第62話後半 おじさんはそのやり方をなおせない
「そ、そうだけど、何かって、その……! かっこわるいぞ!」
しどろもどろになりながらブレイドはガナーシャに反論をしようとする。
「正々堂々戦って、相手を倒す。それが、正しい戦い方だろ!」
「さあ」
「戦い方に正しい間違っているがあるのか僕には分からない。ただ、一つ言えることは」
「君の戦い方は、無駄に人の命を奪うから嫌いだ」
ガナーシャの疲れ果てた小馬鹿にするような笑いに、ブレイドは顔を真っ赤にさせると、白い魔力を噴き出させる。
「神よ! 我が右手に断罪の力を与えたまえ、白き正義の光よ集まれ!」
ブレイドが下ろした手に白い魔力を凝縮させ始めるが、ガナーシャは表情を変えずじっとブレイドを見つめる。
「いいの? そんな大魔法を放って。王都壊れるよ?」
「……! 一々余計な事言うな!」
「余計? 壊れたものも死んだ命も余計?」
ガナーシャはブレイドから目を離さない。じっと見つめ、指をせわしなく動かし続ける。
その真剣な表情にブレイドは言葉を詰まらせるが、代わりにとルママーナがガナーシャに向かって口を開く。
「神は時をも操ると言います。ブレイド様が神の境地に至れば全て元通りです」
「そ、そうだ!」
ルママーナの言葉に大きく頷き笑うブレイドに今度はニナが話しかける。
「壊しても殺しても元通りに? 元通りにはならないんですよ。壊したという事実も殺したという事実もなくならない。決してなくならないんです……!」
ニナは悲痛な表情でルママーナ達に訴えかける。すると、ルママーナは悲しそうな表情で言葉を返す。
「だとしても、正義に犠牲はつきものよ。悪を滅ぼすには必要なこと」
「そうやって都合のいい事ばかり言って。いろんな場所を無駄に壊して、人を連れ去り、理を崩し、あとのことは知った事ないですか。英雄候補が聞いてあきれますね」
ニナがきっと睨みつけるが、ルママーナは『悲しそうな表情』でニナを見るだけ。
「彼らは生きている。彼らには彼らの人生があるんだよ」
「うるさい! じゃあ、お前は! お前は何をやったんだよ!」
ルママーナを見るガナーシャ、そのガナーシャを睨みつけるブレイド。
四人が互いを責めながら魔力を高め続け、一触即発の空気に周りの女達は固唾をのんでいる。
「この人は、ギルドや騎士団の方たち、そして、【ウワンデラの叡智】と一緒に形を作りました」
「かたち?」
「犯罪や災害を未然に防ぐよう対策を張ると同時に、誰もが強くなれる訓練法や集団戦法の確立をし、継続的な戦闘力の保持、そして、失った人たちに対する保護や保証の制度。これらを作ったのです」
「そ、それがどうした!?」
「どうした? はあ、これだから目の前の魔物ぶっ倒せばそれで世界平和だと思ってる頭空っぽ猪もどきは」
「こら」
ニナの魔女の声にガナーシャがしかると、ニナはぺろと舌を出し、表情を引き締めなおす。
そして、冷たい目でゆっくりとブレイドに話しかける。
「世界というのは何か一つが全ての原因ではないんですよ。強いというのは凄い事です。でも、やさしさだって凄くなれるんですよ。貴方のような単純馬鹿が見えていないだけで」
ニナの言葉にブレイドは首を傾げる。
やさしさがすごいというのはブレイドは分かっている。やさしければ、いい。
物語の主人公は大体やさしい。だから、ブレイドも女達にやさしくしたし、ブレイドにやさしくしてくれる人には出来るだけやさしくした。きらいな奴らや知らないやつらは知らない。もうあわない奴らも知らない。勝手になんとかするだろう。好きな女達にやさしくすれば、彼女達は自分を愛してくれる。
やさしいは、いい。
ブレイドはそう思っていた。
ガナーシャはそんなブレイドをじっと見て、諦めたように周りを見渡す。指を動かしながら。
「君達は、王都を歩いたかい?」
「王都で笑う子どもたちを見た?」
「もしこれからブレイドがあの魔法で王都を壊したとして」
「子どもたちにどう言うの?」
「大人が自分たちにとって都合の悪いことをしたから壊した。だから、何も言うなって?」
「それで王都を壊して復讐を完了させて、国の機能を停止させて、多くの人間を泣かせて。君達の家族だってこの国で生きているんだろう?」
ガナーシャの言葉に女達は言葉を詰まらせる。
全てを王都や王のせいにし国を混乱させるという現実に対して、彼女達の復讐の炎はあまりにも弱く、覚悟は脆かった。
そして、先ほどから頭にかかっていた靄のようなものが晴れていくような気がしている。
だが、その靄が晴れれば晴れる程身体が震えてくる。
その様子に気付き、ハッとした表情を浮かべたルママーナが白い魔力を霧のように舞わせ始めていたニナに向かって叫ぶ。
「余計な事を!」
「余計な事? 人が自分の考えを持つことが余計な事ですか? 大体、わたしがやっているのは」
ニナは笑う。馬鹿にしたように笑う。
「覚醒の魔法です。嫌悪や思考誘導、催眠といった魔法から自分の意識を取り戻す為の。ただ……彼女達にとっては己の罪と向き合う恐怖もあるでしょうが。まあ、いつまでも子どもぶって好き勝手振舞って欲しくないので大人になってもらいましょう」
「お、おげええ」
最初に、膝をついたのはシャルだった。こらえきれず吐き出し咽るシャルは身体中を震わせ泣いていた。
「シャル! くそ! ガナーシャ! お前! 国を壊したら家族が困るだろうなんて! 脅迫だ!」
「脅迫? 脅迫じゃないよ。事実だ。実際僕は何もしていない。考えなしに壊そうとしているのは君達だ。いいかい、ブレイド」
ガナーシャはじっとブレイドの目を見る。自分の真剣さを伝える為にじっと。
逸らすなよと目で訴えながら。
「物語に酔うなよ」
じっと。
「ここは現実だ。人は死ぬし、生きるのは面倒なんだよ」
厳しい目で。
「面倒でもその先に見たい笑顔があるから人は乗り越えるんだ」
伝える。
「だから、僕やこの子は受け止める。過去も傷もこれからくるであろう未来の障害もその先に笑顔があると信じて、歯を食いしばって乗り越えるんだ」
ブレイドの眉間により深い皺が刻まれた瞬間、ガナーシャは指を折る。
ブレイドの右足を少し滑らせふんばりを弱める。
ブレイドの左目に黒い魔力を当て気を逸らせる。
ブレイドの左手に少しだけ力を入れさせ抑えた右手の位置を僅かにずらさせる。
ブレイドの右肘に入った力を少しだけ抜けさせ角度を僅かに変える。
ブレイドの右手に集まった魔力にほんの少しだけ不純物を混ぜ暴発を誘う。
そして、じくりとブレイドの身体の中で黒い魔力が蠢く。
ガナーシャに意識を奪われていたブレイドは、一瞬遅れて自身の魔法の異常に気付く。
だが、ブレイドはそれを強引に放とうとガナーシャに右手を向ける。
その時、方々から煙が噴き出し始める。
「こ、これは……? うわああ!」
煙に動揺したブレイドの魔法は暴発し、ブレイドの手元で弾ける。
その光が収まった頃には、教会中に煙が漂っていた。
「ガ、ガナーシャ! 何をした!?」
「僕の友人が作ってくれた魔力阻害の魔導具だよ」
煙の中でガナーシャの声だけは響き渡る。
「王都の事件で僕達は学んだんだ」
外から悲鳴だろうか歓声だろうか声が聞こえる。
「今度は奪わせない」
その声はガナーシャを讃えるような声にブレイドには聞こえる。
煙の中、女達は誰もブレイドの名を呼んでくれない。
「その為に、僕はみんなで強くなったんだ」
「うるさぁああああい!」
煙の中、ブレイドはガナーシャの言う『みんな』が、そこに見える信頼が腹立たしくて大声で叫んだ。
お読みくださりありがとうございます。
コンテスト用短期連載文字数超えたので短編上げなおしました!! 良ければご一読ください…!
魔女と魔法少女バディものローファンタジーです!
『魔女に魔法少女』
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よろしくおねがいします!




