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一日の終わりにご飯を食べるということ

作者: みれい

 「米を研ぐ」と言うけれど、本当に研いでいるわけではなく、しっかり擦り洗うといった感じだ。研ぐと言えば、包丁を砥ぐ時に使う「砥ぐ」と、米を研ぐ時に使う「研ぐ」って、違う文字だよなあ、何が違うんだろう。そう思いながら米を研いだ。


 実家から送られてくる米は、スーパーで売っているそれとは違って、しっかり研がないといけない感じがする。売ってるのはなんとなくサラサラした感じだけど、実家のはしっかりしていて、大地により近い気がする。米研ぎ用のボウルに入れて、水を張り、最初はゴミ等を落とすために軽くかき混ぜてすぐに水を捨てる。それから、研ぐ。力を入れて、掌の分厚いところで、押し付けるように。


普段は休日にまとめて炊いておいて、冷凍している。今日はたまたま冷凍ご飯がなかったことと、少し時間があったので、平日だけど炊くことにした。とりあえず今日と明日だけの分だから、2合もあれば十分だろう。残りはまた週末に炊けばよい。冷凍すればそれなりに風味を保てるとは言え、やはり炊きたてのほうが美味しいし、保温すると熱が変に加わるのか乾燥するのか分からないけど、風味が損なわれてしまう。


研いだ米を炊飯器に移して水を入れ、スイッチを入れた。ご飯が炊けるまでにおかずを作ろう。炊きたてご飯に合うおかず、何がいいだろうか。今日はぼんやりと帰ってきてなんとなくご飯を作り出したので、具体的に食べたいものがあるわけではないし、買ってきたものがあるわけでもない。いつも冷蔵庫や収納庫に入っているもので作らねばならない。


 冷蔵庫を覗く。卵と目が合う。卵は一人暮らしを始めてから欠かしたことがない気がする。近頃すこし高くなったけれど、それでもまだまだ安価だし、色んな料理やお菓子に使えるのでやっぱり優等生だ。炊きたてのご飯に卵と言えば、つい卵かけご飯を連想してしまう。あれはとても美味しいものだ。ご飯と、卵と、醤油。それ以外にも、例えばごま油だとか鰹節とかを加えてもいいけれど、それだけで十分おいしい。素材の美味しさを味わうっていうのは、ああいう食べ物のことだと思う。


でも今日は違うものにしよう。となれば、次に食べたいのは卵焼きだ。卵焼きにも色々あって、関東は甘くすることが多いし、関西は出汁巻きが多いようだし、オムレツも卵焼きの範疇だろうか。さて今日は……ふと大根が残っていることに気づいたので、ふわふわした出汁巻きに、大根おろしを載せて食べることに決めた。決めたのだ。


 ボウルに卵を割り入れる。2つ、いや3つにしよう。3つの卵をかき混ぜて1つにする。白身は箸でしっかり切る。出汁は、ごく普通の白出汁だ。別に高級なものでも自家製でもなんでもない、ボトルに入ってる市販品。濃くなりすぎないよう注意して入れて、少し水も加えて混ぜて味を見る。それっぽい味になったので、卵焼き器を火にかけて温め、油を引いた。卵のついた箸で卵焼き器に線を引く。心地よい音と、白く引かれた卵のライン。適温だろう、卵を少しずつ流し込む。少し流し入れては寄せ、また流し入れる。繰り返して全部が入った頃、まとめつつ全体を転がして形を整えていく。今日はお弁当に入れるようなしっかりした卵焼きではなく、箸で切れば崩れてしまうくらいふわふわがよいので、早々に火から下ろして四角いお皿に移した。


 次に大根を下ろす。おろし金は銅で出来たものを実家から持ってきている。それなりに目が細ければ何だっていいのだけど、使い慣れたものが一番だ。そんなに沢山は必要ないけれど、と思いながらも、つい多めになってしまう。卵焼きに載せて食べるつもりだけど、余ればご飯に直接載せて、鰹節と醤油をかけていただけばいい。それだけでも十分ぜいたくな感じがする。

ご飯と、卵焼きと、大根おろし。あとは、汁物。味噌汁がいい。それはそうなのだけど、今から出汁を取って具材を用意して煮て味噌を加えるのは手間だ。何よりお腹が空いているし、もう少ししたらご飯が炊きあがってしまう。今日はもう閉店、あとは食べて寝るだけがいい。そう自分に言い訳しつつ収納庫を探ると、フリーズドライの味噌汁があった。四角いキューブ状の味噌汁は、一人暮らしには少し高いけれど大変便利である。しかも美味しい。何なら自分で作るより美味しいかもしれない。見つけたのはただの味噌汁ではなく豚汁だったので、ちょっとテンションが上がってしまった。


 テレビとパソコンを一度に見られるコタツ兼テーブルに茶碗と箸を並べる。味噌汁の封を切ってお椀に入れてポットのお湯を注ぎ、かき混ぜるといい香りがしてきた。キッチンから卵焼きと大根おろしも運んできて、冷蔵庫から醤油を出したところで炊飯器が鳴った。いよいよ夕飯である。くっつかない触れ込みなのに何故かくっつく杓文字でご飯を底からかき混ぜて、茶碗によそう。これで完成だ。


 卵焼きに大根おろしを載せて、醤油をかける。我が家の醤油は四国の出汁醤油と決まっていて、これも実家で馴染みの味だ。普通の醤油も料理に使うので置いてあるけど、ついこちらを選んでしまいがちだ。出汁の効いた柔らかな味。卵焼きを一切れ、大根おろしごとご飯に載せてから口にする。期待通りの柔らかさと出汁の旨みと大根の爽やかさ。これは贅沢だろう。そのまま、出汁醤油や大根の付いたご飯も口にする。大変美味である。豚汁をすすりながら、次の卵焼きを口に運ぶ。卵の黄色は幸せな色だと思うが、美味しさと共に幸せも運んでくれているようだ。


 ご飯、卵焼き、豚汁。これだけでもう完成じゃないだろうか。テレビに出ている料理の先生が、ご飯と味噌汁だけでいいんですよ、もう一品あれば贅沢ですよ、みたいなことを言っていた気がするが、本当にそうだと思う。気合を入れてがっつり料理したりすることもあるけれど、毎日食べるものならこれでいいんだと思う。日本にはハレとケという文化があるが、一年のほとんどは後者である。そういった日々の地道な暮らしがハレの日を支えてくれ、引き立たせてくれるんだろう。


 まあ、私の地道な日々を彩ってくれる何かが、そろそろ訪れてもいいんじゃないかと思ったりもするけど。そう思いながら炊き立てご飯をお代わりして、大根おろしを載せた。


書いててお腹が空きました。

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