ごく……ごく……
水筒の中身が身体に染みわたっていく。
「ぷはあ……やはりこの水筒で飲む水はうまいな」
さっきまでの甘い疲労感もすっきりと消え、頭が冴えわたるのを感じた。
やはり朝の目覚めはこれに限る。
僕はすがすがしい気分で宿の階段を下りて行った。
宿の一階で僕を待っていたのはパーティーの仲間アルバだ。
「おうリアージュ、起きたか。どうする、もう魔王城へ向かうか?」
「いや待て。その前に例の装備を手に入れに行くぞ」
「おっとそうだったな。そのためにこの街に寄ったんだよな」
「おいおいアルバ、しっかりしてくれよ? あの〈神杖〉を得れば僕たちの魔王討伐はより確実なものとなるだろうね」
「ククッ……違いないぜ。こりゃあ魔王討伐もずいぶんと楽勝すぎるかもな!」
「はははっ! まったく才能がありすぎるってのも味気ないものだね。まあこれで僕たちは揃って英雄さ。王都に帰ったら、さぞ壮大に出迎えられるだろうね。君も楽しみにしているといいよ」
「おう! 俺も帰ったらたんまりと金をもらって、それで豪遊しながら暮らすとするか」
「そうだな。よし……ミネルバたちを起こしてこい。出発だ。例の場所に向かうぞ!」
目指す魔王城はすぐそこだが、その前にこの街〈メルトビリー〉で済ませておくことがある。
神話に語られし伝説の装備〈神杖アポカリプス〉。それがこの街の教会に収められているのだ。
岩に突き刺さったこの杖は誰にも抜くことが出来ないまま千年以上の間、真の使い手を待ち続けているらしい。
だが神に選ばれた優秀な僕が率いるこのパーティーの、賢者か聖女ならそれを扱うのに十分だろう。
魔王討伐という偉業を成し遂げる僕たちにはそれにふさわしい武器が必要だな。
これで僕たちの戦力はますます盤石なものとなるだろう……
「くくく……完璧だな」
僕はすべてのことがうまくいっているのを感じ、思わず笑ってしまう。
はあ。僕はどうしてこうも優秀なのだろう。
やはり生れ落ちてから持っているものが他とは比較にならないのだろうな……
そういえば、今ごろドゥリンはどうしているだろう。
有り金を全部奪ってやったから、どこかで物乞いでもやっているのだろうか?
あのような無能は栄光ある僕のパーティーにはふさわしくない。
僕たちはこれから英雄と称えられるんだ。その前に不要なものはしっかりと整理しておかないとな。
僕は仲間たちを連れ、勝利を確信して教会へと向かった。
だがこの時はまだ思ってもなかったんだ。まさかあんなことになるなんて……
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