エルフの姫リーゼ
地面にめり込んだまま気絶する盗賊たち。
俺は彼らに襲われていたフード姿の少女をなんとか助けることに成功したのだった。
女の子は驚いた様子で後ろから俺に駆け寄ってきた。
「す、すごい! 今のはまさか剣士系の超級スキル〈疾風無限刃〉!? こんなスキルが使えるなんて。名のある大剣豪様なのでは……?」
「いや俺はただの〈荷物持ち〉だが」
「そんな、荷物持ちでこれだけ剣が使えるなんて。見たことありません! 驚きました!!」
彼女は興奮した様子で俺に言うのだった。
やれやれ、ただ見よう見まねでやっただけだったんだがな。
何故か驚かれてしまったようだ。まいったな。
少女はかぶっていたフードを外す。
金色に輝く、長く艶やかな髪がその下からあらわれた。
「すみません申し遅れました。私はリーゼと申します」
「ああ。俺はドゥリンだ。いや、なんとかなってよかったよ」
「ドゥリン……なんて逞しいお方」
リーゼは俺の手をぎゅっと握り、ぴたりと俺に身を寄せた。
俺をキラキラとしたまなざしで見つめてくるリーゼ。
俺は、彼女ほどの美少女はこれまで一度も見たことがなかった。
こんな可愛い子にこんなに近くに来られたらなんだかドキドキしてしまう。
「おいおい……なんだか近いなあ」
「す、すみません。私ったら初対面の方に失礼を」
「いやそんなことはないさ。でもどうしたんだリーゼ、震えているぞ」
「は、はい。私、さっきは盗賊たちに襲われてすごく怖かった。でも、ドゥリン様の近くにいるとすごく安心するんです」
「そうなのか。俺でよければいくらでもかまわないよ」
「……嬉しい。ぎゅっ!」
「おっと。やれやれまいったな」
彼女も怖い思いをして辛かったのだろう。
ただの荷物持ちの俺だが、彼女の支えになれるなら嬉しいな。
俺のふわふわしたひげの中に顔を埋めるリーゼ。
彼女の流れるような金髪を、俺は優しく撫でてやるのだった。
「よしよし、怖かっただろ。もう大丈夫だよ」
「は、はい。ドゥリン様、もっと撫でてください」
「いいよ。ほらこれでいいかな?」
「はう。……す、すごい。ドゥリン様、気持ちいいです」
「ははは! 『様』はいらないよ。ドゥリンでかまわない」
「そ、そうですか。じゃあドゥリン……助けてくれてありがとう」
「ああ、どういたしまして。リーゼが無事でよかったよ」
俺に花のような笑顔を向けるリーゼ。
そのあまりの可憐さに、俺は思わずドキリとしてしまう。
でも彼女はいったいどうしてこんな所に?
「そういえば、リーゼはどうしてこんなところに?」
「そ、それは……」
複雑な表情をしてうつむくリーゼ。
その時、俺は彼女の耳元を見て違和感に気づいた。
「なあリーゼ、その耳。君は……」
「えっ……!? わ、わかるのですか? 強力な〈隠蔽〉の魔法がかかっているのに?」
「ああ。少しモヤがかかったようには見えるけどね」
リーゼの耳は細く長く、横へ伸びていた。
それは人間のものとはあきらかに違っていた。彼女はいったい……?
リーゼはとても驚いて俺に言った。
「〈隠蔽〉を看破するなんて。す、すごい……! 驚きました!」
「そうか? 大げさだなあ」
「いえ、こんなこと滅多には出来ないんですよ。……それならもう隠すこともありませんね。ドゥリンは命の恩人ですもの。全部、お話ししなければ」
「……?」
リーゼは姿勢を直すと、そのスカートの端を持って、洗練された優雅な所作で俺に頭を下げた。
「私の名前はリーゼロッテ・シャインシュラウド。エルフの里の王女です。ある目的があって里から出てきたのです」
「なっ……! エルフだって!?」
「はい。ドゥリン、黙っていてごめんなさい。人里に出向き、人間でないことが知れればどうなるかと不安だったのです」
「リーゼ、そうだったのか」
俺はリーゼの言葉に驚いていた。
すごく綺麗な子だと思っていたけど、彼女は人間じゃなかったのか。
エルフというのは〈ヘイムダル大森林〉――通称エルフの森に住むという幻の種族だ。
知性が高く、とても長い時を生きるという。
魔力と弓の扱いにすぐれ、そして皆、非常に美しい容姿をしているのだと聞いたことがある。
普段はエルフの森からエルフたちが出ることはほとんどなく、その存在自体が幻と言われてきたエルフ。その王女様がリーゼだったなんて……
どんな理由があってリーゼが森を出たのかは知らないが、エルフが人里近くまで来るのは、なにか深い理由があるんだろう。
自分とは違う種族の中に馴染まなくてはならない……俺はなんとなく彼女の心境に共感できた。
「リーゼもなにか理由があったんだな。でも、安心してくれよ。実は、俺も人間じゃないんだ」
「え! そ、それは……?」
「実は俺、ドワーフなんだ。俺も最近知ったんだけどさ、はははは!」
「ド、ドワーフ!!!?」
彼女の顔が途端にサッと青ざめる。
俺の言葉にリーゼはひどく動揺していた。
「リーゼ!? ど、どうしたんだ……」
「ひっ……」
ぶるぶると震えながら後ずさるリーゼ。
まるで俺に怯えているみたいだ……
なんだ、彼女はいったい?
まさか、よくないことを言ってしまったのか。
俺は焦った。しまった、まさかドワーフはエルフと仲の悪い種族なのか?
「お、落ち着いてリーゼ。俺は悪いドワーフじゃないから」
「あ、あの……」
「えっ?」
「す、すみませんでした! ドワーフ様!」
「えっ! ど、どうしてリーゼが謝るんだ?」
「そ、そんな。どうかお許しください。私、ドワーフ様と知らずあのような馴れ馴れしい真似を……」
「おいおいドワーフ様って。俺はただの荷物持ちだよ。お姫様のリーゼの方がよっぽど偉いさ」
「まさか。ドワーフ様と言えばあらゆる生物たちの頂点に立つお方。私のような雑草エルフごときとは比べるべくもない高貴なお方なのですよ?」
「そんな馬鹿な。リーゼ、それは大げさだよ」
「で、でも……」
「高貴なお方って。別にエルフもドワーフも、それに人間も、どっちが上か下かなんてないさ。よくわからないけどそんなにかしこまらないでくれ。俺はリーゼが笑ってくれる方が好きだな」
「好き……! 私のことが?」
「おっと、すまない。そういう意味じゃないが」
「あう。嬉しいです! リーゼはずっとドワーフ様のお傍におります!」
がばっ……!
リーゼはその全身で俺にむぎゅうと抱き着いてきた。
彼女の豊満なものが容赦なく俺に押し当てられるのだった。
それはただ大きいだけではない。とても柔らかく、そして花のようないい香りがした。
「や、やれやれまいったな、これは」
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