アイテムボックス
エルフの姫、リーゼの胸に包まれる俺。
こうしているとなんだかふわふわした気分で時間が経つのを忘れてしまう。
なんて危険な武器を彼女は持っているんだろう。
「おいおいそろそろいいか? これじゃ動けないぞ」
「あっ! すみません私ったら嬉しくてつい……」
「ははは! リーゼみたいな可愛い子にされたら俺も困ってしまうよ」
「ま、まあドワーフ様ったら可愛いだなんて。ぽっ……は、恥ずかしいですわ」
リーゼはどうしたんだろうか……
彼女は顔を真っ赤に染めて俺を見ていた。
「そうだ、リーゼは何か理由があってエルフの里を出たんだろ? いったいなにがあったんだ」
「そ、それは……」
リーゼは深刻な様子で、ぽつぽつと俺に語りだした。
エルフの森、その中心にそびえる〈世界樹ユグドラシル〉。
世界を流れる魔力の根源であるこの木のまわりに異常が起きていた。
最近エルフの森の中を邪悪な魔力が満ちるようになり、この森を流れる魔力が乱れていたのだ。
このまま異常が続けば森は枯れ、エルフたちは住処をなくしてしまうだろう。
リーゼは里を救うため邪悪な魔力を祓うマジックアイテム〈浄化の水晶〉を探してここまでやってきたのだという。
ふむ。浄化の水晶か。そういえば……
「なるほどリーゼの事情はわかったよ。〈浄化の水晶〉か、それなら聞いたことがあるよ」
「えっ! ご存じなのですか、ドワーフ様!」
「ああ。たしか〈呪いの洞窟〉というダンジョンの深部で稀に見つかると聞いたことがあるな」
「す、すごい! 里から出たもののどこにあるかわからず困っていたのです。ドワーフ様はどうしてそんなにお詳しいのですか?」
「俺は荷物持ちだからな。荷物になるアイテムのことを知らなければ適切に運んだり、管理もできないだろ?」
「すごい……お強いだけでなく博識なのですね。さすがドワーフ様です!」
「そうなのか? ははは。だが困ったな、呪いの洞窟のあたりは冒険者ギルドの管轄らしいんだ。誰か冒険者の付き添いがなければ立ち入ることが難しいかもな」
「そ、そうなのですね。ならなんとか冒険者の方に協力を得なければ……」
リーゼは少し不安そうな顔をしていた。
無理もない。エルフの彼女にしてみれば見知らぬ人間の街に一人で入っていくのは不安だろう。
俺はなんだかリーゼが気になったので、彼女にある提案をした。
「なあ、よければ俺が街まで連れて行こうか? それで俺もリーゼが探しているアイテムを見つけるのに協力するよ」
「ええっ!? よ、よいのですか? ドワーフ様のお力を貸していただけるなんて!」
「おおげさだなあ。俺はただの荷物持ちだよ。どこまでやれるかわからないけど、でもリーゼの故郷が大変なんだろ? だったら放っておけないよ」
「ドワーフ様、なんてお優しい方なの。ううっ! リーゼは感動して泣きそうです!」
リーゼはその宝石のような瞳をうるうると涙で濡らしながら俺を見ていた。
やれやれ、女の子の涙にはどうやらすごい威力があるらしい。
俺も戦闘向けのクラスじゃないが、なんとか彼女の力になってやらないとな。
「本当は里の掟ではエルフは森を出てはいけないことになっているのです。でも私、森が危ないって知ってじっとしていられなくて……」
「リーゼは立派だよ。みんなのために里を出て、一人でここまで来るなんて。なかなか出来ることじゃないさ」
「ドワーフ様……ありがとうございます!」
「気にするなよ。困ったときは遠慮はなしだろ」
リーゼはそれに安心した様子で笑顔を取り戻すのだった。
「そういえば、この盗賊たちはどうしましょう」
リーゼが地面に倒れている盗賊たちを見て言った。
「そうだな、こいつら多分お尋ね者だろう。街の衛兵のところに連れていったほうがいいな」
俺は片手を前に構え、叫んだ。
「〈アイテムボックス〉オープン!」
目の前にあらわれたのは空中に浮かんだ漆黒の入り口だ。
これは〈アイテムボックス〉。この中にアイテムや生き物を入れられるのだ。
「よっと、ここに入れて街まで連れて行こうか」
俺は盗賊たちを抱え上げ、その中に次々入れていった。
たちまち十人以上いた盗賊たちはアイテムボックスの中に収納された。
あとは街の衛兵に引き渡せばいいだろう。
リーゼはどうしたのだろう。彼女は目を丸くしてそれを見ていた。
「ええっ! す、すごい! ドワーフ様、アイテムボックスが使えるのですか?」
「ああもちろんだよ。俺は荷物持ちだからな。これがないとたくさん運べないだろ?」
「そうですけど、でも生きた人間をそのまま入れられるなんて。そんなの聞いたことありません。それにこんな人数を一度にしまえるなんて……」
「そうか? 俺は普通だと思ったんだがなあ」
「ドワーフ様はすごいです、リーゼは驚いてばかりです!」
「ははは! まあ俺も荷物を運ぶくらいしかできないからなあ」
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