第63話後編 おじさん達は悪癖をなおせない
今日は、GWで予定が変則的なので、超早め更新です!
「ああ、あ、あ、あの四人が! こんないとも簡単に! うわ、あああああ!」
「に、逃げろ……って、ぎゃああああ!」
混乱する信者達の中から現れたのは完全に人の形を失った異形の魔物だった。
「あれは……メラさん!? どういうことですの!?」
「無理矢理負の感情を流し込んで生み出した魔物ですね。ああなると、もうっ!」
「……一人、そういう役割を持ったものがいるようですね」
三人の目の前でどんどんと白銀の化け物が生まれていく中、アクアは口元を扇で隠す。
すると。
「うわああああああ! あぎゃああああ!」
信者達の奥の方から叫び声が聞こえる。
「……アクアさん? 何を?」
「……どこかの誰かが、呪いの言葉をあそこにいる方の耳に流し込んだとかなんとか……」
アクアが扇をとって、妖しく笑うと、シーファは困ったように小さく笑い、槍を構えなおす。
「詳しくはあとで伺いましょう。まずは、その者の捕縛と、あの魔物をここから一人も逃がさずに撃退ですわね。それに、他の所へ助けにも行かないと……」
「その必要はない」
教会の入り口から声が聞こえ、シーファが振り返ると、緑髪の男と赤ら顔のおじさんが現れる。
「あなた方は……確か、お兄様の……」
「グレゴリーおじ様……おじ様が、本部から離れるなんて冒険者ギルドは今、大混乱でしょうに。こっちまで来て……早く帰らなくて大丈夫ですか?」
「あの馬鹿の予感は早めに潰さないとより仕事が増えるんだよ」
「ユワンさんっ! お久しぶりですっ! 相変わらず酒くっさいですっ!」
「ホウホウ! メラかたい事言うな! 今日は宴だ。飲まずにはいられねえよお!」
グレゴリーと呼ばれた緑髪の男がこめかみに指を当てながらアクアに、ユアンと呼ばれた赤ら顔の男がメラにそれぞれ答えながら前へと進んでいく。
「んで、グレゴリーどうする?」
「考える気はないのか!? お前には! ええい! 皆聞け! メラ、魔震槌で可能な限り動きを止め、相手の脚を止めろ。アクア、『外』に突入の合図を。ユアン、お前ので白銀を戻せ。ガナーシャの妹、道は開く! 白銀化させた者を捕縛しろ!」
「「「「はい!(うーい)」」」」
グレゴリーのよく通る高い声が教会内に響き渡り、それぞれが同時に動き出す。
メラが魔震槌を叩き、白銀の化け物を震わせる。
そうして、動きが止まった集団に向かって、グレゴリーが指示を出しながら高めておいた魔力を解放する。
「命令だ! 『道を開けろ』『白銀化させた者は動くな』!」
一直線に放たれたその魔力は、信者や白銀の化け物を押しのけていく。
そして、一人の耳から血を垂れ流している金髪の男とグレゴリーたちの間に道を作り出す。
「今だ! ガナーシャの妹!」
「はい! ガナーシャお兄様の妹ですとも!」
シーファは、四色の魔力を纏わせながら金髪の男の元へと向かう。
金髪の男は禍々しい黒の魔力を帯びた短剣をシーファに投げつけるが、突如地面から飛び出してきた土の柱に阻まれる。その横からぐるりと風に流されながらあらわれたシーファは、炎と水をぶつけ霧を作り出す。その霧に包まれ悶えていた金髪の男だったが気付けばシーファの槍が首元に当たっていることに気付く。
「評価B+だ! ガナーシャの妹!」
「お兄様の妹としてはまだまだですわね!」
悔しがるシーファを見て笑いながらアクアは扇で再び口元を隠す。
『お待たせしました。皆様、突入。と、グレゴリーギルドマスターが言っています』
その音が教会の外に響き渡ると、沢山の冒険者達が突入してくる。
それを見た信者はその数に目を見開く。
「な、なんでこの数の冒険者が!?」
「ウワンデラの冒険者舐めるなよ。俺達上級冒険者はグレゴリーの旦那に散々しごかれ教え込まれて、騎士団にも負けねえくらいの規則やらなんやらを叩きこまれてるんだよ……! 危険度88、白銀! ぜーんぶ頭の中に刻み込まれてる……! 報酬額も対策も全部なぁあ! 良かったぜ、あの地獄が一つでも報われてよお!」
血の涙を流しながら、突入してきた冒険者達の先頭にいた男が叫ぶ。が、何かに気付き赤ら顔のユアンの方を向く。
「って、ユアンさん! あんたさっきみたいに無力化しろよ! 何、呑気にしてんだよ!」
「アウアウ、分かってるよ。うるせえなあ。余裕のねえ男はモテねえぞ。渋く行こうや、渋くな」
そう言ってユアンは袋から手いっぱいのコインを取り出し、白銀の化け物たちに向かって投げつける。
すると、コインは白銀の化け物に張り付き、
「ぎゃわああああああ……ああ、あ、あ……」
魔力を吸い出し黒く染まり、元の人の姿に変える。
「ホウホウ! どうだあ! 愛しい我が子『魔吸貨』の威力は! しびれるだろう?」
「よし! 今だ! 全員突入! とっとと終わらせて一杯奢らせろ!」
グレゴリーの一声で冒険者達が綺麗に扇状に広がり信者達を取り囲んでいく。
シーファはその様子を見ながら金髪の男をグレゴリーの元へ連れていく。
「おお、ご苦労だったな、ガナーシャの妹」
「流石ですね。まだエイドリオン家の者はここまで強く統率はとれておりません。お兄様の従者として恥ずかしいですわ」
「お前は、自分の家の者を、冒険者ギルドの上級と同じレベルにしようってのかよ。全く、アイツの妹だけあるな」
「お褒めに預かり光栄ですわ。それより、もう一つの方は……」
「知らん!」
シーファのその言葉に、眉間に深い皺を刻んだグレゴリーが悲しそうに叫ぶ。
「あの『問題児』二人と、完全イエスマンだぞ。俺の手には余る。ま、ガナーシャが決めたんだから、大丈夫だろ」
「そうですね、お兄様ですから」
「全く、アイツは……俺達それぞれにこんな長文送るかね……あいつの心配性は病だな。そして……」
遠くで大きな爆発音が聞こえグレゴリーは憂鬱そうにこめかみを抑える。
「あれらのも病だな……」
その爆発音がした教会は異常だった。
「はっはっはあ! どうした!? 英雄候補! もっともっと見せてみろ! お前たちの力を!」
「ちょ、ちょっと、サファイア様!?」
「あの女、ばけもんかよ……!」
気絶した信者達の山の上で笑うサファイアを呆然と見上げるリアとケン。そして……。
「ちょ、ちょっと、スライタスん、ヴァルシュん……落ち着こうかぁ?」
「ははは、私はいつも冷静だよ。ちょっとサファイア様を見て血が滾ってきただけさ」
「サファイア様を見て、とは? 聞き捨てなりませんね」
笑顔で睨み合いながら襲いかかってくる信者達をいとも簡単に倒していく爽やかなおじさま二人の間で焦るマックがいた。外で待機している冒険者達は、彼女らが王都に被害を出さないようにと必死な表情で取り囲んでいた。
お読みくださりありがとうございます。
コンテスト用短期連載文字数超えたので短編上げなおしました!! 良ければご一読ください…!
魔女と魔法少女バディものローファンタジーです!
『魔女に魔法少女』
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