謎の二人組
俺たちの前にあらわれたのはいかつい顔をした目つきの悪い二人の男だった。
彼らはいったい……?
「な、なんだ君たちは? Bランクパーティー? 俺もやることがあるんでね。さっさと冒険者になりたいんだがそこをどいてもらえるか」
「がははっ! 悪いがそういうわけにもいかないな。このギルドのしきたりでね。冒険者になるときには俺たちがテストをすることになっているんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
これが試験官? ずいぶん下品な試験官がいるんだな……
気になった俺は思わず受付嬢に聞いてしまった。
だが、彼女は俺の言葉に答えず、ただ気まずそうにうつむいていた。
「なあ聞いたぞドゥリン、お前のことをな。ずいぶん勇者パーティーに寄生してきたらしいじゃないか。それで今度はこっちに鞍替えか? くくっご苦労なことだなあ!」
「ヒヒッ……おいお前、今日は女連れかよ。その面で似合わないことしやがる」
「おいッちょっと待て!? 後ろの子、よく見りゃ滅茶苦茶可愛いじゃねえかよ!」
「本当だ。へへへっお嬢ちゃん可愛いねえ。歳はいくつなんだい?」
「……私は1017歳ですが、な、なんですかいきなり?」
「へ? ……千? ああ、いや17歳か。へへっどうだこんな奴は置いておいて俺たちのパーティーに入りなよ」
「それとも? 何か依頼があるなら、俺たちが受けてやってもいいぜ?」
「くくっそのかわり……ちょっと俺たちと付き合ってもらうことにはなるけどな」
バリーはその口元をいやらしくゆがめて言うのだった。
「い、嫌です、お断りです! なんだか目が怪しいです! ドゥリン……この人たち怖いです……」
リーゼは男たちを振り払い、俺の背中に小さくなって隠れてしまう。
やれやれまいったな。なんて礼儀のなってない奴らだろう。
俺は男たちの前に立ちふさがるようにして言った。
「おい君たち、彼女が怖がっているだろ。あまり近寄らないで貰えるか?」
「チッ! いきがってるんじゃねえぞドゥリン、このチビ野郎。荷物持ちのお前にまともなパーティーが組めるかよ」
「そうだそうだ! 追い出された役立たずの無能のくせに調子に乗っているなよ!」
「やれやれ……役立たず、ね。勘違いじゃないのか? 俺もちゃんとパーティーに貢献はしていたつもりなんだがな」
「フン、荷物持ち風情が笑わせるぜ。冒険者になってどうしようって言うんだ。荷物を持つだけなんて誰にでもできるだろう。お前のような無能を欲しがるパーティーなんてここにはいないんだよ」
「そうだそうだ! わかったらさっさと失せな。ここはお前のようなチビのおっさんが来る場所じゃないんでね」
「はっはっは! まったくだ、笑えるぜ!」
俺は彼らの物言いに思わずあきれ返ってしまう。
〈荷物持ち〉の仕事は荷物を持つだけ……?
はあ。いったい彼らは何を言っているんだろうか……
「お、おいおい。荷物を持つだけだって? 可哀そうに。何も知らないんだな、荷物持ちのことを」
「な、なにっ! どういうことだ」
「君たちの装備を見ればわかる。Bランクパーティーだって? ははっなにかの冗談だろ。とてもそうは見えないな」
「なんだと!? てめえまさか俺たちに喧嘩を売っているのか!」
「喧嘩だって? おいおい。まさかそんなわけないだろ。俺は別に弱者をいたぶる趣味はないんだが……?」
「ドゥリン……て、てめえ! 弱者だと? 俺たちは泣く子も黙るBランクパーティーだぞ。何を根拠にそんなこと言ってやがる!!」
「はあ。言われないと気づかないか。これは親切で言っておくんだが、君たちの装備は酷いな。まさかこんな碌に〈整備〉もされていない防具で戦っているなんてね。驚いたなぁ……」
「なっ! 整備だと、こいつ何言ってやがる!」
「君たちが大声で騒いでいる間に、ちょっと見させてもらったよ。これじゃあ本来の力の百分の一も発揮できないぞ。なあ、リーゼも装備の管理が出来ない男は嫌だろう?」
「そうですね。この人たちなんだかファッションセンスも酷いし、それになんだか臭いです。いつから服を洗っていないんでしょうか……」
「だ、そうだよ。さあ、もうわかっただろう。俺たちも忙しいんでね、さっさとどいてもらえるか?」
すると彼らはどうしたのだろう。
顔を真っ赤にして激昂し始めたのだ……
「う、うがあああっ!! ぶ、ぶち殺してやるぞ!!」
拳を振り上げて俺に突っ込んでくるゴドス。
そのあまりにも遅い動きには思わずあくびが出てしまいそうだ。
これは盗賊との戦いのときに気づいたことなのだが、どうやら〈荷物持ち〉は戦闘時に集中することで時間の流れをゆっくりと遅くすることができるらしい。
だがあまり集中しすぎると、完全に時間が止まった感じになってしまうので、まあ彼らが相手ならこの程度の集中で十分か。
振り下ろされる奴の拳が空を切る。
俺はゴドスに認識できない速度で奴の背後をとった。
「おいおい。どこを向いているんだ?」
「なっ! いつの間に!?」
「足元がお留守なんだが……」
バキィ!
「ぐはっ!? なんてパワーだ!」
俺は力を極限まで抑えた蹴りを奴の脚に繰り出した。
だが……それだけでゴドスは大きくのけぞり完全に体勢を崩していた。
「これで? 冗談だろ、手加減するのが大変なんだが」
ドゴォ!!
「ぐわあああああ!?!?」
追撃のこぶしを受け、ゴドスは激しく回転しながら吹っ飛んでいった。
俺は薄々気づいてはいたが、ゴドスがあまりにも弱いので、やはり驚いてしまう。
「て、テメェ! 調子に乗るなよ!」
ナイフを手に俺に襲いかかるバリー。
「遅すぎる……フンッ!」
コツン……
「なにっ俺のナイフが消えた!?」
バリーがナイフの行方が気になるらしいので、俺は無言で上を指差す。
天井に刺さったナイフを、呆けた顔で見上げるバリーは完全に隙だらけだった。
「おい、ボディがガラ空きだぞ?」
ズン!
「ぐぼぁっ!?」
「おいおい……ガードが下がっているぞ?」
バゴオ!!
「へぶううううッ!?!?」
鼻血を噴き出して床に倒れるバリー。
ぴくぴくと悶絶しているが、どうやら生きてはいるらしい。
はあ。あまりにも相手が弱いと手加減が難しいんだよなあ……
「やれやれ君たち素人か? 荷物持ち相手にこれじゃ話にならない。さっさと家に帰りたまえ」
俺の言葉に、バリーは頭を床にこすりつけながら答えた。
「ひいいいっ!? ゆ、許してください!」
「許す? おいおい別になにもしていないんだが?」
「い、命ばかりは。どうか……なんでもしますから!」
「はあ。別に君たちにやってもらうことはないよ。さっさと消えてもらえるか」
「は、はい! すみませんでした! すみませんでした!」
バリーはゴドスを担いですごい勢いで去っていくのだった。
妙な奴らが去って安心したのだろう。
俺の後ろからリーゼが笑顔で頭を出した。
「す、すごいです。さすがドゥリンです! はぅ……すごくカッコよかったです」
顔を真っ赤に染めて俺を見るリーゼ。
「なに大したことじゃない。彼らが弱かっただけだ」
可哀そうに。彼女には怖い思いをさせてしまったな。
だが俺がリーゼの髪を撫でてやると、彼女はすっかり安心した様子に戻ってしまうのだった。
やれやれあいつらはいったいなんだったんだろう。
迷惑な連中だったなあ……
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