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神杖アポカリプス


 マーリンはガクリと膝をつき、うなだれながら震えていた。

 どうやら体調が悪そうだ。後で医者を呼んでおいた方がよさそうだが……


「しかしまいったな。これじゃ杖が選んでもらえない」


「そうですね、どうしましょうか……」


 ――俺たちが突然の出来事に困惑している、そんな時だった。


『来て……』


 頭の中に響く不思議な声。俺は思わず振り返る。


「ん? リーゼ、今なにか言ったか?」


「いえ、何も。どうかしましたか?」


「声が聞こえる。不思議な声だ……」



『来て……私を抜いて……』


 どうやらこの声が聞こえているのは俺だけのようだった。

 そういえばこの街に来た頃から、たまにこうして不思議な声が聞こえていたような。これはまさか……


「これはもしかすると、何かの装備の声かもしれないな」


「装備の声、ですか?」


「ああ、装備にはそれぞれ心があるんだが、俺は〈荷物持ち〉だから触れることで装備の声が聞けるんだ。だけど強い想いを持った特別な装備は、離れていても声が聞こえてくることがあるのさ」


「……そうなのですね! もしかしてドワーフ様を呼んでいるのでは?」


「どうやらそうらしいな。よし、行ってみるか。声は外から聞こえるようだ」



 俺たちは不思議な声に導かれ、街の中心へと向かった。

 そこにあるのは尖塔が天を衝く巨大な建物――この街の教会だ。

 

「おっと……この場所は。いや、まさかな……」


「どうかしたのですか、ドゥリン?」


「ああ、別に。多分俺の思い違いだと思うんだが……」


 この街〈メルトビリー〉の教会はあることで有名な場所だ。

 それはこの教会に、ある強力な〈装備〉が存在しているからなのだが……


 勇者パーティーの荷物持ちだった俺は、当然その装備のことも知っている。

 魔王城に向かう前に勇者パーティーがこの街に立ち寄ったのも、魔王との決戦の前に、その装備を手に入れるためという理由が大きかったからだ。


 いや、しかし……あれを手に入れるのは〈賢者〉や〈聖女〉の彼女たちのハズ……

 もしこの声があの装備のものなら、どうしてパーティーを追放された俺が呼ばれているのだろうか?


 疑問に思いつつ、教会の中に入った俺たち。

 中は静かで、ひんやりとした空気に満ちている。

 そしてどうやらこの時間は、人も少なく、ほとんど誰もいないようだった。


 俺たちを呼ぶ声はどうやらこの奥のようだな……


 教会の窓には巨大なステンドグラスがはめ込まれていて、外からの陽の光で輝いている。

 それはどうやら教会の聖典に描かれた、神話の場面を再現したものらしかった。


「静かなところですね……なんだか不思議なところです」


「そうだな。俺もこういうところには来なかったからな」


「あっ……見てください、あの窓のガラスに描かれている(ひげ)の人物……なんだかドワーフ様に似てますね?」


「おっと、本当だ。不思議な偶然もあるものだな……」


 俺が教会に来るのは〈神託の予言〉が下されて、王都に呼び出された時以来だろうか?


 たしか……教会ではこの世界の創造神と、あと一人、誰かを祀っていた気がするんだが……誰だったかな? まいったな、よく思い出せないな……


「あったぞ。これだ」


「こ、これは……杖が地面に刺さっている……??」


 奥の祭壇の前にそれはあった。床から突き出した岩に、漆黒の長い杖が深々と刺さっている。

 杖は金属とも木材とも言えないような見たことのない材質で出来ているようで、不思議な光沢を放っていた。


「ふむ……間違いないな。これは伝説の神器〈神杖アポカリプス〉だ……」


「……ええっ!! こ、これがあの伝説の神器……!?」


「そのようだ。いや、まさかな。この杖が俺を呼んでいた気がするんだが。気のせいだとは思うんだが……」


 荷物持ちの俺は、仕事上アイテムの知識が欠かせない。

 〈神器〉とは神話の時代に作られた、あらゆる装備たちの頂点ともいえる存在だ。


 神器を扱えるのは、一つの時代に一人の使い手だけ。

 神杖アポカリプスは千年以上もの間、誰も岩から抜くことが出来ないままここにあり、やがてその周りに人々によってこの教会が建てられたらしいのだった。


 もしこの杖を抜ける者がいるとすれば、それは世界を救えるほどの実力がある人しかいない。

 魔王討伐に快進撃を続ける勇者パーティーの、賢者ミネルバこそが、これを扱えるのではと世間ではまことしやかに噂されていたのだった。


 だがここにこれがあるということは、まだ彼女たちは取りに来ていないようだな。

 しかし……どうして俺が声に呼ばれたのだろう……


 隣のリーゼは目を輝かせて興奮気味に俺に言った。


「ねえドゥリン、私、わかりました! きっとドゥリンこそがこの杖の真の使い手だったのですよ……!」


「俺がか? やれやれ、俺はただの荷物持ちだぞ。そんなことがあるのかな」


「もちろんですよ。かつてドワーフ様は、魔力で惑星(ほし)の動きすら自在に操ったと言います。なら、これを扱えるのはドゥリン以外にはいないですよ!」


「えっそうなのか? なら、ちょっと試してみるか……」


 なぜ荷物持ちの俺が呼ばれたのか、理由はわからない。だがあの声は確かに、ここから抜いて欲しいと言っていた。ずっと使われることもなく、岩に刺さったままではなんだか杖がかわいそうな気がするな。意を決した俺は杖の持ち手に手をかけた――その時だった!



 ――カッ!! ピシッ……!!


 いきなり強烈な光が杖から放たれたかと思うと、杖が刺さっていた岩に亀裂が走った。

 俺が杖を抜き放つと、次の瞬間、岩は粉々に砕けてしまうのだった……!


 俺の手の中に握られた神杖が、その姿を変えていく……


 光の中から現れたのは、フリルの付いた漆黒の衣装に身を包んだ美少女だった。

 彼女はふわふわと宙に浮かびながら長い黒髪を揺らし、瞳を潤ませながら俺をまっすぐに見ていた。


「嬉しい……(あるじ)様、ついに来てくださったのですね」


「君は? この杖なのか」


「初めまして主様。私は〈神杖アポカリプス〉。――第七の災厄、神罰の執行者。〈セブンシスターズ〉の一振りです。偉大なる主様の手に取っていただける日をずっと待っていたのです」


「アポカリプス、それが君の名前か。君に触れてわかったよ。ずっとここで俺を待っていてくれていたんだな」


「はい。今まで幾人もの人間が私を抜こうとしました。でも敬愛する主様はただ一人。……そう貴方様だけなのです。ああっ声が届いて本当に良かった。まるで夢のようです」


「そうだったのか。君に会えて嬉しいよ。俺はドゥリン。俺と一緒に来てくれるか?」


「はい! もちろんです。私は貴方様だけのものです。どうぞなんなりとお申し付けください」



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