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第71話後半 おじさんは多分楽には死ねない

「えーと、もしかして色欲の悪魔の一族、かな……?」


ガナーシャのその言葉にアキはパッと顔を上げる。


「もう気付いてくれたんですか!? 流石ガナーシャさん! そう、ワタシは色欲族の一人。ああ、偽名じゃないですよ。アキはアキだから」


アキはガナーシャに自分の身体をこすりつけるようにしなだれかかる。

その肌の色はいつの間にか青みを僅かに帯びた浅黒い肌に変わっており、更にそれでもなお、いや、それだからこそというべきかアキの魅力的な体、そこには黒い刻印が妖しく纏わりついていた。

赤い瞳に浅黒い肌、そして、黒の刻印。全てが悪魔族の特徴に一致する。

ガナーシャは、突き刺さる爪に顔を顰めながらアキに問いかける。


「僕を自分のものにしたいって言うのは?」

「ふふ、分かっているくせに~。悪魔族は、自分の地位を高めたい。そのために、強い力を欲してるんです」

「僕、弱いけど?」


ガナーシャのその言葉にアキはおかしそうに笑う。

その揺れが、ガナーシャに柔らかい感触と痛みを増幅させてガナーシャは曖昧に笑う。


「そう。ガナーシャさんは弱い。だけど、悪魔族の世界では有名なんですよ。あの【巡り】に未来を奪われておいて未だに生きている人間がいるって。どの悪魔の一族も興味津々で探していたのに全然見つからないと思ったら……」


ガナーシャは心からの苦笑いを浮かべてもじゃもじゃ頭を掻こうして抱きしめられて掻けないことに気づき、ただただアキを見る。


「まあ、君達は魔力で人を見分けるからね。僕は見つけられないよね。弱いもの」

「まさか、こんなに弱い人だとは思いませんでしたからね。しかも、何故か【巡り】までアナタを守ろうとしている。アナタはアナタで色んな功績、痕跡を隠すのが本当に上手くて。ワタシはとっても幸運でした。ただの幸運で出会えたんだもの!」

「【巡り】が? 手助けを?」


ガナーシャが驚いて目を見開くと、アキはしてやったりという顔で爪を使って身体を抉る。


「うぐ」

「気付いてなかったんですかあ? 【巡り】が、人々の中にあるアナタの記憶を薄れさせていたんです。貴方の未来を奪う為に」

「そっ、か……こりゃ【巡り】に感謝だね……」

「ええ、本当に感謝です。お陰でアナタを手に入れられるんですから。悪魔族の誰もが狙うアナタを」


アキが上唇をぺろりと舐める。艶やかな唇がより妖しさを演出している。

ガナーシャはそんな色気溢れるアキの顔をじっと見つめる。その瞳は昏く静か。


「【巡り】を出し抜くつもり?」

「まさか。ワタシ達は互いの欲しいものが重ならなければ面倒なことはしないんですよ。【巡り】はガナーシャさんがどんなに苦難に陥っても生き続けている未来が見たいだけ。ワタシはそんなガナーシャさんに苦労をさせるだけ。お互いにとって利があるんですよ」

「僕にないけど」

「じゃあ、ワタシの身体を好きにさせてあげます♪」

「いやあ、あははは。アキさんの身体は魅力的だけど、遠慮しておく、ねっ……!」


ガナーシャは、身もだえするような動きを見せたかと思うと、アキの爪、抱きしめている腕、そしてガナーシャの足の裏に〈潤滑〉をかけ、アキの指と肘に〈弱化〉。ずるりとへたりこむように抜け出し、這いずって距離を取る。

その様子をアキはうっとりした目で頬を染めてみている。


「あはあ……ガナーシャさん、大変です。ワタシ達は、ガナーシャさんのその一生懸命な姿を見るだけで発情しちゃいます……!」

「なんで!?」

「それもわかっているくせに……悪魔族は、魔力を求める。魔力は、心。ガナーシャさんの心は見たことないくらい歪でおっきくて強い……!」


アキが体中から霧のような魔力を漂わせる。


「これは……香り?」

「色欲の香り……人の魔力をおかしくさせる色欲族の魔術。本当はガナーシャさんをおかしくさせたいんだけど、無理だろうから。街の人間をみんなちょっと魅了しちゃうね」


ガナーシャのまとう空気が変わる。怒りではない。

ただ、アキを『判断』しようとしている冷たい空気。普段からは考えられないほどの静かで冷たい声がガナーシャの口からこぼれる。


「人質のつもり?」

「あーもう、ガナーシャさんは最高です! すぐにワタシの言いたいことを読み取ってくれるじゃないですか!」

「僕が逃げると言ったら?」

「まあ、その可能性もありますよねえ。でも、いいんですか? 多分ワタシに付くのが一番まともですよ。他が狙い始めたら楽な死に方選べませんよ。それに、逃げようとしてもムダ。そっちも手を打っているんで」


アキが両手を天に向かってあげると、黒い光がふわりとアキの周りを舞う。

その光はじんわりとぼやけたかと思うとガナーシャの身体にこびりつき、文字を浮かび上がらせる。


「これは……呪い?」

「ふふふ! ガナーシャさんが肌を出しているところはくまなく触りましたからね。ワタシ。ほらあ、いっぱいいっぱいガナーシャさんに触ったでしょ。手も握ったし、抱きしめたし、眼鏡も貸してあげた。あれは全部、呪い。アナタを手に入れるための呪いなの」


ガナーシャの肌が現れている部分はほとんど黒い文字が浮かび上がっていた。

アキが幸せそうに笑いかけると、ガナーシャは微笑を返す。


「だよね」

「え?」

「やっぱりねえ。そうだと思ってたんだ。僕なんかにあんなにアプローチしてくるはずないって。それに、色々動きが不自然だったし」

「え? 気づいてたの……?」

「うん」


ガナーシャの淡々とした物言いにアキが呆気にとられている。


「気付いて何もしなかったってことお!?」

「いや、してたよ」

「はああ!?」

「君が呪いをかけようとするたびに僕もかけてたんだ。君に呪いを」


ガナーシャがこきりと指を鳴らすと、今度はアキの体中に黒く光る文字が浮かび上がる。

特にガナーシャを触っていただろう手にはもう隙間も見えないほどに黒く輝いていた。


「僕の魔力は弱いからね。すぐに分かるんだよね。強い何かが僕の身体に干渉しようとすると。逆に強いアキさんは気付けなかったみたいだね」


ガナーシャは天を仰ぎながら頭を掻く。

その苦笑いは弱者の嫉妬にも見えるが、ガナーシャの余裕は強者への嘲りにも見える。

それを感じたアキは少し苛立ち交じりの笑みを浮かべガナーシャに向かって叫ぶ。


「悪魔に呪いをかけようだなんて……馬鹿なガナーシャさん! それで勝てると思っているの⁉」

「いや、思ってないよ」


ガナーシャの穏やかな一言が、アキの眉間に刻まれた皺を奪う。


「へ?」

「だから、いっぱい罠を仕掛けておいた」


アキの口がふさがらず妖しく輝いている唇が滑稽にも見える。


「は?」

「街中至る所に罠を張ってある。ああ、大丈夫だよ【青の魔女】特製の魔導具だから、僕の魔力でしか発動できない優秀な罠だよ。それに色欲と予想はついていたからね。魅了対策もばっちりだよ」


アキの身体から力が抜け切り、魅力的な身体から漂う色気も感じられなくなってしまう。

そして、慌ててアキは、街全体に探知をかける。

詳細が分かるわけではない。

だが、間違いなくこの街の至る所に罠が仕掛けられている。


「ま、ま、ま、街全体に罠を!? アンタばかぁああ!?」

「そう、僕は馬鹿で臆病なんだ」


アキの周りに浮かぶ黒い光が子供だましに見えるほど、アキの周り、いや、アキのいる町全体にガナーシャのいやがらせが溢れており、アキは膝から崩れ落ちる。


「そ、そんな……」

「結界も張ってある。逃げる事も出来ないよ。ああ、結界は知り合いに頼んで張ってもらってる。僕たちが王都に行く間守って欲しいと頼んでいたんだ」

「む、無茶苦茶よ……狂人だわ……」

「出来るだけ傷つけたくないんだ。君には手伝ってほしいことがあるから」


ガナーシャの言っていることの意味は分からない。

だが、何かをさせるつもりだ。こんなバカなことをやるおじさんの考える事なんて絶対ろくなもんじゃないとアキは顔を顰める。


「いやだと言ったら?」

「その時は仕方ないね。僕一人でなんとかする」


僕一人で。

そこに込められた意味がガナーシャの瞳から伝わりアキはぞっとする。

ガナーシャは死なない。自分と自分の周りを脅かす可能性を徹底的に排除する。

その可能性が敵の命であればそれも排除する。

今、アキは守る対象に入れていないと自覚した。

両手を挙げて、心から慈悲を乞う顔をガナーシャに向ける。


「降参ですよ! 降参! それで……ワタシは何をさせられるんですか?」

「うん、僕と一緒に戦ってくれないかな?」

「一緒に? 誰と?」


その瞬間だった。

バリンと何枚も重ねられたガラスが割れるような音が天から聞こえる。

そして、同時に落雷のような轟音と、地面が揺れる感覚。

間近に落ちたソレにアキが驚くが、ガナーシャは眉ひとつ動かさずじっと見つめている。


それは一人の少女だった。


「ちょっと、待って……あれって」

「ふふふ、ガナーシャさん、久しぶり。あーそぼ☆」

「魔王じゃないですかああああ!」


アキの絶叫に二人は応えることなく見つめ合う。


「やあ、リン。久しぶり。前は殺されかけて大変だったよ」

「ふふ、ガナーシャさんが大好きだから思いきりやっちゃった」


アキは冒険者ギルドの受付嬢の時はおなじみだった涙目でガナーシャを見つめていた。

魔王と呼ばれた少女は、リンと呼ばれた少女は楽しそうにわらっていた。


「だって、だって、わたしは死んでもガナーシャさんの事が忘れられなかったくらいだもん」


わらっていた、しあわせそうに。


「だいすきだから」

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