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第65話 おじさんは筋書きをなおせない

今週で、ニナ編を、終わらせたい、ので……2回行動!

「くそ! 煙が! 邪魔で! うまく戦えない! どこだ! ガナーシャァアア!」


煙の中、怒り狂ったブレイドは煙が消えるのを待てずに闇雲に光魔法を放ち続ける。

自分が知らず知らずに〈嫌悪〉に向かって撃たされていることに気付かずに。


「ブレイド様! 大丈夫です! 貴方の力ならガナーシャなど倒せます! 落ち着いて気配を探すのです」


ルママーナがブレイドの絶叫を聞いて声を掛ける。

だが、決して煙がはれるまで待てとは言わない。

ガナーシャが言ったことが真実であれば、ブレイドでも勝てない面々がこの事に気付いて動いていたのだから。

彼女らがここに来るまでに決着をつけなければならない。


(彼女らには〈導き〉が通用しないはず!)


ルママーナは、白の庭が生み出した魔法をよく分かっていた。


〈導き〉。

それは、相手の思考を『良い方向』へと導く魔法。

神の子が喜べるような世界を作る為に愚かなことをしてしまう人間達を導く魔法。

神の子に従うよう『作れる』魔法。


だが、この魔法は、自分より上の人間には通じない。

あの【女傑】は勿論のこと、十数年前にウワンデラの凶悪な魔物を屠り続けた【五星】にも通じるとは思えない。


あらゆる剣技を習得し今なお成長を続ける剣士、【剣魔】スライタス。

騎士団からは退く前はスライタスと双璧を成した【剣聖】ヴァルシュ。

圧倒的な実力と指揮能力で荒くれものの冒険者達を束ねた男【束ねる者】グレゴリー。

魔導具や魔法に新しい理論を加え進化させ続ける【先行きの賢者】ユアン。

祝福と呪いを与えた伝説級の剣を作り上げる鍛冶師【血の聖者】マクセリオ。


もし、彼らに〈導き〉の魔法が通じるとすれば、彼女の描く物語は一層輝きを増し、正に伝説となるだろう。だが、彼らはルママーナの思い通りには動かない。


なのに。


(何故あの男の! ガナーシャのいう事には従っているの!?)


ルママーナも知っている。

ガナーシャが、始まりの【白の庭】を滅ぼし、王都を守り抜いた一人だと。

ルママーナの居た北の【白の庭】ではなく、南の【白の庭】を滅ぼした一人でもある。

昔聞いた忌まわしき【黒の館】の生き残り、悪魔の力を得るために、15人の子どもとそこにいた大人を皆殺しにした悪魔のような男。

だが、弱い男。

いつも死にそうになっていたと聞く男。

年も取り力も落ち始めている男。

それだけの男のはず。


英雄の物語の中ならば、取るに足らない役割しか与えられそうにない男。


(その男が、全てを邪魔している!)


ようやく煙がはれて、ボロボロの男の姿が現れる。


男はやはり生気はなく、多少整ってはいるが美貌という点ではブレイドの足元にも及ばない、とルママーナは思う。

だが、その足元にはブレイドの女達が転がっている。


「みんな! なんで……?」


ブレイドの悲痛な叫びに何も感じていないような表情でガナーシャは口を開く。


「なんで? 君がやったんだ。君の魔法で彼女達は倒れた」

「卑怯な真似を……!」

「卑怯? 戦場で都合よく敵が目の前にのこのこ現れてくれると思ってる? そんなわけないだろう。相手より有利な場所を陣取り、遮蔽物に紛れ、相手を視野に捉えられるところの取り合いは既に戦いだよ。そして、味方への被害や影響を考えるのも戦いだ」

「うるさぁああああい!」

「めんどくさくなると直ぐに叫ぶね。君は」


ブレイドが剣を抜いて飛び掛かる。だが。


こきり。


踏み込みの脚が僅かに滑る。


こきり。


一瞬暗闇が目にかかる。


こきり。


小指の力が抜けて剣がすっぽ抜けそうになる。


中途半端な斬撃がガナーシャを襲う。ガナーシャは倒れ込むようにその攻撃を躱すが地面に手をつきバランスを崩し身体を打ち、すぐに態勢を整えることが出来ない。

にやりと笑ったブレイドが剣を逆手に持ち突き刺そうとした時だった。


「大体、叫ぶのは悪手だ。敵に場所を教えている。だから、こうなる。君がさっき叫んじゃってたから」


ガナーシャがそう呟くのと同時にブレイドは自分の右足が動かないことに気付く。

足元を見れば魔法陣が何かの魔導具によって生み出されている。それによってブレイドの足が離れなくなってしまっている。


「わ、罠!?」

「君の周りに張っておいた。罠を張るのも戦いだ」


ガナーシャはその隙を見逃さず、ブレイドの間合いからよろよろと蛇行しながら離れる。

そして、懐から何かを取り出し投げつける。

ブレイドはそれに気付き慌てて切り裂くが、割れたそれから大量の粉が飛び、ブレイドの顔を中心にかかっていく。


「あ、ぐ! 痛い! この……目つぶしか」

「相手の心を削るのも」


ガナーシャはニナに目で合図を送ると、ニナは頷き、多くの初級魔法〈光玉〉を作り出し、教会中を攻撃し始める。

ブレイドにとって喰らっても取るに足らない攻撃。だが、目を塞がれ慌てているブレイドは慌てて上級魔法で防壁を張る。


「うわあああああああ!」

「相手の判断力を奪うのも」


防壁を展開させるために地面に手をつくと手に突き刺さる感触が。

刺さったのはのは先のとがった三角錐に近い形をした金属の塊、カルドロップ。


「そうするために、事前に準備しておくのも」


ガナーシャが煙の充満する中で仕掛けた無数の罠の内の一つが成功する。

カルドロップには毒が仕込まれていた。相手の意識を朦朧とさせる幻覚の毒が。


「全部、戦いだよ」


ニナが初級魔法の後に、しっかり狙いを定めて放った〈白雷〉がブレイドの背中を焼く。


「あ、ぐぅうう……!」


ブレイドは、導かれていた。

ブレイドの性格や能力を見越したうえで、こう動くだろう、こう動かそうとガナーシャは考え、その通りに動かされていた。魔法でもないガナーシャの経験という力で。


「君のやっていることは都合よく相手がやられやすい所にやってきて倒される。それは、ただの、たたかいごっこだよ」

「ふざ、けるな……! 俺からすれば、こんなの、戦いじゃないぜ!」

「そうだね。君の思う戦いと僕の思う戦いの違いか」


ブレイドは、剣を地面に突き刺して踏ん張りながら必死にガナーシャに向かって叫ぶ。

その姿だけを見れば、悪に屈せず必死に戦う英雄の姿そのものだろう。


「ガナーシャ! 一対一で戦え!」

「え? 無理だよ。だって、僕は弱い。一対一じゃ君には勝てない」


ガナーシャは簡単にそう言う。そして、またブレイドとの距離を取る。


「いい加減気付いた方がいい。神様は君の為だけに世界を用意しない。世界には色んな人間と色んな価値観がある。そして、君の物語の為だけに存在している人間は、一人もいないんだ。君もそう」


ガナーシャが上を見上げる。

ブレイドもそれにつられて見上げると、ブレイドが破壊したところから罅が入り、更にニナの〈光玉〉によって天井の一部が落ちてきている。

あれが当たれば流石のブレイドも大きなダメージを受けるだろう。


「ブ、ブレイド様! 誰か! ブレイド様を!」


ルママーナの叫びが響き渡る。しかし、ガナーシャに心を折られ、ニナに〈覚醒〉の魔法を掛けられ、そして、ブレイドの魔法で傷つけられた女達は動けない。


「貴方達! 私じゃ無理なのよ! 誰かなんとかしなさいよ! 嗚呼! ブレイド様ぁああ!」


ルママーナの耳をつく高い叫び声に顔を歪ませる女達。

その目は、それでも自分で助けに行けと言っている。

ルママーナは動けない。こんな状況に追い詰められたことがない故に痛みへの恐怖が勝ってしまっている。

そして、ブレイドもまたそうだった。

今までほとんど傷ついたことのないブレイドにとってこれほどダメージを負う事はなく。

痛みによって集中力も判断力も落ち切っており、ステータスの五分の一も使えてないくらいだった。


それでも、ガナーシャよりも強い。

だが、ガナーシャはどんなに傷ついても追い詰められても常に『弱い』まま。

『すごく弱く』はならない。

同じ『弱い』まま。

それがガナーシャの『強さ』であることにブレイドはまだ気づいていない。


ガナーシャは自分の強さを活かし、ずっと全力の黒魔法を行使し頭を回し続け、ブレイドを追い詰め続けていた。


「ブレイド」


ガナーシャの声にブレイドは身体をびくりと震わせる。


「痛みを感じてるかな? それが死の恐怖だ」


ガナーシャは追い詰める。ブレイドを。徹底的に。


「誰もが平等に訪れる死を抱えて、理不尽が起こりうる戦場で藻掻いて」


ブレイドにもう正常な判断力はない。ガナーシャをじっと見て聞いてしまっている。


「死を乗り越え生き残る。自分も仲間も。どんな手を使っても生き残る。それが」


上から落ちてくる瓦礫を忘れて。


「僕の、戦いだ」


ガナーシャの言葉に何か言おうとしたのだろう。

ブレイドがその美しい顔を歪ませ口を開いたその瞬間、ブレイドは落ちてくる瓦礫を頭に喰らい鼻血を拭き出しながら瓦礫に埋もれていった。

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