表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/109

第70話 可憐毒舌聖女も命はなおせない

「ねえねえ、お父さんお父さん」

「ねえ、ちょっと、ニナ。ガナーシャに甘えすぎじゃない?」

「全くだ。だらしねえぞ。最近」


サファイアの依頼を受けて王都から少し離れた丘にやってきたリア達だったが今日はずっとがやがやと騒がしく、ガナーシャの脚を痛くさせた。

リアとケンの指摘に、ニナはニコニコと微笑みながらガナーシャに抱きつき口を開く。


「二人も、『ニナの』お父さんに甘えたらいいじゃないですか」


ニナのその物言いにリアもケンも目を見開いて口をぱくぱくさせる。


「な、なんでよ! ななななんでよお!」

「け! しねーよ! そんなこと! ぼくは、ぼくは、ばくは! 爆発させんぞ! こらあ!」

「きゃーこわーい。おとうさ~ん」


ニナの棒読みにガナーシャはため息交じりに頭をこつんと小突く。


「こら、ニナ。我儘を言わない。あと、お父さん呼びは時と場所を考えるようにと言ったでしょ」

「ふふ、は~い。怒られちゃいました」


舌を出しながら駆け寄ってくるニナを見てリアとケンは溜息を吐く。


「……嬉しそうなんだけど」

「そんな顔でいう事か。ったく」


リア達が王都を去る前に受けた依頼は『大型魔獣の撃退』だった。

王都の西にある丘に家程の大きさの大型魔獣が現れるという事でサファイアに命じられたのだ。


『リア、ケン、そして、ニナ。修行だ。倒してこい。ガナーシャ、子守り』


と、有無を言わさず行かされた。

シーファも行きたがっていたが大事な商談があることと三人の修行にならないからとサファイアに却下されたことでハンカチを噛みながら見送っていた。


「さて、と……話によると大分魔力を消すのがうまいみたいだから」

「ふふ、わたしが探しますよ」


そう言ってニナは翼を生やし空へと飛び上がる。

親子の誓いのあと、すぐに翼の事は二人に話した。リアは素直に物語の様だと感動し、ケンは便利でいいなと羨ましがった。その二人を見て、ニナは嬉しそうに笑った。

まだ長時間生やすことは難しくその修行も兼ねてニナは積極的に飛ぶようにしていた。


ニナは上空を旋回し辺りを探すが見当たらない。仕方なくガナーシャ達の所に降り立ち報告する。


「見当たりませんでしたね。すみません、役に立てず」

「いや、十分だよ。ニナ。空から見ても見つからないのなら元々隠れること自体が得意な魔物の変異種かもしれない。例えば……! 危ない!」


ガナーシャは咄嗟に何かに気付きリア達を突き飛ばす。ガナーシャは突如現れた棘のようなものがびっしりとついた舌に右腕を貫かれ顔を歪める。


そこに現れたのは、一匹の馬と地竜を混ぜたような姿だった。


「なるほど、変色竜の変異種か……道理で」


変色竜。

魔力を最も巧みに操ることのできる魔物の一匹にあげられる魔物で、魔力を変化させ周囲の色に馴染ませることが出来る。厄介なのが〈魔力探知〉でも見つけにくい程その環境に魔力までも馴染ませることが出来る点だ。しかも、本来変色竜は、大きければ大きい程周囲と馴染ませにくく見えやすくなるため、他の魔物にも狩られる。

だが、先ほど見えた変色竜の大きさは足だけでもガナーシャの1.5倍ほどの高さがあった。

とんでもない大型の変色竜だった。


(もしかしたら、白銀を飲み込んだのか……)


ユアンの研究によって、ブレイドの身体には異常な魔力が含まれており、もしかしたら、他の白銀の肉を食べれば魔物は異常成長するかもしれないということが明らかになっていた。

この変色竜もそうかもしれないと考えながら、周りを見渡す。

すると、ニナが……不動の微笑みを浮かべていた。


「ガナーシャさんを傷つけたな、くそ竜如きが……」


そう呟くとニナは白くバチバチと弾ける魔力を手に漲らせる。


「ニナ!」

「大丈夫です……! ちゃんと見えています。邪なる者を白き雷で貫け〈白雷〉」


ニナが地面に手をつくと白い雷が周囲に走るが、生えている植物やリア達を焼くことなくすり抜け、そして、ガナーシャ達の右後方から悲鳴が上がる。


「ギャアアアア!」


そこに浮かぶ影をガナーシャは見逃さず、〈弱化〉の魔法を無数に放つ。

〈弱化〉により魔力の巡りが滞った変色竜は、部分的にではあるが姿を見せる。

すかさず。リアとケンが見えた部分へと攻撃を加えに走る。

ニナの補助魔法が二人を速く強くさせ、足に張り付いた鱗を砕きながら傷をつける。

その傷にガナーシャが何度も何度も〈嫌悪〉を叩きこむ。


「グギャアアアア!」


痛みとその痛みによって生まれた怒りを〈嫌悪〉で増幅されたことで我を忘れた変色竜が姿を現す。気持ちの悪い七色に輝く鱗を身に纏いながら不機嫌そうにこちらを睨む。


「ガナーシャさん! わたしが! 補助をお願いします!」

「ああ!」


歪な翼で飛び立つニナの背中を見ながらガナーシャは指を動かす。


〈魔力探知〉によってニナの翼の黒い魔力の流れを読み取り、不自然に膨れ上がってしまっている所を〈潤滑〉や〈弱化〉で綺麗に巡るように調整していく。

これによってニナの翼が最も良い状態で長く出し続けられるようになっていた。


大型の変色竜を前に、ニナは軽やかに飛び回る。それでもガナーシャならなんとかしてくれると信頼を置いて全力で。


変色竜は、飛び回るニナに振り回されどんどんと意識を持っていかれる。

だから、足元の二人には気づかない。


「ねえ、こっちにもいるんだけど……こっち見なさいよ! ばかあ!」


どす黒い瞳で変色竜を見つめるリアは、赤黒い魔力で出来た軽鎧を衣の上から纏っていた。そして、掌から三角錐の赤黒の魔力の塊を生み出す。


「〈魔星〉」


魔星と呼んだ魔力の塊を変色竜の足にどんどんと突き刺し、それを足場にしてリアは変色竜の身体を軽々と駆けあがって行く。そして、そのまま跳び上がり、変色竜の背中の上に来ると、無数の魔星を浮かび上がらせる。


「喰らって地に堕ちなさい〈魔星雨〉」


その名の如く前のように降り注ぐ赤黒い魔力が背中に突き刺さって行く。そして、突き刺さる度に魔星は変色竜の身体に沁み込みその部分を鉄のように重くさせ身体を沈ませる。

焼き付く痛みと重みに耐えかねて変色竜が叫ぶ。

そして、背中に乗ったリアを払おうと尻尾で狙うが、それを阻む剣士が一人。


「やれやれ……こっち見なさいよって誰に言ってんだか」


リアに言うでもなくぼそりを零した言葉。

その言葉をかき消すように迫る尻尾をケンは切り裂く。


「ち……全部は無理だったか。修行が足りねえ、なあ!」


冷静に半分ほど斬れた尻尾を見つめながらケンは呟く。だが、それを悲観するでもなく、ケンは態勢を低くし履いていた靴に潤滑性のある魔力を纏わせ滑りながら変色竜の身体を切り裂いていく。リアの魔法が効いてる範囲を素早く見極め、その傍に傷口を作る。すると、ケンに付けられた小さな傷口が、リアの魔法で重くなった皮膚に引っ張られどんどん大きく裂けていく。

今まで感じたことのない痛みに変色竜が悲鳴を上げながら鱗を逆立たせ、必死に氷の魔法を行使しようと魔力を漲らせる。


「しまった!」

「ちい!」


尻尾や顔、足だけが攻撃手段だと思っていたリア達は予想外の攻撃に慌てて防御の構えを取る。変色竜の身体に無数の氷の棘が生えていく。魔星とぶつかりあうと蒸気を上げて霧が生まれていく。

背中に刺さっていた魔力と暴れていた二人が消えたと嗤う変色竜だったが、次の瞬間すぐに顔を歪める。


「「油断してんじゃないわよ(ねーよ)」」


リアとケンは白の魔力に包まれ無傷の状態に戻って全力の赤黒い槍と魔力によって少しだけ伸びた剣を突き刺していた。

その二人の元に降り立ったのは不動の微笑を浮かべる聖女。

二人を回復させながら歪な翼を刃のように鋭く尖らせていく。


「お前はわたしの家族を傷つけた。そして、多くの命を奪ってきた罪を償いなさい。〈白断〉」


二つの刃がニナと、補助するガナーシャによって振り下ろされる。

変色竜は悲鳴も上げることなく三つに切り裂かれる。


「あなたの次の生が良き道であることを祈ります……」


ニナはそう呟きながら手を組み祈りを捧げる。


「って、あら?」

「ねえ、ちょっとこれ倒れてない?」

「言ってる場合か倒れるぞって、おい! うわああ!」


先程霧が生まれたせいもあり足元がぬかるみ勢いよく変色竜が転がり、ニナ達も落ちていく。ばちゃという音を立てて跳ねる泥をかぶりガナーシャも泥まみれに。


「ニナ! リア! ケン!」


ガナーシャが心配そうに叫び、近づこうと駆け寄って行くと、三人が泥まみれで帰ってくる。

誰のせいだと言い合いをしながらこっちに返ってくるリアとケン。それを見て楽しそうに泥だらけで笑うニナ。

ガナーシャの心配した顔を見ると大丈夫だとニナは元気に手を振ってくる。


その姿にガナーシャはいつも以上にほっとする。

みんなが死なないという事は分かっていた。みんなはもう十分に強いから。

そして、ガナーシャの頭の中で山のように積まれた経験と予測で分かっていた。

だけど、いつもより安堵と生きている喜びに満ちている自分に気付き、苦笑いを浮かべ頭を掻く。


「これからもっと足が痛くなりそうだ……」


そんな事を言いながら、ガナーシャは嬉しそうに笑い、子どもたちを出迎えた。






『アシナガさんへ』


『これはアシナガさんへ送ったものです』


『お父さんが出来ました。本当のお父さんです。前にいたお父さんは血のつながったお父さんではありましたが、本当のお父さんではなかったように思います』


『お父さんは怒ってくれます。わたしが良くないことをしたら怒ってくれます。ニナが大切なんだよって怖がらずに怒ってくれます』


『いえ』


『怖くても怒ってくれます。大切だから』


『最近、分かった事があります』


『死にたくないです』


『みんなと離れ離れになりたくないというのも勿論あるけど、あのくそばか白の英雄候補の馬鹿なざまを見て、思ったんです。わたしが今此処にいるのはわたしだけのおかげじゃないって。色んな人の力や助け、そして、犠牲があって生きているんだって』


『だったら、無駄にしちゃいけないなって。わたしは聖女だけど誰も生き返らせることは出来ないから』


『お父さんに思ってました。わたしなんか助けなくていいのにって』


『でも、わたしを助けてくれたお父さん、そのお父さんを今まで助けてくれた人や、お父さんのお父さんやお母さん、そのお父さんやお母さんのお父さんのお母さん。多分、いっぱいの人がいっぱい生きてくれていたから、わたしの命があると思うから』


『その人たちにいっぱい生きました。ありがとうって言えるくらい生きたいです。そして、受け継いでいきたいです』


『もしお父さんが死んでしまったとしても』


『わたしがお父さんの意志を、心を繋いでいきますから』


『いっぱいいっぱいお話してください。思っていることも伝えたいことも』


『これからは絶対に自分だけ犠牲になればいいと思わないから、お父さんも絶対思わないで』


『きっと今あるわたしの命もお父さんの命もきっと誰かがずっと繋いできてくれた命だから』


『色んな犠牲の上で多分わたしたちは生きているのだから』


『わたしはわたしの命を無駄にしない』


『それが命をすくうということだと思うから』


『だから』


『ガナーシャさんも』


『いえ』


『お父さんも』


『簡単には死なせてあげませんからね』


『一緒に生きてね』


『って、アシナガさんから厳しく厳しくお父さんに伝えておいてください』



『ニナより』





命をすくう聖女編 完


ニナ編完結! よければ、ここまで読んでのものでいいので☆評価して頂けると嬉しいです。


アシナガおじさん一旦完結まで+5話! 予定! 明日一日お休みして火曜から完結まで連続更新します!

よければ、最後までお付き合いよろしくお願いします。


GW集中連載! そして、コンテスト用短編! だぶんぐる風テンプレマシマシキガルニヨメルハイファン! よければ読んでみてください! 気楽に読めます!


『自律思考型ゴーレム【エーアイ】が指示するからスキル無しはもういらない』と追放された無能力参謀は勝手についてきた相棒の女将軍とその軍団と一緒に最強の村作り。あの、無能力だけど無能じゃないんですが?

https://ncode.syosetu.com/n1063if/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 驚きの急展開 ニナ様の頭脳プレーにはおじさんも勝てなかった模様... 許容できるギリギリをついて実を取りに来てる感じが頭脳 裏にいろんなキャラクターがいる感じもワクワク感があって良くて …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ