迷惑料
突然、リアージュたちに呼び止められる。
振り返った俺を見ながら、リアージュは不機嫌そうに机をコツコツと叩きながら言った。
「ドゥリン、忘れてないか? 置いて行くものがあるだろう」
「置いて行くもの? ああ、皆の預かっていた荷物のことか。それなら心配ない。少し量は多いけど全部、泊ってる宿屋に預けておくからさ」
「そうじゃない。ちッ……! 本当に頭の悪い男だな、お前は。迷惑料だよ! いままで無能を飼ってやっていたんだ。その金をいま払えと言ってる!」
「そうよそうよ! 散々迷惑かけられて、ただで逃げられたらたまらないわ!」
「ドゥリン、まさか何も無しで辞められると思ったんですか? ずいぶん厚かましいですね……」
「とりあえず有り金を全部置いて行けよ。俺たちは寛大だからよ、それで許してやるよ!」
「迷惑料って……こ、こんなの横暴だろ!」
「黙れよドゥリン。勇者の僕と、荷物持ちのお前。周りはどっちを信じるかな? ここでお前が酔って殴り掛かってきたのを僕たちはやむなく反撃した……そういうふうに衛兵に報告したっていいんだぞ?」
「ドゥリン、あなたちょっと理解が足りないみたいね。少しわからせてあげないとね」
ミネルバはその手に持った杖の先から魔法の炎を燃え上がらせて俺に近づいてきた。
殺気だった彼女の目がギラリと光る。
「な、何をするんだ。うわっ……!?」
千を越える魔術を自在に操る、賢者ミネルバ。
その迫力に後ずさる俺は、後ろにあった椅子に足を引っかけて転んでしまった……!
床に倒れる俺の顔に、激しく炎を上げる彼女の杖が向けられた。
ミネルバは嗜虐的な笑みを浮かべ、心底おもしろそうに俺に言った。
「あなたのその髭、燃やしたら面白そうねえ。きっとよく燃えるんじゃないかしら。それだけ生えてると邪魔でしょう? 私がさっぱりさせてあげるわよ」
「ひ、ひいいっ! や、やめてくれミネルバ!!」
「ふーん。ならわかっているわよねえ、ドゥリン?」
「わ、わかったよ! 金なら全部渡すから。だから……」
「それだけ? なにか足りないんじゃないかしら」
「た、足りないって。これ以上どうしたら」
「ドゥリン、わからないのかい? だから君は無能なのさ」
「謝罪よ謝罪。誠意が足りないんじゃないかしら!」
「本当に礼儀知らずな人間もいたものですね……」
「土下座しろよドゥリン。話はそれからだろう?」
ちくしょう……なんて奴らだ。
こんな奴らを、俺は仲間だと思っていたのか。
気が付けば酒場の他の客たちも面白がって俺の窮地を眺めていた。
だが、誰も俺を助けようとなんてしない。
当然だ。相手は栄光ある勇者のパーティーで、俺はそれを追い出されたただの無能なのだから。
役立たずに向けられる、世間の目はこうも冷たいのか……
勇者たちに煽られながら俺は床に、自らの額をこすりつけた。
その頭の上に、誰かが酒のジョッキの中身をぶちまける。
俺はびしょびしょになりながら、屈辱的な謝罪を強要された。
「ほらドゥリン。教えたとおりに言うのよ。間違えたら最初からもう一回だからね!」
「は、はい……。勇者パーティーの皆さま。この度は無能な荷物持ちが迷惑をかけて……うっ……ほ、本当に申し訳ありませんでした……。ぐすっ。もう二度と皆さまに迷惑をかけないことを誓いますのでどうか……皆さまの寛大な心でお許しください……」
「うーん、70点ってとこかしら。どうする?」
「まあ無能にしてはよくできた方じゃないかな」
「ドゥリン、謝罪も下手なんですね。はあ。呆れました」
「ドゥリン、なに泣いてるんだ? 全部お前が悪い。そうなんだろ?」
「はい……そうです。俺は無能な役立たずです」
「よく言えたじゃないか。はっはっはっはっは!!」
「えらいぞドゥリン。君は傑作だよ。あっははははっ!」
「ふふっ、いいわね。少しは無能らしい格好になったんじゃないの」
「さようならドゥリン。もう二度と会うこともないでしょう」
「……ああドゥリン。言い忘れたが、間違っても荷物を持ち逃げしようなど考えないことだ。そんなことをすれば国中に手配書を出して、君を縛り首にするからね」
「傑作ね。ドゥリンの首は柱に吊るされるのがお似合いだわ」
「言えてます。あははっ!」
「お前のひげ面が吊るされて青くなっているのを想像すると……くははっ! 駄目だ笑いが抑えられんぞ!!」
酒場にかつての仲間たちの大笑いの声が響く。
俺は涙に顔を濡らしながら、逃げるようにその場を走り去るしかなかった。
俺はこの日、長く旅をともにしたパーティーを追放されたのだ……
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