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荷物持ちのドゥリン

 

 俺は声のした方に走って向かった。

 木々の中を抜けた先、そこにいたのは……


「へっへっへ! お嬢ちゃんどこに行くつもりだい?」


「いやぁっ放してくださいっ!」


 フードをかぶった女の子がガラの悪い男たちに囲まれていたのだ!


「あ、あれは盗賊か! た、大変だっ!!」


 男たちは少女を取り囲み下卑た笑みを浮かべているのだった。


「へへっ! そう嫌がるなよ。俺たちといいことをしようぜ?」


「お嬢ちゃん可愛いねえ。俺たち興奮して来ちゃったよ!」


「ひっ! 嫌、来ないで……」


 くっどうする……?

 奴らかなり数が多い。それに剣で武装してる奴もいる。


 しかし、このままでは……

 見ていられなくなった俺は、おもわず盗賊たちの前に飛び出した!


「待て! お前たちその辺にしておけよ。その娘が嫌がっているだろ」


「な、なんだてめえは!?」


 俺は女の子を庇うように盗賊たちの前に立った。

 奴らの数は10人以上はいるだろうか。くそっ……まずいな。

 だがこんな状況で放っておくわけにもいかない。


 現れた俺の姿に盗賊たちから失笑の声が漏れた。


「なッ……いきなり現れたかと思えば、なんだこのチビのヒゲ野郎は!」


「ぷぷ。こいつ武器も持ってねえ。すごく弱そうだぜ!」


 くそっ! 好き放題言いやがって!

 だが奴らの言う通りではある。俺もせめてもう少し身長があれば、うまく戦えるんだろうが……


 襲われていた彼女は、俺の背後でふるえていた。


「あ、あなたは……!?」


「俺はドゥリン。ただの荷物持ちだ。俺がなんとか戦って隙を作る。君はうまく逃げてくれ!」


「そ、そんな……」


 その時、盗賊たちの中でひときわ強そうな奴が前に出た。

 男は鉄の剣で武装している。どうやら盗賊たちの(かしら)らしい。


「くくっ! 何かと思えば笑わせる。おいヒゲのおっさん、英雄気取りは齢を考えな。死にたくなかったら引っ込んでろ!」


「悪いが俺はまだ20代なんだ。それにこんな所を見せられて黙っていられるほど、賢くできてもいないんでね」


「ふん。ずいぶん老けた野郎だ! だがいいのか? 俺は〈中級剣術〉のスキルの使い手だぜ。お前など一瞬でずたずたに引き裂いてしまうぞ!」


「な、なにっ! 〈中級剣術〉スキルだと!?」


 聞いたことがある。たしか相当強いスキルだ。

 最悪だ……これでは勝ち目は百に一つもないだろう。


 だが、ここでこの娘を置いて一人だけ逃げ出すなんて俺にはできない。

 せめて俺がやられている間に、彼女だけでも逃げてくれたら……


 役立たずと蔑まれ、居場所のなかった俺だが、せめて最後に誰かの役に立てたらよかったんだが。


 盗賊の剣が頭上高くに振り上げられる!


「おらあっ! 死ねえ!!」


 ――来る!


 俺は奴の斬撃をなんとか躱そうと意識を集中させる。

 俺は戦った事なんかない。勇者たちの戦いをいつも後ろで遠くから見ているだけだ。


 この男も勇者ほどではないだろうが、〈中級剣術〉スキルを持っているのだから、きっと俺など相手にならないくらい強いはずだ。


 くっ……勝ち目は薄いがなんとか躱して反撃するんだ。

 とにかく集中だ。集中……集中……


 

 その時、目の前では不思議なことが起きていた。


(なっ……! 止まっているのか!?)


 中級剣術使いの男は……どうしたのだろう。

 剣を振り上げたままの姿勢で固まっていた。


 顔をすごい剣幕にこわばらせたまま剣を振り上げて直立していた。


(……??? ど、どうなってる?)


 止まっている……いや、よく見ると動いている!

 すごくゆっくりとした速度でだが。


 俺の頭は激しく混乱していた。

 な、なんだこれは。これが中級剣術なのか……?


 あまりにも遅すぎる……まるで時間が止まってしまったみたいだ。

 ど、どういうことなのだろう。いま隙だらけの胴体にパンチを打ち込めば勝てるのではないだろうか……


 いやまさか。そんなはずはないだろう。

 恐れられている中級剣術なのだ。まさかそんな隙だらけなわけがない。


 きっとこれは相手の攻撃を誘っているのだ。

 うかつに俺が前に踏み出したが最後。きっと強烈なカウンターで、俺は切り刻まれてしまうだろう。


 危ないところだった。敵の誘いに乗るところだったな!


 しかし、なんてゆったりした速度なのだろう。

 俺の前にとてもゆるゆるとした速度で剣が向かってくる。

 俺はおもわずあくびが出そうになるのをこらえていた。


(この剣、取れるんじゃないか?)


 俺はふと、そう思った。


 男の剣戟はあまりにも遅く、これなら手掴みで剣を奪えそうだ。

 なんでこんなに遅いのかは知らないが、俺もちょうど武器を持ってなかったしな。


「ふんっ!」


 俺は、振り下ろし際を狙って男から剣を奪い取った。

 彼は何が起きたのかわからない様子で、困惑していた。


「な、なんだっ! 俺の剣が消えた……!?」


「おいおい。今のが〈中級剣術〉なのか? はははっ何かの冗談だよな?」


「そ、それは俺の剣!? いったいいつの間に!?」


「はあ。あれだけ遅かったら奪われても文句はいえんぞ」


 俺の手に握られた剣を見て、盗賊の頭は震えていた。

 どうしたんだろう。まさか今のが全力だったわけでもないだろうに……


「おい、いま何が起こった? 全然見えなかったぞ」

「わからねえ。だが音速を超えるお(かしら)の斬撃を躱すなんて普通じゃねえよ!」


 まわりの盗賊たちもなにやら騒いでいる。

 彼らはいったいどうしたんだろうか……


「しかし……」


 俺は奪い取った鉄の剣を見て、思わずため息を漏らした。


「ひどい剣だ。ろくに整備もされていない。これでは百分の一も性能を発揮できないぞ」


「な、なんだと! てめえ何言ってやがる!」


「論より証拠だ。整備を怠るからそうやって醜態をさらすことになる。整備というのはこういうふうにやるんだ」


 俺は刀身に手を当てて精神を集中した。

 鉄の刃の内側から、ざわざわとした言葉のようなものが聞こえてくる。


 これはあまり知られていない事なのだが、装備にはそれぞれ心がある。


 装備たちの声に耳を傾けてやり、その真の力を引き出す。

 それが勇者たちの装備を預かる〈荷物持ち〉としての仕事だ。


 装備というのは繊細で、まめに整備をしないと性能がすぐに落ちてしまう。

 勇者たちも、早く俺の代わりの、荷物持ちを見つけてくれるといいんだが……


「さて……」


 俺の手には輝く刀身の一振りの剣が握られていた。

 それは先ほどまでにはなかった強いオーラを放っている。


 ふむ。即席だが、まあ悪くはないだろう。

 俺は剣の先を盗賊たちに向けた。オーラが渦巻いて風の音がごうごうと鳴っている。

 すると……どうしたんだろう。

 彼らはたちまちガクガクと震えだし、立っていられなくなったようで地面にへたり込んでしまう。


「ああ……うあっ……な、なんだあの剣は!」

「バ、バケモノみたいなオーラだ。ヒイイイィッ……!!」


 まるで生まれたての小鹿かなにかのようだな。

 彼らの中には哀れにも、恐怖に顔を引きつらせ、失禁している者も多くいた。


 まさか彼らはこの程度の〈剣気〉にあてられてしまっているのだろうか……


 盗賊たちの頭は絶望に青ざめた顔で、俺を見上げながらつぶやいた。


「こ、こいつ……人間じゃねえ。とんでもねえ奴に手を出しちまった……」


 くそっ……やはり俺がドワーフだと気づかれていたか。

 さすがだな。やはり頭だけあって洞察力には長けているらしい。

 

「やれやれ、来ないならこちらからいくぞ?」


 俺は剣を実戦で使った事はないんだが……勇者たちや、この盗賊の使い方を見るに多分こんな感じだろうか。俺は剣を下に構え、それを盗賊たちに向けて軽く振り上げた……!



 ビュゴオオオオオオオオオオオッ!!!!



「ぬ、ぬわあああああッ!?!?」

「ひぎゃああああああっーーーー!!」


 剣からほとばしる斬撃の衝撃波が暴風となって盗賊たちを襲った。

 吹き荒れる斬撃の風が、男たちの衣服をずたずたに引き裂きながら空高く吹き飛ばしたのだった。


「す、すごい……! なんて力なの!!」


 俺の後ろでは助けた少女が驚いた声を上げていた。

 一時はどうなることかと思ったが、思ったよりだいぶ弱い連中で助かったな!


 舞いあげられた盗賊たちはやがて上から降ってきて、地面にぶつかって大穴を開けていた。

 全員ズタボロだが……どうやら生きてはいるらしい。


 やれやれ、まさか殺さない程度に加減するのが、一番骨が折れるとはな。

 なんて貧弱な連中なんだろうか。驚いたな……



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