パーティー追放
「ドゥリン、君はクビだ。今日でパーティーを出ていってもらう」
ここは冒険者でにぎわう街の酒場の一角。
パーティーの荷物持ちである俺、ドゥリンは、パーティーのリーダー、勇者リアージュにいきなりそう告げられた。
「なっリアージュ!? ど、どうしてだよ」
「やれやれ、どうしてだって? なあドゥリン、僕がいちいち言わないとわからないかい?」
「そ、それは……」
リアージュの言うことは正しい。
神に選ばれた強力なクラス〈勇者〉を持つリアージュは対魔王の切り札だ。
それに従う仲間たちのクラスも強力なものばかり。
だが、俺に与えられたのは〈荷物持ち〉というどこにでもあるありふれたものだった。
だから俺の力不足を指摘するリアージュの言い分もわかる。
でも……
「たしかに俺のクラス〈荷物持ち〉はありふれたものさ。でも俺だってパーティーの役に立てるように頑張ってきただろ? そんなこと言わないでくれよ」
サポート役である〈荷物持ち〉が戦闘中に出来ることは少ない。
だから勇者たちから見たら俺が何もしていないって、そう見えてるのかもしれない。
けど、俺だってパーティーの役に立てるように、装備の整備からアイテムの管理。食料や水の確保……それに索敵やキャンプの確保だってやってきた。
だからみんなと剣を並べて戦えなくても、みんなの役に立てているって、そう思っていたんだが……
リアージュは俺をひどく冷めた表情で見下ろしため息をつくのだった。
「はあ。何を言うかと思えば。荷物持ちなどどこにでも転がっている底辺職のひとつだろう。勇者であるこの僕が率いる、優秀なパーティーにはふさわしくないんだよ。なあ、皆もそう思うだろ?」
「まったくね。あなたのような底辺のむさくるしいデブに同じ場所にいられると迷惑なの。あなたの醜いひげ面を見るたびに虫唾が走るわ。ホント、目障りなのよねえ!」
「ああ、その通りだ。ドゥリン、ここはお前のような貧弱なチビのいられる場所ではないのだ。お前はこのパーティーにふさわしくない。少し鏡を見ればお前もわかるはずだがな? それもわからんのは、まさに無能だと言っているようなものだぞ」
「くっ、そんな……」
俺を罵るのはパーティーの仲間、賢者ミネルバと、重戦士アルバだ。
パーティーの仲間たちは、いつもひどく不快なものを見るような目で俺を見てくる。
それもそのはず、金髪碧眼の美しい容姿を持つリアージュに比べて、俺の姿はひどく醜いものだった。
短い脚に太い胴体。潰れたカエルのようだと罵られた。
さらになぜか俺はやたらと体毛が伸びやすく、そして剛毛だ。
ひげや胸元など、すぐにもじゃもじゃになってしまう。
だが勇者パーティーでの仕事は激務で、まともに処理をしている時間もなかったのだ。
つけられたあだ名は『チビデブ』『おっさん』。
くそっ……俺はまだ二十代なのに。こんなのあんまりだ。
仲間たちから罵声を浴びせられた俺は、助けを求めてもう一人の方を見た。
清楚な白いローブ姿の彼女は、強力な回復の奇跡を操る聖女のモニカ。
「モニカ、君まで俺を追い出すのに賛成なのか?」
「聞いてドゥリン、魔王城はもうすぐそこよ。ここから先は出てくる敵も強くなるわ。ただの荷物持ちのあなたがついてくればきっと危険な目に合うと思うの。これはね、あなたのためなのよ」
モニカは困ったような顔をして俺に答えた。
モニカは俺と同じ村で育った幼馴染だ。
小さい頃から彼女とはよく一緒に遊んだのをよく覚えている。
昔、モニカが村の近くの森で迷って狼に襲われそうになっていたのを俺が助けて以来、彼女は俺のことをとても良く慕ってくれていた。
『私ね、将来はドゥリンのお嫁さんになるの!』
笑顔でそう言ったあの日のモニカのことはよく覚えてる。
俺もモニカの事が好きだったし、彼女と一緒になれれば嬉しいってそう思ってたんだ。
少なくともあのころまでは……
小さい頃の俺は村のみんなと変わらない背格好をしていた。
だが明確な違いが表れ始めたのは、俺が十二歳になる頃だった。
どういうわけか俺は背がほとんど伸びなくなり、ずん胴な体型にアンバランスな短い脚。
さらに成人もまだだというのに立派なひげまで生え始めたのだ。
明らかに異質な俺の姿に周囲の子供は気味悪がった。
ずいぶんと悪口を言われたり、暴力を振るわれたことも覚えてる。
けど、モニカだけはそんな俺にも優しくしてくれた。
あの村で俺に優しくしてくれたのは彼女だけだったのだ。
だから教会で〈神託の予言〉が下されて、モニカと俺が勇者のパーティーに選ばれた時は嬉しかった。
〈聖女〉という強力なクラスを貰ったモニカと違って、俺のクラスは〈荷物持ち〉というありふれたものだったけど、それでも彼女のため、世界を救うために今日まで頑張ってきたんだ。
そのモニカなら俺がちゃんとパーティーの役に立ってるって、分かってくれてると思ってたんだけど……
リアージュはモニカの肩に手を回し、その身体を抱き寄せて言った。
「はあ。『あなたのため』ね。なあモニカ。そろそろドゥリンに本当の事を言ってあげたらいいんじゃないかな?」
勇者に抱きかかえられたモニカは顔を赤くしてトロンとした目つきになっていた。
彼女は俺に、こんな顔はいままで一度も見せたことがなかったのだ。
「そうね。もう最後なんだし言っておかないとね。ねえドゥリン、私、実はすごく後悔していることがあるの」
「そ、それは……?」
「あなたに一度でもお嫁さんになりたいだなんて言った事よ。今思い出しただけでも身の毛がよだつわ。私はなんて愚かだったのかしら。あなたみたいな醜い男にあんなことを言うなんて。本当に後悔してる。あなたもなんだか勘違いしてその気になってるみたいだし、本当に迷惑なのよね」
「モニカ、お、俺のことそんなふうに思っていたなんて……」
「少し考えればわかるだろうドゥリン君。清らかで気高いモニカのような素晴らしい女性が、君のような醜い、底辺職の男に心惹かれると思うかい? 勝手な妄想で好意を向けられて、彼女はずいぶん迷惑しているようだよ?」
「……そうですね。本当にドゥリンのことはずっとうっとおしいと思っていました。でも私はこのパーティーに入って真実に目覚めたんです。私が本当に愛していたのは誰だったかってことにです」
「へえ……それは興味があるな。言ってみてよモニカ。君が本当に愛しているのは誰なのかを」
「はい。私が愛しているのはリアージュ様、ただ一人ですわ」
「ふふっ、嬉しいよモニカ。僕も君が好きだよ。よく言えたね。ご褒美をあげようか」
見つめ合うリアージュとモニカ。
二人の唇が近づいていく……淫靡な水音があたりに響いていた。
「はあはあ。ねえリアージュ様、もっとしてください」
「いいよ。ほら僕の膝の上においで。いっぱい可愛がってあげよう」
「嬉しい……勇者様……」
もはや俺が知っていた清楚な彼女の姿はどこにもなかった。
勇者の膝の上に乗るモニカ。彼女の艶やかな髪を勇者の手が撫でる。
そのたびにモニカは気持ちよさそうに身体をビクンと震わせて、リアージュにしなだれかかるのだった。
それを見ていた賢者ミネルバが勇者に抗議するように言った。
「ああん、勇者様。モニカばっかりずるいよ。私もさっきからして欲しかったのに」
「やれやれ。ミネルバ、宿まで待てないのかい?」
「駄目。ここでして欲しいの」
「仕方ないなあ。ほら……」
俺などいないかのようにみだらな行為に耽る勇者とミネルバ、そしてモニカ。
俺は目の前の惨状に、もはや嫉妬の心も湧かなかった。
どうしてこんなことになったんだろう。
俺とリアージュは同じ人間なのになんでこうも差があるのか……
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