選ばれた仲間たち
俺などいないかのようにみだらな行為に耽る勇者とミネルバ、そしてモニカ。
俺はお楽しみ中の三人を遮って言った。
「なあリアージュ、考え直してくれないか。〈神託の予言〉のこともあるだろ。魔王城はもうすぐなんだ。今、俺をパーティーから外すことないだろ?」
現在、俺たち人間は魔王率いる魔族と敵対関係にあった。
強力な力を持った魔族に戦局が傾く中、神の言葉を代弁する〈教会〉からある予言がもたらされたのだ。
勇者リアージュを含む五人の仲間たちでパーティーを組み魔王城へ向かうこと。
事が成された暁には真の平和が訪れる。それが神よりもたらされた予言だったのだ。
五人の仲間たちというのは、つまり俺たちのことだ。
神託の予言が下されてから国中におふれが回り、俺の村からはモニカと俺が選ばれたのだった。
実際、勇者パーティーの俺たちはここまで快進撃を続けており、魔王側の有力な幹部たちを次々撃破し魔王城に迫りつつあった。
この街より北に広がる〈死の荒野〉を抜ければ目指す魔王城はもうすぐそこだ。
これまで予言の通りですべてうまくいって来てる。
だからここで、あえて予言に反するようなことをするべきじゃないと思うんだが……
だがリアージュは呆れたようにため息をこぼして言った。
「はあ。神託の予言ねえ。そういえばそんなものもあったかな? モニカ、君はどう思う?」
「うーんそうですね。多分何かの間違いだったんじゃないですか?」
「……だそうだよドゥリン君。聖女のモニカがそう言っているんだ。相違ないだろう。僕は君のような無能が、栄光ある勇者パーティーに選ばれること自体、おかしなことだとずっと思っていたんだよ」
「そうよドゥリン。私たちがここまで勝ち進んできたのは私たちがそれだけ優秀だったからよ!」
「違いない。もう後は魔王城へ向かうだけだ。ここでお前を外したところで何も問題はあるまい?」
「くっ……しかし……」
ミネルバとアルバもそれに同調する。
嫌な予感がする。俺の考えすぎか? それならいいんだが……
「なあ、せめて魔王城に着くまででも待ってもらえないか? 〈死の荒野〉は普通の荒野じゃない。危険な場所なんだ。物資だってたくさん要る。〈荷物持ち〉無しでは危ないよ。せっかくここまで来たんだ。もう少し待ってくれたっていいだろ?」
俺だって仮にも勇者パーティーの一員だ。
魔王が倒されて世界が平和になればいいって思ってる。
魔王城へ向かう途中に広がる死の荒野は水も食料も調達の難しい危険な場所だ。
俺が邪魔だっていうならそれは仕方ないのかもしれない。
けど、せめてもう少しだけ待ってもらうことはできないのか……?
俺は自分の必要性を必死に勇者に説明しようとした。
だがリアージュは心底興味なさそうに、深くため息をつきながら答えた。
「はあ。ドゥリン、やけにこだわるじゃないか? お前の考えていることはわかっているぞ?」
「なっリアージュ、ど、どういうことだよ」
「大方、魔王城まで同行することで、僕たちが魔王を倒した功績……そのおこぼれにあずかろうって魂胆だろう。まったく卑しいことだな」
「ち、違う……! 俺はそんなつもりじゃ!?」
「ふん、どうだか。君のような無能は他人に寄生することでしか成果など上げられないだろう? まったく、君の卑屈さには吐き気がするよ。さっさと消えてくれないか?」
「そうよそうよ! 魔王を倒してもあなたみたいな寄生虫と同列に並べられたらたまらないわ。目障りなのよ。ドゥリン、わからないかしら?」
「ああドゥリン、あなたは本当に醜いですね。見た目だけではない。その卑劣な心。なんてさもしい男なのかしら。きっと自分のことしか考えていないのでしょうね。まったく、神はなぜこのような存在を作られたのか、理解に苦しみますわ」
「ドゥリン、お前のような寄生野郎とはもう我慢ならないんだよ。本当に皆の言うとおりだ。自分では何もせずまわりの評価をかすめ取る泥棒みたいな野郎だ。俺は一緒にいて恥ずかしいぜ」
「そんな……みんな……」
口々に浴びせられる心無い言葉の連続に、俺はがっくりと肩を落とした。
まさか皆にこれだけ嫌われていたなんて……
パーティーに貢献していると思っていたけど、それは俺の独りよがりだったのか。
「……わかったよ。そこまで言うなら俺はパーティーを抜けるよ。今までありがとうな」
悔しいがここまで言われてはこれ以上無理も言えない。
魔王城を目前にして残念だが、後は四人が無事に魔王を倒してくれることを願うとしよう。
俺はリアージュたちに背を向けてその場を去ろうとした、その時だった。
「おい、待てよドゥリン。なに勝手に行こうとしてるんだ?」
「え?」
突然、リアージュたちに呼び止められる。
振り返った俺を見ながら、リアージュは不機嫌そうに机をコツコツと叩きながら言った。
「ドゥリン、忘れてないか? 置いて行くものがあるだろう」
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