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第71話前半 おじさんは多分楽には死ねない

「んー! いい朝ぁあああ!」


ギルドの人気受付嬢、アキは窓を開けて外の空気を思い切り吸い込むと笑った。

今日は、あの男が帰ってくる。

ずっとずっと待っていた。

王都でもあの男のパーティーは活躍して、いくつもの依頼を王家から直接され、足止めを喰らっていたらしい。

流石英雄候補達。

そして、あの男。


「もー待ちくたびれたよー! 早く会いたいなあ!」


アキは、手早く朝食を終え、大きな独り言を呟きながらギルドに向かう準備を整える。


「もう絶対に逃がさないんだから! 今日こそワタシの猛アタックでガナーシャさんを、ワタシのものに……! ふ、ふふふ!」


あの男さえ思わず見てしまう豊満な胸を自分で揺らしにやりと笑う。

そんな自分の顔が鏡に映っている事に気付き、顔を引き締める。


「いけないいけない、ワタシは、タナゴロ冒険者ギルド人気の受付嬢アキ。きっと今日こそガナーシャさんを手にいれるのよ!」


誰にも届いていないであろうその決意を告げるとアキは扉を開ける。


「じゃあ、いってきま~す」


楽しそうに返事を返す人ももういない家の中にそう告げ、アキは飛び出して行った。


「アキちゃん、おはよう!」

「アキちゃんは今日もかわいいねえ」

「アキ! 今度、俺と出かけようぜ」


街の人々がアキに向かって笑顔で話しかけてくる。時折、視線がアキの顔より下に向いているがアキは気にせず笑顔で応える。


「はいはーい! おはようございまーす! みなさんも今日も一日頑張りましょうねー! 依頼があったら冒険者ギルドまで~。ムキムキの冒険者さん達が応えてくれますよ~!」


デートを誘った若者が顔をひくつかせるのを笑い、アキは上機嫌でステップを踏んで冒険者ギルドへ向かう。


アキがタナゴロに来て、それなりの時間が経った。知らない人間はいないし、多くの人と仲良くなれた。アキはタナゴロが大好きだった。


(それに、運命の人にも会えちゃったしなー!)


アキは、あのおじさんを思い浮かべる。

彼こそがアキの待ち望んでいた人間だった。


「あ!」


冒険者ギルドの手前でもじゃもじゃ赤茶髪のおじさんを見つける。

彼を思っている時に彼に出会える。これはもう運命ではないだろうかとアキはわらう。

そして、小走りで近づいていく。


「ガナーシャさ~ん!」


おじさんは振り返ると微笑み、そして、少し視線を下げぎょっと驚くと顔を赤くして視線を外す。


(ふふふ、使える武器は全て使って落としてみせる! 今日こそが勝負の時よ! アキ!)


アキはそう自分に良い聞かせながら、ガナーシャを困惑させる大きな武器でガナーシャの腕を包み込んだ。


「あ、アキさん! その!」

「うふふ、なんです? ガナーシャさん?」

「その、一旦離れませんか? その、周りの視線が」


ガナーシャが困り笑顔でそう告げる。アキは勿論気付いている。周りにアキに好意、もしくは、性欲を持っている男達がいて、今、ガナーシャを恨みがましく見ていることを。

それは、アキの策略だった。


「じゃあ! 今夜食事に付き合ってくれるなら離れてあげます! どうですか? ねえ、どうですかあ?」

「わ、分かった! 分かりましたから! 離れてください!」

「え?」


アキが驚いて力を抜くと、するりとガナーシャは離れ、顔も耳も真っ赤にしたまま俯き、もじゃもじゃ頭を掻いている。


「え? え? え? いいんですか?」

「え、ええ……その、ちょっとアキさんに話しておきたいことがありまして……ちょっと僕だけ先に帰ってきたんです」


(え? え? ええええええええ!?)


アキは心の中で絶叫しながら喜びに震える。

あの英雄候補達もいない二人きりの食事。

それはアキの頬を緩ませ、


(おっといけない涎が)


慌ててアキは淑女の微笑みを作る。


「じゃ、じゃあ、お店は……」

「あ、僕が決めておきますよ。一応しっかりした店を探しておいたので」


ガナーシャの優しい声にアキは膝をつく。


「ぐふっ!」

「ちょっと! アキさん?!」

「今、ワタシ、子どもを授かったかもしれません」

「なんでですか!」


そんなやりとりをしたアキはその後の仕事も絶好調で天使の笑顔で冒険者を癒した午前中、そして、午後は悪魔のような表情で全てのやるべきことを時間内に終わらせ飛び出した。


その後は、アキにとって最高の時間だった。

ガナーシャの選んだ店はアキの行きたかったお店だったし、料理も美味しく、酒も進んだ。

ガナーシャも王都で何かあったのか、いつもよりも饒舌で楽しそうだった。


その帰り道、アキは決めていた。

自分の全てを曝け出すと。そして、ガナーシャをものにすると。


その為に人目につかない道へと誘導した。


前を進むガナーシャを、頬を桃色に染めたアキはちらりと見る。

そして、気付かれぬよう、服の前を開けてガナーシャへと駆け出し、振り返ったガナーシャに抱きつく。


「あ、アキさん!? 前! 前が……!」

「ガナーシャさん、ワタシ、ガナーシャさんが欲しいんです」


ガナーシャはアキにとって理想の男だった。

他の美女や美少女の誘惑にも耐える程の誠実さ。

時折垣間見えるやさしさやさりげない気遣い。

弱いと誰もが言うが、英雄候補達が慕う程の魅力。

そのどれもがアキを魅了した。


「ほ、欲しいって」

「ガナーシャさん、今夜、ワタシと……契約して♪」


ずぶりとアキの伸ばした真っ赤な爪がガナーシャの背中に、突き刺さった。


「ぐ……!」


苦悶の表情を浮かべるガナーシャを見て、アキは涎を垂らす。


「性格も良くて、強い人間を従えるニンゲン。ワタシ、そんなアナタが欲しいの……」


アキは蕩けた瞳でガナーシャを見つめ続けた。悪魔のような、いや、悪魔の真っ赤な瞳で。

お読みくださりありがとうございます。

最終章です。5話で終わりますが、時間が足りず、前後編に分けることが多いかもしれません。

最終話まで読んでからでも良いのでこの作品がどうだったか☆評価や感想頂けると今後の作品作りの反省・また書くパワーになりますので是非!


また、作者お気に入り登録もよければ!

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― 新着の感想 ―
[一言] よくよく考えるとアキは見る目がありますよね 相当早い段階でガナーシャに目を付けたわけで
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